(注:本稿は、2020年に初投稿したものの再録です。)
ノンフィクション作家の柳田邦男さんが推薦していたので手に取ってみました。
最近読んだ後藤正治さんの「リターンマッチ」「スカウト」も人物に焦点を当てた作品ですが、本書の対象もやはり「人物」。読売新聞社会部からフリーのジャーナリストに転身して活躍した本田靖春氏の人となりを、彼の著作を一冊ずつ取り上げながら描き出していきます。
まずは、本田氏の「書き手としてのスタンス」について。
金嬉老事件をテーマにした「私戦」を取り上げた章の中で、本田氏の語った言葉を次のように紹介しています。
この立ち位置は、ノンフィクション作家としての “矜持の顕れ” でもあります。
そして、それに加えて、本田氏の数々の作品を通底する主題は「戦後」でした。
なので、本田氏の「戦後」という時代の区切りは「60年安保闘争」であり、それゆえ美空ひばりの歌とは「柔」で決別したのです。
しかし、何を置いても本書を読んで感じたこと。本田氏ほど出版業界の多くの方々の心に残る人物は稀でしょう。
病のために片目を失明し、両足は切断、指の壊死が進んだ右手にペンを縛り付けて最後まで原稿を書き続けたといいます。
講談社の乾智之氏が本田氏の最後となった原稿を受け取りにいったときの様子です。
そして、病院の玄関先で早智夫人が乾氏に「お嬢さんに」といって小箱を手渡しました。駅に向かう道すがら、その箱を開けてみると、そこには可愛らしい手製のお手玉が入っていました。
まずは、本田氏の代表作のひとつ、墓碑にも記された「不当逮捕」を読みましょう。