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バックパックの重さが分かる感覚

もう13年以上、バックパックはモンベルのチャチャパック35ℓを使っているのだが、はっきり言ってもうボロボロである。ポケットの裏は加水分解されて剥離してきているし、サイドのポケットのゴム部分は伸び切っているし、今にも破れそうな部分も数ヵ所ある。本当言うと、同じものを買い直したいのだがもうデザインが変わってしまい同じ物はもう販売されていない。
なので今は「愛着」という理由のみで使い続けている。

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(一人旅でツインだった場合のみ、片方のベッドの上に荷物置いちゃう人。スペインのAirbnbなのにめっちゃロンドン )


普段の海外旅ではこのチャチャパック(以後、愛着を持って私のバックパックのことをチャチャと呼ぶ)に10kgくらいの荷物を収めているのだが、スペインの巡礼路を800km歩いた時は、軽くしようと思いつつ、トレッキングシューズやポール、分厚い靴下、サポーターなど入れて逆に12kgくらいになってしまう。まあそれでも背負うのはそれほど苦ではない。重さ12kgで毎日毎日30km歩き続けたカミーノでの経験で、自分の中にはバックパックを背負って歩き続けることに対してある程度の自信がある。


(あと、補足として、私は数字をはかるのが好きなので、荷物の重さを計ったり、歩いた距離をチェックする習性があります。)

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(↑これはトレッキングシューズ込みで12kg)

しかし。
はじめてのソロキャンプで、テントや寝袋、マット、1週間の食料などを詰め込んでチャチャの重さが35kgになった時、持って歩く自信が無かったし、体重計の数字を見ておののいた。
ほとんどバスやケーブル移動だし、それほど背負って歩く必要がないとは言え、バス停でバスを待つ間、地面に下ろしたチャチャには小学5年生くらいの子が横たわっている存在感があったし、バスが来て、いつもの旅のように片手でひょいとチャチャを持ち上げようとしたらびくともしなくて驚いた。お地蔵さんを3つくらい入れてきたかと思った。

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映画「わたしに会うまでの1600キロ」で、PCT(アメリカのPacific Crest Trailというロングトレイル)を歩き始める初日に、主人公のリース・ウィザースプーンが床に置いたバックパックを背負えなくて、しゃがみ込んで体ごと後ろから前に倒す勢いで背負うシーンを思い出して、私も「ううー」とうめきながら何とかチャチャを背負った。背負ってしまえばなんとかいけるのでもう二度と地面にチャチャを置きたくないとすら思った。椅子の上に置けば、高さがあるから何とか背負えるということがわかった。
立山の室堂のバスターミナルを降りてすぐの場所で湧き水を2リットル汲み、37kgになってしまったチャチャを背負って雷鳥沢キャンプ場までの1時間強歩いた距離が、人生で一番の辛い修行のようだった。
あの道は苦し過ぎた。富士山登山より苦しかった。
37kg。標高2450m。地獄だった。
山小屋に荷物を運ぶ歩荷さんは60kgくらいを担いで山に登るらしいが、素人の私には何かの罰ゲームのようだった。映画「春を背負って」の松山ケンイチですら30kgくらいで途中まで私と同じ道を歩いていたがヘロヘロだった。
37kgはもう二度と背負わないと心に決めた。
ちなみに帰りは、山ほど持って来た肉やパンやカレーやごはん、ウィンナー12本をお腹の中に入れたので荷物はかなり軽くなっていた。食料を持って来過ぎていたのだと気づいた。しかし、30kg以上詰め込まれた私のチャチャが、この日を境に一気にくたびれてボロくなったように見えた。かわいそうなことをしてしまった。チャチャのためにも荷物を減量せねば、と固く誓った。

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(37kgの中身。テント設営前に雨から守るため45ℓのゴミ袋2つに分けて入れた。)

2回目のキャンプでは29kgくらい、3回目のキャンプでは荷物の重さは28kgくらいになった。初回のソロキャンプから10kg弱は削れたのだが、それでも28kgもあるのか…と途方に暮れた。3回目のキャンプでチャチャを担いで駅まで歩いていた時に、おかしいな、と思った。
これ、28kgもあるんかな?軽いんやけど。
スタスタと歩けたのだ。
私のチャチャは、横幅や上蓋をある程度締めたり伸ばしたりできるから、チャチャが一見パンパンに収まっているように見えても、10kgから37kgまでの重量の幅がある。
今回も確かにパンパンに詰め込まれているけど、そんなにずっしりとした重みを感じない。

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(↑これが28kgの一番最近の傷だらけのチャチャ)

エアアジアなどのLCCに乗り継ぐ時など、手荷物を7kg以内にしないといけないミッションがあった(私がよくアジアをLCCで旅をしていた当時のこと)。メインのバッグが空港のチェックインカウンターで計量され、そこで7kgを超えると追加料金を取られるシステムで、私は何としても7kg以内にチャチャを収めるため、毎回空港の端でパンパンに膨らんだ10kg以上のチャチャのパッキングのやり直しを何度もしてきている。
服を全部着込んでポケットに重いバッテリーやカメラなどを入れて、ウエストポーチもパンパンに入れてお腹に巻いてかなりのデブを装い、チャチャの中身をスカスカにする作戦で、いつも7kg弱に成功しており、なんならチャチャの重さを7kgジャストを叩き出したこともある。
そのおかげでチャチャが7kgというのも感覚で分かるようになった。
また、カミーノのおかげで12kgの重さも背負えば分かるし、雷鳥沢キャンプ場までの修行の道のおかげで37kgも感覚として残っている。
この、背負った時の重量の感覚が体に染み込んでいるのだと思う。
他のバックパッカーの人もある程度そういう感覚ってあるんじゃないかなと思うんだけどどうだろう。
吉野家のベテラン店員が、ご飯の量とか肉の量とか、ささっと目分量で正確によそえるようなあの感覚。
とにかく私は、バックパックの重さで、7kgと12kgと37kgが分かる女なのだ。

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(↑これは数ヶ月インドにいた頃の後半。物は増えてきてチャチャはパンパンだけど暑い国の荷物はそんなに重くなくて多分10kgもない。)

そんな私が3回目のキャンプで出発時に紐で吊るして計るスケールで計ると28kgという重さだった私のチャチャだが、背負ってみるとそれほど重さを感じない。チャチャもそれほど窮屈そうな感じがしない。
37kgの時は、布という布が引っ張られ、膨れ上がって、今にもはち切れそうで、肩紐もちぎれるんじゃないかと思うくらいだったし、色々とぶら下げられていたチャチャだったが、今回はいつもの海外旅と見かけはそれほど変わらないし、チャチャ(の布)がそれほど苦しそうに見えない。
それとも28kgでも軽く感じられるくらいの肉体に私は進化したのだろうか?
37kgを空気の薄い場所で背負って歩くトレーニングが私を強靭なボディーへと進化させたのだろうか?
そんなことを思いながら3回目のソロキャンプを終えた。
帰ってきて計ったら25kgになっていて、うーん、よく分からんなぁと思い、荷解きをして洗濯をし始めた。

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その後もモヤモヤしていたので、徒歩や山でソロキャンプをしている色んな人のブログなんかを見ていたら、私と同じくらいの装備で「重さ15kgでめちゃくちゃ重くなりました!」など書いてある。自分の荷物の写真と見比べてみる。
この人たちよりも私の荷物が10kg重いってどういうことだろう。どう考えてもそんなはずない。何が重いんや?
不思議で仕方なくなった私は、スケール(計り)で一つずつ重さを点検していくことにした。
まず、安物の中華製のテントを計ると5.7kg。
ええー?!
2.2kgと書いてあったものを買ったはずなのに、ペグとかシート込みの重さとか入れるとこんなことになるのか。
次にモンベルの寝袋ダウンハガーを計ってみると0.0kg。
ええー?!計測不能?めっちゃ軽いやんモンベル。
これはおかしいぞ。
チャチャだけで計ってみた。
チャチャ(バックパック)だけで6kg!!
ええーーー?!
衝撃。
お前って奴は、お前だけでそんなに重かったのか?
何かがおかしい。
いや、何もかもがおかしい。

もしや!!!

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信じられないことに、スケールの電池を新品に入れ替えたら、ハンマーやペグも入れたテントはちゃんと2.6kgだったし、チャチャもちゃんと1.3kgだったし、モンベルの寝袋も0.6kgとちゃんと重さがあった。
こいつの電池がなかったのか…。

2.6kgのテントが5.7kgと表示されていたということは、荷物の重さが半分だった可能性も出てきた。
初回の35kgは体重計に乗って重さを計ったから間違いない。
2回目以降は、このスケールを使って計っていた。相当軽量化に力を入れたから、もう2回目から荷物の重さはもっと軽かったに違いない。
なのに。
なのに、私は28kgの荷物だと思って背負っていたのか?!
無駄に自分にしんどさを上乗せしていたのか。
ああー、なんてこと。
やはり背負った時の「これ、28kgもあるんかな?軽いんやけど」という自分の感覚が正しかったのか。
必要以上に数字に踊らされてはいけない。自分の感覚を信じていかねば。
という訳で、3回のソロキャンプを重ねて、いまだに無駄なものばかり詰め込んで荷物が28kgもある訳ではなく、だいぶ軽量化に成功しているのではないか?という可能性があることをここに記しておきたい。
多分相当軽い、感覚だけど。
15kgくらいだったはずだと信じている。
次は座布団をやめて椅子を持って行けるかもしれない。
背負った時の自分の感覚を信じよう。

スケールの電池切れをすぐに疑うことができるように、バックパックの重さが分かる感覚をもっと研ぎ澄ませてこれからもチャチャを背負っていきたい。

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(↑これは7kg以内に仕上げた時のタイトバージョン。洗濯した後だからチャチャが綺麗だ。チャチャは、風呂場でぶどうを踏んでワインを作るみたいな感じでいつも洗っています。)







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