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ルポ 貧困大国アメリカ (堤 未果)

 同じようなテーマの本としては、先に小林由美氏の「超・格差社会アメリカの真実」という著作を読んでいます。

 その本と比べると、本書はよりジャーナリスティックです。著者は、数々の取材を通して、今日のアメリカの「貧困」の実態を明らかにしていきます。そして、その悲惨な状況は、極端な市場原理主義が引き起こした悪弊だと断じています。
 アメリカでは、「貧困」がビジネスの種にすらなっているのです。

(p6より引用) 「サブプライムローン問題」は単なる金融の話ではなく、過激な市場原理が経済的「弱者」を食いものにした「貧困ビジネス」の一つだ。

 このビジネスの世界では、

(p9より引用) 「弱者」が食いものにされ、人間らしく生きるための生存権を奪われた挙げ句、使い捨てにされていく。

 こういった「貧困ビジネス」の多くは、政府の社会インフラ構築や社会福祉政策の一環として営まれていた事業の「過度の民営化」の結果生まれたものでした。

 ハリケーン・カトリーナの被害は、民間委託への行き過ぎたシフトが一因だと考える元FEMA(連邦緊急事態管理庁)職員の言葉です。

(p46より引用) 「国民の命に関わる部分を民間に委託するのは間違いです。国家が国民に責任を持つべきエリアを民営化させては絶対にいけなかったのです」

 こういった叫びがあがっている対岸では、こういう主張も声高に語られています。ハリケーン・カトリーナによる南部都市の潰滅をどう位置づけるのか、米国保守層の典型的思考が現われたコメントです。

(p51より引用) ブッシュ大統領の復興計画づくりに力を貸した「共和党研究グループ」の世話役の一人であるマイク・ペンス下院議員は、・・・共和党は被災地の瓦礫の中から資本主義の理想郷を出現させると言っている。

 過度の市場原理主義がもたらす貧困は、そのほか人々の身近なところで顔を出しています。

 例えば、「自由競争が生み出した経済難民」
 メキシコからの移民の子であるマリアの言葉です。まだ高校生のマリアにこう語らせる現実は、やはり歪んでいるとしか言えないでしょう。

(p57より引用) 「自由競争に負けた私たちは移民となって今度はこの国に入国し、社会の底辺から大企業を支えてゆくんです」とマリアは言う。

 その他、すべての人々の生活に密着した「医療」の世界でも非常に深刻な問題になっています。

(p83より引用) 「市場原理」が競争により質を上げる合理的システムだと言われる一方で、「いのち」を扱う医療現場に導入することは逆の結果を生むのだと、アメリカ国内の多くの医師たちは現場から警告し続けてきた。

 にもかかわらず、その警鐘はそれを聞くべき人の耳には入りませんでした。一度病気になっただけで、高額の医療費負担に耐え切れず「貧困」」に落ち込んでいく多くの人々がいるのです。

(p95より引用) 「民主主義であるはずの国で、持たぬ者が医師にかかれず、普通に働いている中流の国民が高すぎる医療保険料や治療費が払えずに破産し、善良な医師たちが競争に負けて次々に廃業する。そんな状態は何かが大きく間違っているのです」
 いのちの現場に格差や競争を導入することを許してはいけないと、アメリカ国内で声を上げ始めた医師の数は決して少なくないのだ・・・

 本書でレポートされたアメリカの実態は、日本にとっても「対岸の火事」ではなく「他山の石」とすべき警告です。
 「豊かな中流層の崩壊」から「極く少数の富裕層と大多数の貧困層」という「極端な二極化」へ、この市場原理主義がもたらした現実をどう意味づけるか。同じ道を日本が歩んでいるとの肌感覚は、今や多くの人々が抱いているものだと思います。

(p188より引用) 「個人情報」を握る国と「民営化された戦争ビジネス」に着手する企業との間で、人間は情報として売り買いされ、「安い労働力」として消費される商品になる。・・・この顔のない人間たちの「仕入れ先」は社会保障削減政策により拡大した貧困層、二極化した社会の下層部だ。たとえ一国内であれ地球全体であれ、格差は拡大すればするほど戦争ビジネスを活性化させ、そこから出る利益を増大してくれる。

 冒頭の「貧困ビジネス」が、アメリカでは「戦争ビジネス」と結びついているという現実は、非常に重いものがあります。



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