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権威主義の正体 (岡本 浩一)

(注:本稿は、2022年に初投稿したものの再録です。)

 日本監査役協会のオンライン講義で著者の岡本浩一氏(東洋英和女学院大学教授)が「監査役のための組織風土講義」というテーマでお話しをされていました。
 語り口も面白く興味深い内容でもあったので、何か1冊岡本氏の著書を読んでみようと手に取ったものです。

 2004年出版なので少々古い本ですが、それでも近年の社会・企業等の実態を省みるに、いまだに当時の議論がかなりの程度機能していると再認識しました。

 まず、議論の基本的概念の整理として、著者が示す「権威主義的人格」を説明しているところを書き出してみます。

(p124より引用) 権威主義的人格とは、社会的行動にあっては「権威主義」、問題解決行動にあっては、「反応の硬さ」、認知傾向にあっては、「あいまいさへの低耐性」という形で捉えられる複数モードのパーソナリティだと考えられる。

(p126より引用) 権威主義的人格とは、本来の善悪の判断を、教条、因習、ファシズム、反ユダヤ、自民族中心などに関連する判断と独善的に置き換えてしまい、独善的な善悪判断をする可能性のある人格のことである。

 著者は、こういった権威主義的人格のリーダーやメンバーによって生起する「権威主義」の様々な特徴を列挙していくのですが、

(p159より引用) 権威主義的風土は、ある一定の段階を超えると加速するようになる。その加速の臨界点は、肯定的意思決定に属人思考を用い、否定的意思決定に形式主義が用いられる段階である。

といった指摘は、大いに首肯できますね。

 さて、本書を読み通しての感想です。

 著者の立論において、提示された「属人思考」「認知的複雑性」といったコンセプトがうまく読者の理解を助けているように思いました。

(p128より引用) 認知的複雑性の低い人は、複雑な情報を複雑なまま処理することが苦手であるため、教条や権威など単純で明瞭な概念によって自分の認知を割り切る傾向が強く出ることになるだろう。このように考えてくれば、認知的複雑性の低い人が社会に適応していくプロセスで権威主義的になりやすいのだと考えることには理があるように思われる。

 といった説明はスッと腹に落ちますね。(今日の社会を見渡しても、幾人もの顔が浮かびますねぇ)

 本書が取り上げる「権威主義」は今の企業(組織)にも多かれ少なかれ存在しています。
 最後の「第7章 現代日本の権威主義」の章でも「仮面をかぶった権威主義」の項で列挙されている権威主義的現象として「成果主義」が挙げられていますが、昨今の「JOB型雇用」に係る短絡的な議論の進み方も同類でしょう。

 ただ、ちょっと前の著作であるためか、本書で示されている企業実態のいくつかは、いつの時代のものだろうといった昭和感満載の例示も見られました。
 上司の引っ越しの手伝いをする部下、社員旅行への参加強要などは、(私の社会人なり立てのころ(1980年代前半)ならともかく)今となっては、流石にちょっとノスタルジック過ぎますね。



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