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1万円の世界地図 (佐藤 拓)

 たまたま図書館の書架で目についたので読んでみた本です。

 「読み物」というよりも、テーマごとに次々に統計データを示し、それにサクサクとしたコメントを加えたデータ集のような体裁です。

 さて、いくつかの統計データからみた日本は、裕福さという点では世界のトップ集団にあるようです。
 ただこれは平均値の議論です。

(p76より引用) 国際比較をおこなってきたなかで、国際間の大きな経済的格差がかいま見えてきた。・・・「一人あたりの可処分所得が高い都市ランキング」では、スイスのチューリッヒとインドのデリーでは16倍近くもの開きがある。
 もっとも、それは国民・市民の平均所得を比べてのことであって、そこに住む個人に焦点を当てれば、経済格差の問題はさらに深刻化する。

 本書では、経済・教育・医療といった統計データから、世界に広がる「格差」の実態も紹介しています。
 そこで示された数字は、改めて「世界の歪み」の現実を認識させるものです。

(p110より引用) 教育を受けられない状況は、貧困を固定化し、そこから抜け出す道を途絶させている。
 国連では現在、子どもを小学校に通わせるために、学校で給食を配るプロジェクトを進めている。
 給食を配ることで、親は子どもに与えるべき栄養を、少なくとも一日に一食分は確保することができ、それが子どもを学校に通わせる最大の動機の一つとなるのである。

 翻って、日本です。
 本書の書かれた当時(2007年発行)、日本の国民総所得は世界第2位。ただ、国民一人あたりの国民総所得となると11位、さらに労働生産性となるともっと下位に甘んじるようです。

(p132より引用) 労働生産性は、各国のGDP(国内総生産)を全労働者の総労働時間で割って求めたもの。・・・
 日本の労働生産性はOECD30カ国のうち、20位という低さである。

 著者自ら、「前書き」で統計のマジックについて指摘しています。

(p7より引用) もっとも、統計には主観や恣意がつきものである・・・評価のもととなった数字そのものは正しいとしても、集められた数字のうち、どれを採用してどれを捨て去るか、あるいはどれに重きをおきどれを軽視するかによって、・・・順位なんぞは容易に入れ替わるからだ。

 数字をどう使うか。
 数字により隠れた実態を顕にすることもできれば、表したい実態?に合わせて適宜の数字を選ぶこともできます。
 数字との付き合い方は、侮りがたく一筋縄ではいきません。


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