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ワンクリック ― ジェフ・ベゾス率いるAmazonの隆盛 (リチャード・ブラント)

(注:本稿は、2013年に初投稿したものの再録です)

 以前から気になっていた本です。

 ロングテールを見事に事業戦略に取り込み最初の成功を勝ち取ったamazonは、その後も事業ドメインを拡大しつつ発展を続けています。
 その原動力となっているは、もちろんCEOジェフ・ベゾスのリーダーシップ。

 本書では、ジェフ・ベゾスの生い立ちから始まるamazon発展の道程が明らかにされています。

(p110より引用) 立ち上げ時期のアマゾンは、試行錯誤、推測、チャンス、そして臨機応変な対応に満ちていたと言える。その間、少人数のアマゾンチームが重要な点を見失うことはなかった-顧客の財布から少しでも多くしぼり取ろうとするのではなく、顧客のニーズを重視し続けたのだ。顧客が気に入る点と気に入らない点に注目した。アマゾンが幸先のいいスタートを切れたのはこのアプローチのおかげであり、このアプローチはその後も灯台としてアマゾンの進む道を照らしてゆく。

 アマゾンの誕生と成長は、まさにインターネットが急速に立ち上がったドットコム・ビジネス黎明期と軌を一にしています。オンライン書籍販売は、立ち上がり当初の苦労はありながらも比較的順調に売上を伸ばしていきました。
 そして、その成長期にベゾスがとった戦略は、利益確保ではなく、顧客サービス向上のための投資でした。売上増による株価上昇が大規模投資の資金源でした。

 その後、いくつかの失敗を経ながらもアマゾンは事業を拡大していきました。たとえば、アマゾンウェブサービス(AWS)の立ち上げあたりに触れたくだりです。
 2000年ごろからアマゾンではアフィリエイトプログラムの拡張を行っていました。その過程で、アマゾン社内のデータベースと業務用ソフトウェアを分離して、データ部分をパートナーに提供するようにしたのです。

(p235より引用) アマゾン経営陣は、これは金の鉱脈になりうるとすぐに気づく。このデータやツールを社外のプログラマーに提供すれば、実質的に、新製品の開発を無料でアウトソーシングできるからだ。こうして。2002年7月に「アマゾンウェブサービス」が立ち上げられた。

 この仕掛けがクラウドコンピューティング進展の文脈に乗って独立した事業として発展していきました。

(p242より引用) 一見すると小売業とクラウドコンピューティングはかけ離れているように感じられる。接点は、精巧なコンピューターサービスをアマゾンが自社開発したという事実で、この能力を提供すれば料金が徴収できるというわけだ。・・・この事業を見れば、ベゾスが思いきって新しいチャンスをつかみに行く人物であることがよくわかる。

 ただ、著者は、これにちょっとお化粧をした程度の内容しか紹介していません。現在、アマゾンが提供しているサービスの大きな柱であるAWSがどういう経緯で事業化されたのかはとても気になる点だったのですが、本書からは期待はずれの情報しか得られません。読者が唸るような生々しいエピソードが圧倒的に不足しています。キンドルについても同様です。

 以前、ウォルター・アイザックソンの「スティーブ・ジョブズ」や、デビッド・カークパトリックの「フェイスブック 若き天才の野望」を読んだのですが、両書で見られたような主人公の実像に迫る深さや厳しさがほとんど感じられないのです。

 とても残念なのですが、正直なところ、本書で語られている内容をつかむには、巻末の10ページ程度の「解説」を読めば十分のような気がしました。



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