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ボクは好奇心のかたまり (遠藤 周作)

 遠藤周作氏の著作は、実のところ小説もエッセイも読んだことがありませんでした。
 今回は、たまたま満員電車の中でも開けるようなかさばらない文庫本が切れていたので、納戸の本棚から取り出してきたのです。1979年刊の文庫本ですが、単行本は1976年刊ということなので、かなり昔の本ですね。

 中身はと言えば、確かにユーモアに富んだ楽しい内容です。評判どおり遠藤氏は、軽妙洒脱なエッセイの書き手ですね。

 氏の “仲間内の話題” もあるのですが、そこに登場する方々(佐藤愛子氏北杜夫氏等々)のエピソードも面白く、それはそれで興味深く読みました。
 たとえば、一例を挙げるとこんな感じです。

 以前、遠藤氏はピーターさんと同じマンションに住んでいたそうです。そのマンションからピーターさんが引っ越した後、しばらくしてからのできごとです。

(p183より引用) そのピーターさんとその後、テレビ局でバッタリ顔をあわせた。なつかしい思いで、
「あたらしいお住まいはどうですか」
と私がたずねると、気に入っていますと答える。・・・だがそれから何を話しても通じない。我々のいたマンションのことはピーターさんはすっかり忘れたようである。
「家賃をまたあげると言っています」
「そうですか」
 それからピーターさんは私の顔をじっと見て、
「わたくし、研ナオコと言うんですけど」
 と恨めしそうに言った。

 若い頃のピーターさんや研ナオコさんのイメージが湧く方であれば、確かにありそうと合点がいくのではないでしょうか。もちろん、後で研さんとピーターさんとの間でも話題になったのは間違いありません。

 さて、こういったユーモアに富んだいくつもの話の中に、ちょっとシニカルなくだりやシリアスなフレーズも織り込ませています。

(p213より引用) 中学生の頃はヤジさん、キタさんの話をよみ、これはひどく感激した。岩波文庫の黄帯をわざわざ買ってきて、膝栗毛を何度も何度も読みかえし自らは将来、ヤジさん、キタさんのような人物になろうと大志を抱いたものである。この影響はいつまでも心に残っていて戦争中いやな目に会うたびに膝栗毛を読んだ。そして人間がまだ信じられるという気持になった。

 日本の精神風土におけるカトリック信仰の問題をテーマにした作品を残した「小説家」遠藤周作としての一面も、ほんの少し垣間見られたような気もします。



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