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6ヵ国転校生 ナージャの発見 (キリーロバ・ナージャ)

(注:本稿は、2023年に初投稿したものの再録です。)

 いつも聴いている茂木健一郎さんのpodcast番組に著者のキリーロバ・ナージャさんがゲスト出演していて、本書の紹介をしていました。

 ナージャさんは、現在クリエイティブ・ディレクターとして活躍中ですが、小学生になって以降、ご両親の仕事の関係で6ヵ国を巡る転校を経験しました。
 その時の体験を中心に、各国の教育の実態を紹介した本書の内容は、知らなかったことも多くとても興味深いものでした。

 それらの中から、特に私の関心を惹いたところをいくつか書き留めておきます。

 まずは「教育システム」の違いから。

(p50より引用) 飛び級制度などがあり、個人の「能力」に応じて学びを変える欧米と、「能力」ではなく「年齢」で学びを区切る日本。実はスタートラインから教育に対する考え方は大きく異なっているのだ。

 という実態の紹介にはじまり、

(p57より引用) 同じ「ランチ」をとっても国によってさまざまなやり方や考え方がある。みんなで同じ場所で同じものを食べることで一体感を生もうとするロシアや日本。クラスメートよりも家族との食事時間を大事にするフランス。多様性を大事にし、個人の宗教や主義や思想に柔軟に対応するイギリスやアメリカ。

というようにその他の点でも違いは様々。
 学校での座席の配置、体育授業での集まり方や服装、テストでの持ち込み等々、こう比べてみると、日本は “少数派” に属することが多いようですね。

 ナージャさんは、転校した各国で「水泳教室」にも通ったのですが、そこでも面白い経験をしました。「スピード重視」のロシア、「カタチ」にこだわる日本、「持久力」を求めるアメリカ。

(p78より引用) スピード、カタチ、持続性。確かにどれも重要だ。でもどれに重点を置くか、その理由はどこにあるか。水泳を通して子どもたちに何を学んでほしいのか。そもそも何のために習わせるのか、何のために習いたいか。そのことを考え始めたら自分にとってもベストなやり方が自然と見えてくるのかもしれない。これは、もしかしたら、あらゆるスポーツや勉強に共通して言えることかもしれないと思うと、かなり興味深い。

 また、「第2章 大人になったナージャの5つの発見」の章で示されたヒント、

 ・自分の「ふつう」は個性
 ・「苦手」は克服しないで活かす
 ・「人見知り」は能力
 ・「見方」を変えて、いいところを探す

もなるほどと首肯できるものでした。6か国での転校経験からの気づきですが、これらはナージャさんが自らの感性で結晶化した叡知です。

 さて、本書を読んでの感想です。

 よく言われる “均質性” や “正解信仰” といった日本人の「集団的」「受動的」特性は、“自らの頭で考える” ことを教えられた欧米的な「個人的」「能動的」主体のメンタリティとは全く異質なものです。

 年少時からの教育により刷り込まれた素地が異なるわけですから、日本社会のさまざまな場に欧米流の仕掛けをそのまま導入しようとしても、なかなかスムーズに機能しないのは当然です。

 たとえば、以前導入された「ゆとり教育」もそのひとつですし、昨今 “働き方改革” の文脈で登場している「ジョブ型雇用」もそうでしょう。
 一部経営者の立場では推し進めたいところでしょうが、多くの企業の現場実態としては正直なところかなり無理筋で強引なシステム変更だと思います。
 日本の労働法制や雇用慣行自体がまだ雇用の流動化に十分対応したものではありませんし、いわゆる「メンバーシップ型雇用」形態がより相応しい職場や職種もあるでしょう。
 「ジョブ型雇用」を全否定するものではありませんが、“0 or 1の議論” での極端な方針変更はあまりに安易で短絡的です。

 「違い」に “正誤” “良否” “優劣” といった価値観を添えるのではなく、“違っていること自体を当たり前” だと思い、素直に “違いを受け入れ” “違いを認める”、そして違いを尊重し、双方に活かそうとする、そういった多様性容認社会を目指したいものですね。

(p162より引用)
子どもが変われば、ベストは変わる。
時代が変われば、ベストは変わる。
目的が変われば、ベストは変わる。
正解はない。 違いがあるだけ。
あなたにとってのベストはなんですか?

 ナージャさんも本書の「おわりに」でこう締めくくっています。




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