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フィジャックで聴いたAmazing Grace【世界多分一周旅 ルピュイの道2023⑤】

久しぶりの歩き旅カミーノで、何もかもが体に沁みた初日。
翌朝、体中の痛みで目が覚めた。
現実すぎる目覚め。

14kgのバックパックは、鈍った体に重すぎたらしい。初日に9時間歩いたせいで、ベルトの摩擦で腰の辺りが痛むし、右足の親指の爪の付け根が痛い。股関節ももちろん痛い。ベッドから起き上がるのに苦労したが、これまた不思議なことに、1回目の朝ごはんに巨大すぎるバナナを食べながら歩いているうちに、あちこちの痛みは少しおとなしくなって、力が湧いてる。

2022年12月~2013年11月に世界をぐるりと旅した「世界多分一周旅」の途中の、歩き旅「ルピュイの道」の記録。
2019年の春に、フランスの「ルピュイの道」を歩く旅をして、コンクという町でその年は終了。
2020年の春に、コンクから続きを歩く予定だったが、コロナ禍で行けず、4年の年月が流れ、2023年にようやくコンクに戻って来られたので、その旅の続きを。

前置き


2日目は7:30に出発した。
今日は、リヴィニャック(Livinhac le haut)という町からフィジャック(Figeac)という町まで25kmくらいを歩く。2日前にコンクのツーリストインフォメーションのお姉さんが、フィジャックの町の宿に予約を入れてくれているから、焦らずに歩ける。ぼっちらぼっちら歩みを進めることにした。
やっぱり重い荷物を背負って歩き続けるのが、まだまだ慣れない。例年のカミーノよりも3kgほど重いのが、予想以上に体にのしかかる。足を動かしているのになかなか前に進まない感覚がある。
足取りが重いってこういうことかな。
そんなことを考えつつも、コロナ禍でどこにも旅に出られず夢にまで見たこの巡礼旅を歩けているということの喜びを、改めて思い出しながら一歩一歩を踏みしめていた。

コンクで仲良くなったパパが、後ろから追いついてきた。お互いの今日の目的地がフィジャックだということを確認しあい、またフィジャックで会おうね、ということをGoogle翻訳を使わずに英語とフランス語で会話し、パパは私を追い抜いていった。
ハビエルも私の後ろからやって来て、「フィジャックには美味しいレストランがあるから、そこで一緒に食べよう。フィジャックで会おう。」と言って私をまた抜いて行った。
フィジャックという行ったことのない町。とても親近感が湧いた。あの2人が待っている町。美味しいレストランがある町。そう思うと、少し足取りが軽くなった。

大きすぎるバナナ
私が歩いているのはGR65という道。
犬が王のように鎮座している。
パパが通り過ぎていく。

道中に、簡易休憩所のようなものがあり立ち寄る。寄付制で巡礼者向けにおやつやコーヒーやハーブティーなどが置いてある。さすがおフランス、BIOの商品も並んでいる。優しいなあと思ったのは、女性の巡礼者のため生理用ナプキンが置いてある。ちょうど生理中なので助かる。ありがたくいただき、カモミールティーとマドレーヌで一息ついてリフレッシュできた。

こういう場所に置いてあるノートに日本語でメッセージを残す日本人代表
今、ここです。
赤:ルピュイの道歩き済233km
青:ルピュイの道これから歩きたい道
黄:スペイン既に歩き済800km
緑:聖地ロカマドゥール(後述)
ミャンミャンドゥードゥーと呼ばれるガイドブックを頼りに。
知床のナルゲンボトルを砂利道で落として割った。悲しすぎたが、とりあえず、水は必要なので、
無印の養生テープで応急処置して逆さに持ち歩いて様子をみることにした。
4年前のスタート地点ルピュイアンヴレから233km進んだ場所。
サンティアゴまでは1321km。

初日よりもアップダウンが少なくて、負荷的には少ないはずだけど、結局初日よりも時間がかかってフィジャックに到着。思うようにスイスイ歩けないものの、それでも、景色の美しさ、気持ちよさを感じるし、今ここを歩けていることが嬉しい。

川のそばの町はやはり私の好みである。


今日の宿も清潔で安心した。巡礼路では、安い宿などはベッドバグ(トコジラミ)を連れて旅する人が混ざったりして、ベッドバグが1匹でも出ると、巡礼宿としては評判が落ちたり、営業停止したりと大打撃を受ける。なので、清潔な宿ほどベッドバグを持ち込ませないための対策が徹底されている。今日の宿も、靴もバッグパックも全て1階の玄関そばのスペースに置いておかなければいけなくて、部屋への持ち込みは禁止。必要なものだけを渡されたバスケットに入れて運ぶスタイルであった。正直面倒ではあるが、安心して眠れるために、お互いに協力をしなければいけない。
女性4名のドミトリーだが、2段ベッドではなく平置きのシングルベッドで、1泊18€(2700円)とお手頃価格。
昨日はカップラーメンとおすそ分けの缶詰とワインでディナーを済ませたし、今日は奮発しちゃうことにした。そういえばハビエルやパパにどうやって会うのか我ながら不思議だったが、普通にフィジャックの町をぶらぶら歩いていたら2人に会えて、夜にここでまた待ち合わせして合流しようということになった。約束とかいらないんだよね、この道は。会いたい人には会えることになっている道。それくらい何となく根拠なく信用している道なのである。

明日以降のルートについて、宿のお兄さんからお勧めの場所等を聞いて、思い切って予定を変更することにした。
ルピュイの道というのは、基本的には一本道でフランスのルピュイアンヴレという町から、フランス南部を西に向かってサンジャンピエドポーという町までのびていて、ルピュイの道のその先は、スペインの西の果てのサンティアゴ・デ・コンポステーラまで続いている。私もまっすぐ進む予定でいたが、宿のお兄さんが言うには、今日滞在しているフィジャックという町から、ルピュイの道のルートを少し逸れて、北に進めば、フランスの大聖地の一つ、ロカマドゥール(Rocamador)へ行けると言う。ロカマドゥールは、フランスで最も美しい場所で死ぬまでに必ず訪れるべき場所だとまで断言してくる。「フランスで最も美しい」と言う枕詞はあちこちで見る。ルピュイもコンクもそうだった。しかし、ロカマドゥールだけはSpecialだと力説してくる。なるほど。少し北のロカマドゥールへ寄り道しても、またそこから2~3日間かけて、南に下りてルピュイの道に再合流できるルートがあると言う。そこの道もまたルピュイの道と同じくらい美しくて人気があるとのこと。
私は一度スペインのカミーノを800km歩き通しているので、ルピュイの道をどうしても完歩したいというこだわりはそれほどなく、歩いて旅することができればいいし、出会った人に影響を受けながら予定を変更していくのも私の旅の醍醐味だとすら思っているため、ロカマドゥールと呼ばれる聖地へと寄り道してみることを決めた。
そして、お兄さんにロカマドゥールのオススメ宿を聞いたら、修道院に泊まれるはずだから、とのことだったので、ロカマドゥールの修道院に明日は泊まろうと決めた。足の爪のコンディションも悪いため(剥がれそうな気配)明日は半日休養日扱いにして、ロカマドゥールまでは少しだけ電車に乗って北上し、少し手前で降りて歩いて聖地に乗り込むプランにした。
ロカマドゥールの道の地図をもらいにフィジャックのツーリストインフォメーションに寄り、印刷してもらい、この紙切れだけを頼りに(まあもちろんGoogleMapもあるが、歩き旅ではさほど役立たないから使用しない)数日間寄り道をするのだと思うと、ワクワクする私であった。

綺麗な床
シンプルな地図。
左下の高低差の表を見て、アップダウン激しくて震えちゃう。



さて、明日は休養日にしたし、なんと今日フィジャックはお祭りらしい。フランス語でさっぱり分からないチラシをツーリストインフォメーションで受け取り、お祭りを冷やかしながら一人で歩く。舌が真っ青になるブルーハワイソーダみたいな飲み物を飲んで童心に返る。お祭りは、大人でも、歩いて冷やかすだけでも、楽しいもんだなあとしみじみ感じる。町の人たちが楽しんでいる姿を見るだけで楽しくなってくる。祭りの準備を頑張ってしてきたのかなと思ったり、ゲームに夢中になっている子供の笑顔を見たり、想像力が大人だけに許された粋な楽しみなのかもしれない。

そんな中、歩行者天国のようになっている通りでブラスバンドが演奏を始めた。体でリズムをとりながら演奏するのはAmazing Grace。
いいなあ。iPhoneで動画を撮ろう。カメラを向けた。
それは突然だった。涙が溢れてきた。ポロポロと涙がこぼれて仕方なかった。こんなに泣くことってあるのというくらい、止まらなくなった。iPhoneで撮るのをやめた。何の涙なのか全く分からない。立ち止まって聞いていたが、次から次へと涙がぽたぽた落ちて、その場から動けなかった。流されていくものが何なのか。今でも分からない。ただ何かのスイッチを押されたような。4年間の溜め込んだ何かが流されていったような。それともただ音楽の力に感動したのか。何でも良かった。とにかく、この世界多分一周旅の中で一番こぼした涙だった。

青いワンピース着て青いソーダ飲む人
Amazing grace


その後、急いで町の真ん中へ向かい、パパとハビエルたちと合流した。パパがスマホで既にオススメのレストランを調べて目星をつけていたので、その店に向かった。
最終的に何人かのそれぞれの知り合いも合流して8名ぐらいになり、楽しい宴となった。私は、パパの顔見知りのフランス人のおじさん2人組に「ミサで君から美しい日本語を聞かせてもらったお礼がしたいから、ご馳走させてくれ」と言われ、厚かましく鴨のコンフィをご馳走になった。


パパとGoogle翻訳を使いながら会話を楽しみ、「私はロカマドゥールへ寄り道して4日後くらいにルピュイの道に戻ってくるから、また会えるよね、会おうね」とやり取りして別れた。
少しワインを飲みすぎてしまって、私にしては珍しく千鳥足になっていた。心配したハビエルに送ってもらいながら宿に帰る途中、先ほど号泣したブラスバンドのグループに再び遭遇。
今度はアップテンポでノリのよい曲を演奏しており、遠慮がちにお客さんたちが手拍子しながら盛り上がっていた。ノリノリで踊りだすスペインとフランスの田舎町の人たちとの違いが興味深くもあり、控えめで踊らない日本人としては親近感が湧いた。もう1粒も涙は出なかったが、とても気分の良いフィジャックの夜の帰り道だった。
何度も聞いてきた曲ではあるが、人生で一番感動したAmazing Grace。
それはフィジャックのお祭り。
私はきっと、フィジャックで聞いたAmazing Graceを忘れることはない。

ビッグカンパニーを退職して、キャンピングカーで妻と旅したりしているパパ。
妻は精神科で働く看護師で、
飼っている犬の名はチオ。
昨年パパは膝関節の手術をした。
昨年一緒に旅した友達が急死して、友を思いながら歩いているパパ。
孫は日本のアニメが好き。
by Google翻訳
鴨のコンフィ様



(世界多分一周旅でちょこちょこ撮った動画の保存先として、またこのnoteに貼り付ける目的のYoutubeアカウントを作ってみた。どれもほぼ縦で撮ってるからYoutube向け動画ではないし、そのつもりで動画撮影していなかったし、だからぶつ切りだし、Youtuberになる気もないし、基本的にYoutuberは好きじゃないし面白いと思えないというスタンス、という長い言い訳を添えて。)


続く

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