遊廓と日本人 (田中 優子)
(注:本稿は、2022年に初投稿したものの再録です。)
いつもの図書館の新着本リストの中で見つけました。
著者の田中優子さんは元法政大学学長で江戸文化の専門家です。田中さん関係では、以前、松岡正剛氏との対談集「日本問答」という本を読んだことがあるのですが、その博識さとキレのある語り口が強く印象に残っています。
本書のテーマは「遊郭」。
落語ではよく登場する場所ですが、その実際については全く知りません。私にとっては、本書で初めて聞き知ったことばかりだったのですが、その中から特に印象に残ったところをいくつか書き留めておきます。
まずは、「遊郭」の位置づけ。
もちろん「廓」として女性(遊女)の人権や健康を害する場ではありましたが、その他、別の面も有していました。
さて、江戸期に作られた遊郭ですが、明治以降も幕府に代わり政府公認の遊郭は引き続き存在し続けました。
そこでの遊女の人権問題は、当時の「不平等条約撤廃交渉」においても関係していたそうです。
その後、「貸座敷渡世規則等の制定」「近代公娼制度の成立」等、仕組みは変化しながらも遊郭類似社会は存続しました。
さて、本書ですが、「遊郭」をテーマに、その歴史や遊女たちの暮らしぶり等、さまざまな事実・実態・エピソードが盛りだくさん。そのほとんどが知らないことだったので、大いに刺激になりました。興味を抱いた事柄に関する知識をサクッと概観できる本はとてもありがたいですね。
とはいえ、本書が目指したものは、そういった “文化としての遊郭社会” の紹介だけではありません。
遊郭社会の背後に通底する「ジェンダー差別」や「家族制度」に関する問題。それらは、コロナ禍の今なお現代的課題として残存している。その状況を何とかして解決したい、著者が本書をもって強く訴えているメッセージです。
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