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短編連載小説 長い夜4


田舎の農家はどこも同じような造りになっていて、
2人の少年は土間の広い玄関の靴脱ぎ場に腰を掛かけ
大きなスイカかぶりついた。
それは井戸水でよく冷やされていて、
子供がたべるのにちょうどいい大きさに切り分けられ
大きなお盆いっぱいに並べられていた。

叔父は、そんな二人をしばらくにこやかに見つめていたが、
スイカを持ってきてくれたおばあさんは、
困った顔をしで聡を一瞥した。
それから暖簾をくぐり台所で
叔父とおばさんは小さな声でしきりに言い争いをしていた。

聡と護は出されたスイカをすべて食べてしまい
そろそろ帰ろうかと相談して、暖簾の向こうに
ありがとうございましたと大きな声を張り上げた。
すると叔父とそのおばさんが再び姿をあらわした。

「おお、そうか。西瓜は美味かった?」
「はい、美味しかったです」
2人が同時に答えた。
「ところで、聡よ、晃もげんきなんか?」
と、たずねるので、聡は迷いながらも頷いた。
「あのな、聡。じいちゃんは仕事に行きよるんか?」
と、また全く違うことを聞いてくる。
この人は何が知りたいのかと、少し戸惑ったが正直に答えた。
「もう大工の仕事は、あまり回してくれんそうです。
それでも、田んぼや山もあるけん、毎日忙しそうにしています」
「そうか。そうやろんなあ。歳やけんなあ」

そう叔父が言った時である。
「あんた!こんあことして本当にええの?」
それまで、黙っていたおばさんが苛立った声で言った。
「何を言うんぞ。いくら姉さんがあの家と縁が切れても、
聡と晃はわしの血のつながった甥なんぞ。
生活向きのことを心配して何がわるんぞ!」
「そりゃ、確かにそうですが、わたしは揉め事だけは嫌ですからね」
そういうとまた奥の台所に消えていった。

叔父はそれでもさらに続けた。
「お前も、もうすぐ中学生じゃけん、ひとつだけ言うておく。
お前らの母ちゃんは、六年前にお前おの父ちゃんが死んだとき
本当はお前らを引き取りたいうて、ずっと泣きよったんぞ。
お前らを捨てたんじゃないということだけは、覚えておいてくれ」
聡は母とい言葉を聞き
暑いのに、体が冷えていくような感覚に襲われていた。

「あのな、聡。困ったことがあったらいつでもここに来たらええ。
おいちゃんに出来ることやったら、力になったる。おばちゃんも
ああは言いよるが、根はさっぱりした女なから大丈夫や」
と、さらに目を細めてい言った。
聡は心の中で今日のことは、無かったことにしようと思っていた。
「近いうちにまた遊びに来いや。次は晃も連れてこい。
きょうおいちゃんに会ったことは
じいちゃんやばあちゃあちゃんには黙っとけ。
年寄りにいらん心配させんでもええ!」
最後に叔父と名乗る人はそう念を押した。
結局聡は何も言えず、それでもぎこちなく頷いた。

だが、晃を連れてこの家に来ることは無いだろうと
それだけは、強く思った。
帰り道、聡も護も口を効かず
今度は上り坂をギアを使いながら帰ったが
それでも自転車のペタルはすごく重たかった。

     長い夜5に続く

今回も見出し絵は
みもざさんのイラストを使わせていただきました
ありがとうございました##

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