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初の南デリー、眠らないクラブの夜【インド#20】

ジャイプールから5時間後にバスはデリーの南に到着した。


デリーには何度も来ているが、いつも泊まるのはデリーの北部にあるニューデリーの駅前に延びる通り、パハールガンジというメインバザール。
デリーで起きるツーリストがらみの悪事の99%はこの界隈で起きていると言っても過言ではないくらいトラブルの多い、良く言えば詐欺師も含めて何でも揃うカオスな場所。
今回は、南デリーにバスが到着したご縁で、ニューデリーから割と離れている南デリーに宿をとることにした。

地下鉄saket駅からすぐの場所にそのゲストハウスはあった。
看板が1つも出ていない、隠れたゲストハウス。その名もHide in。そのまんま。
女性用のドミトリーを予約していたが、入ってみると広々としていてシンプルで良かった。夜ご飯を食べに行って戻ると、別のベッドの下の段にいたヨーロピアンぽい女性とその上の段のインド人女性が、ずっとお喋りをしていた。
そのインド人女性が上の段から「ハロー!私シバーニ。アーメダバードから来たの。」とフレンドリーに挨拶をしてくれて、ヨーロピアンかなと思っていた女性も明るく「イスラエル人のアナよ。友達がインドのデリーで明日結婚式するから、ここに来たのよ」と挨拶してくれた。
特にアナとは、もう一瞬で仲良くなれそうなタイプだと分かった。インドでの結婚パーティーが何日間もかけて夜通し行われることを話してくれたが、インド映画のおかげでその知識を知っていた私に驚いて、インド映画の話でも盛り上がった。
「あなたはインド映画が好きだと言うけど、リアルのインドはどう?映画とリアルは別物よ。リアルのインド、どう見てる?」
なんとなくこの時にシバーニが言った言葉が心に残っている。

しばらくして、ギャルっぽいインド人女性が帰ってきた。ロングヘアでばっちりメイクをしていて、若々しい感じ。戻って来てからずっとベッドでスマホをいじったり、誰かに電話してずっと喋っていたりしている。愛想はないし苦手なタイプかもと思って、そっとしていた。
その彼女が誰かとの長電話が終わってから、「チャイ飲みに行くけど行く?」と自己紹介もまだしていない私たちに声をかけた。
それぞれが一人旅で来ているのに、どこから来たとか名前とか、どうでもいい風に「この近くにタンドリーチャイが飲める所があって、すごく美味しいから一緒に行こうよ。」と彼女は言う。
もう22時半やで。
ジャイプールからの長距離バス移動で疲れていた私は、正直眠たかったのでためらっていた。すると、アナが「行く!あなたも行くわよ!」と強引に決定。シバーニはもう毛布をかぶって完全に眠る体制に入っていたのできっぱり断り、短パンとタンクトップのアナと、パジャマのつもりのズボンとTシャツの私は、まあ寝る前のチャイくらいならいいかと思って、一緒に出かけることにした。
タンドリーチャイの店に行く途中に、今更のように自己紹介を始めた。彼女はデリーの大学に通うスマエラ、20歳。タバコを吸って歩き、あまり表情が変わらないクールなタイプのように見えた。

タンドリーチャイは、大きな映画館の周りに飲食店が並んでいるゾーンにあった。徒歩で10分もかからない距離だと思うが、宿の前に停めていたスマエラちゃんの車に乗り込んで向かった。あっという間に着いて、車を降りて店の椅子に座った。

スマエラちゃんの説明によると、タンドリーチャイとは、素焼きのチャイカップをタンドリー窯で熱して熱々にし、それに熱いチャイを注ぐ。すると、熱したカップにより、チャイが瞬間的にブクブクブクと湯気を立ち上らせて、泡立つ。熱々のカップがチャイをびっくりするほどクリーミーにするという仕組みのよう。
店員が、デモンストレーションのように見せてくれて、湯気と音に私たちはびっくりした。

スチームミルクのような舌触りがすごく美味しい。私とアナは美味しすぎてびっくりして、飲みながら言葉を失っていた。
スマエラちゃんは少しだけニコっとして、またクールな顔に戻ってチャイを飲んでいた。
あんまり美味しいので、私とアナはお代わりをして2杯目を飲んだ。「これ、全ての店でやればいいのにね」と話しながら味わって飲んだ。
スマエラちゃんは、サクッと3人分5杯分のチャイ代を支払っていた。最年少に奢ってもらうわけにはいかないと30代のアナと2人で払うよと言ったが、「私が誘ったからね。それに1杯20ルピー(32円)だから安いもんよ。」と言って、タバコを吸って、「さ、行こうか」と宿に戻ることにした。

宿の手前でスマエラちゃんが誰かと電話で喋っていたが、ヒンディー語だったのでさっぱり分からず黙っていた私とアナ。
宿に着いた時にスマエラちゃんがこう言った。
「もう1人同じ部屋の子が合流するから、今からクラブ行くよ。行くよね?」
え。
もう23時やで。
私、寝巻きですけども。
そしたら矢継ぎ早にアナが「イエーイ!行きたい行きたい!踊りたい!レッツゴー!」とノリノリであった。
小声で、「では、私は眠いので、ここで失礼いたします。」と言ってそっと車のドアを開けようとしたら、アナとスマエラちゃんが物すごい速さで「NOOOOO!」と言って、スマエラちゃんは車をドアを押さえ、アナは私の腕を押さえた。
疲れたし、そういう場所は行かないタイプなので、と伝えても、腕を緩めない2人。
女だらけの拉致監禁現場に、もう1人の女子がやってきた。1人だけものすごいドレスアップをして、メイクバッチリで、ラメラメのクラッチバッグを片手に持ったワンレン女子が車に乗り込み、「さあ行くわよ。」と言った。
「あら、初めまして。私、リア。よろしくね。」っとニコっと笑顔で自己紹介。長くてキレイで派手なネイルをしている。
私はリアの笑顔にころっと堕ちてしまい、一緒にクラブに行く羽目になった。
リアが「あ、クラブの前にお腹空いたから何か軽く食べたい。」と言う。
もう23時を回っているし、私は夕食はたらふく食べたし。そう思ったが、こういう若くて派手なインド人女子が、一体どういう店でどういう食事をとるのか興味があったので、彼女たちに付き合おうと腹を括った。

場所は、南デリーのHauz KhasにあるバーレストランSummer House。
その屋上のソファーのテラス席に4人で座った。リアとスマエラちゃんはタンドリーチキンピザを、アナはよく分からない揚げ物、私はサモサを注文した。
どれも美味しかったが、むちゃくちゃ値段設定が高くてドキドキしていた。すると、リアがカードでさっさと払ってしまい、払おうとしても「いいの、いいの」と言ってきかなかった。

アクモン聴くスマエラちゃん

リアもスマエラちゃんもリッチなのは見ただけで分かる。育ちがいいのも分かる。
私の知っているデリー、つまりはパハールガンジで、夜遅くに出歩いているインド人女性なんて見たことがなかった。
そもそも私だってインド、特にデリーでは夜に出歩かない。
「デリーで夜に出歩くのは怖くないの?」と2人に聞いたら、「この辺りは大丈夫よ」とケロッとした顔で言った。リアもデリーの大学生らしく、アナは2人に大学のこと、学費のこと、専攻している科目の詳しく聞いていて、私は眠たくなってくると全く英語が分からなくなる病に冒されているため、ほぼ会話についていけなかったが、学費と車はパパが払っていること、スマエラのパパが会社を経営していること、リアのパパがITの会社に勤めていることは理解した。また、女性でも希望すれば、大学を出れば就職は全然できるということなども話していたが、細かなところまで理解できず自分の英語力の無さに嘆いた。
スマエラちゃんは、「インドで免許を取れば世界中のどこでも運転できる」と言っていたが、本当にその通りだと思う。割り込み方、距離の詰め方などは、ぶつかることも想定内だし、クラクションに関しては、おそらくインド人は世界一鳴らす回数が多いと思う。
スマエラちゃんも割とクラクションを鳴らしまくっていたし、堂々たるものだった。

車を走らせていると、信号が赤になったタイミングで、物乞いの子供たちが当たり前のようにやってきて、信号待ちをするスマエラちゃんの車のフロントガラスにスプレーをかけてきた。
私はびっくりして、断らないの?とスマエラちゃんを見たが、平然としている。子供たちは雑巾でフロントガラスを磨き、サイドミラーも拭いて運転席側に立った。スマエラちゃんは黙って窓を開けて、10ルピーを渡して窓を閉め、子供たちは去っていって、信号は青に変わった。
思えば、私はインド人女性が運転する車に乗ったのは、生まれて初めてである。彼女は度胸もあるし、インドの町に慣れている。慣れた手つきでPRADAの財布から札を出していた。
まるでインドの光と闇だなと思ったが、どっちが光かは分からない。
お金を持っていて車に乗っている彼女も、お金を持っていない子供たちもまた、逞しく生きていて眩しく見えた。

所狭しに車が無秩序に停まっている駐車場のわずかな隙間にスマエラちゃんは車を停めて、4人でクラブへと向かう。
えっと。
もう1時前やで。
ここまでのこのこついて来たことに後悔し始める私だったが、スマエラが、「離れて歩いちゃダメよ」と注意してくれて、娘のような年頃の彼女に手を引かれ、守られながらクラブに到着。(ちなみに彼女の母親より私が年上だった。)
入り口の屈強なインド人ガードマンにリアが何やらひそひそと話を通して、超混雑した店に私たち4人は順番を飛ばして、先に入れてもらえることとなった。

クラブの中は、もう今まで私がこの目で見てきたインドとは全くの別世界であった。
インドの伝統ある祭りなどを楽しんできたが、現代のインドがそこにあった。
ボリウッドミュージックがかかってたら嬉しいなと思っていたが、そんな私の期待を裏切って、普通に洋楽のダンスミュージックやロックが爆音でかかっている。
パリピ・イスラエリーのアナは短パンとタンクトップで大はしゃぎで踊り出す。
胸がチューブトップからこぼれそうなリアもクラッチバッグを片手に持って踊る。
ワーオ。
いいよな、踊れる人たちは。
そんな風に思って、1人参観日のように私は見守ろうと思っていたら、スマエラちゃんが固まっている。まったく踊らないし、体を揺らしたりリズムを取ることすらしないで仁王立ちである。
え。
私でも多少は左右に微妙に地味に揺れるぐらいはしているのに、どうしたスマエラちゃん。
「踊らないの?」と聞いてみたら彼女はこう言った。
「踊り方、知らない。」と。
クラブ行くわよ、とタバコを咥えて格好良かったスマエラちゃんは、なんと、全く踊れないらしかった。しかも緊張して固まっているし。
私とスマエラちゃんは並んで一緒に立って、踊りまくっているアナとリアを見守ることにした。
人が多すぎておしくらまんじゅうのようになってきて、今度は私がスマエラちゃんの手をつないで離れないようにした。
周りを見渡すとびっくりする。
男同士のカップルが普通にディープめなキスをしているし、男女のカップルが抱き合って何やらおっ始めそうな勢いのダンスのようなものをしている。
インドの若者って今こんな感じなのかとびっくりした。こんな世界もあるのかと、社会勉強に励む私。じっくり観察させてもらった。
全く踊らずに手を繋いで立っている私たちのところに踊り狂っていたリアとアナが戻ってきた。4人で輪になり踊る2人と見守る2人。
もう2時過ぎやで。
ちょっとだけ時間を気にしたが、もういいや。
「楽しんでる?」と聞いてくれるリアに、私は、「見ることを全力で楽しんでる!」と答えて、スマエラちゃんも「私も」と答えた。
何度も下にずれてポロリしそうになるチューブトップを上げながら、相当エロい見ためのリアは踊り続けるが、全く周りの男を相手していない。誰とも話さないし無視である。
アナもノンアルコールなのに(全員ノンアル)、頭を振りながら体を揺らしまくって歌いながら踊っている。タンドリーチャイでガンギマリである。

そんな時、行きの車で流してみんなで歌っていたマイリー・サイラスの「Flowers」がかかった。


私とスマエラちゃんは顔を見合わせ、それからリアとアナと私とスマエラちゃんと、4人で手を繋いで輪になって、UFOをおろす儀式のように4人だけの世界に入った。
私は、時計を見るのをもうやめて、4人でFlowersを大声で歌いながら、笑い続けた。
スマエラちゃんも可愛い顔で笑っていた。
もう4時前やで。
4人で忍び足で静かにドミトリーに戻って、それぞれ順番に歯を磨いて、それぞれのベッドに横になった。
南デリーの初めての夜は、刺激的過ぎて、いつまでたっても眠れなかった。





【番外編:その他の南デリー】

翌日も行ったタンドリーチャイ。
デリーに来たら必ずここに通うと決めた。


行ってみたい方は、Googleマップは間違っているので、デリーのサケット駅の近くのPVRシネマの近くで、写真を頼りにZAHRAレストランを探してみてください。
大体この辺。

宿から近い、セレクトシティモールという大きなショッピングモールにも通った。
ここは何が良いって無印良品があって、日本のカレー屋CoCo壱がある。

ディーピカちゃん綺麗すぎる。横には夫ランヴィール・シンのポスターも。
バウムクーヘンも旅行用品もなかったけど。(つまり何も買ってない)
トンカツはなくてチキンカツ
日本のCoCo壱でも頼んだことない野菜カレーフライドチキントッピング。
地味に福神漬けが嬉しい。

インドのスパイスに飽きた頃の、日本のカレー、CoCo壱はありがた過ぎた。



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【ジャイプール余談】

運命のジャイプール、でんでんさん側からも書いてくださって嬉しい!
ありがとう!!

こっちは私↓

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