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北海道の地方都市における起業・ベンチャー創出の取り組み(函館/厚真/帯広編)

はじめに

株式会社POLAR SHORTCUT(ポーラー・ショートカット)の大久保です。普段は札幌で、スタートアップ投資(シードVC)やU-25世代向けの起業家育成の取り組みを行っています。

シルバーウィーク期間を使って、函館・厚真町・帯広を回ってきまして、北海道の札幌以外の地域で「起業・ベンチャーに関する取り組み」がどのようになされているか、色々な方にお話を伺うことができました。
今回のnoteでは、それぞれの地方都市の取り組みについて、着目すべき事例や感じたことをお伝えできればと思っています。

文明開花の街並みが今も残る、函館

まず訪れたのは函館。札幌・旭川に次ぐ北海道第3位の人口を有する道南の中核都市です。函館が一躍歴史の表舞台に登場したのは、日米和親条約の締結に伴う1859年の箱館開港。
西洋文化をいち早く取り入れた函館ではハイカラな生活が広まり、エキゾチックな街並みが形成されました。独特のモダンでレトロな雰囲気は、今の函館ベイエリアに当時の趣のまま残っています(写真:夜の函館ベイエリア)。

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起業・ベンチャーの取り組みの拠点という観点でまず伺ったのは、公立はこだて未来大学(写真:未来大キャンパス)。複雑系知能学科と情報アーキテクチャ学科の2つの学科を基軸とするシステム情報科学の単科大学です。
はこだて未来大学出身のUXデザイナーやエンジニアはスタートアップ業界を始め、大手企業にも多数おり、皆さんとても優秀な印象です。

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実際に訪問したのは初めてだったのですが、まず一番に感じたのが、立地が... ものすごい山の中で、遠い... (函館駅からバスで50分ほど)。はこだて未来大学の学生は学業もかなり忙しいそうで、加えてこの立地となると、未来大学エリアで全てを完結してしまいがちというお話も納得です。
最先端技術を学ぶ学生は大手企業からの人気も高く、技術者としてのキャリアを積んだ後に起業をする方も多いそうですが、在学中や卒業直後に起業する学生はあまりいないそう。非常に気になる大学ではありますが、ここからスタートアップの盛り上がりを作っていくには、いくつもの工夫が必要だなと実感しました。

今回の旅程では直接接点を持つことはなかったのですが、北海道教育大函館校が現在は地域教育や地域協働を専門に学ぶコースになっているそうで、学生起業という観点で考えると、教育大の学生の方がむしろ地域との関わりを積極的に持ちやすく、ソーシャル・ベンチャー領域の起業家が生まれやすい空気感が醸成できているのではないかと感じました。函館の大学生が運営する古民家を改装したシェアハウス「わらじ荘」なども教育大の学生の取り組みとしてよく名前を聞きますしね。

また、歴史的建築物が数多く残る函館では、土地の強みを活かす取り組みとしてのリノベーション事業は活発なようです。私が今回宿泊した宿も1932年に建築された旧富士銀行函館支店をリノベーションした歴史を感じる宿でした(写真:HakoBA 函館 by THE SHARE HOTELS)。

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他にも「箱バル不動産」という函館の魅力を支える西部地区の街並み保存・活性化をするリノベーションプロジェクトなど、観光資産 × クリエイティブ × コミュニティといった文脈の取り組みが色々となされています。

先日お会いする機会のあった「ハコダテミライカモン」も、これから色々な取り組みを仕掛けていくようで、函館というエリアを良くしていきたいと考えている人たちは、世代を超えてたくさんいる印象でした。

一方で、いわゆるスタートアップやITベンチャーと呼ばれるような企業は街の規模の割には少ない印象です。私が接点を持てた範囲では、未来大発のWEBベンチャーとして有名なハコレコドットコムや、道南のローカル生産者に特化したEC事業などを行なっているロカラくらいでしょうか(ハコレコの山田さん、ロカラの中川さんとも私と同級生世代ということで陰ながら応援しています)。
そのようななかで個人的には、函館出身の私の友人が事業展開しているローカルデリバリースタートアップの3つ星キャリーが、かなり市内で受け入れられていたのが嬉しかったです(写真:3つ星キャリーののぼり)。

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函館市は近年、基幹産業である水産業も苦戦しており、高付加価値商品であった名産品のイカの漁獲量が減少するなど、産業構造的にも転換期を迎えているそうです。長らく水産と観光の街であった函館が、令和の時代にどのような産業転換を図っていくのかは、要注目です。

ローカルベンチャーを産み出す!厚真町の挑戦

函館の次に伺ったのが東胆振地域の厚真町。北海道の交通の玄関口である新千歳空港、苫小牧港からほど近く、海から山までが揃う、人口約4,500人ほどの小さな町です。2018年9月に起こった北海道胆振東部地震で被害を受けたことで、その名を知った方も多いかもしれません。

道内中核都市の函館や帯広はともかく、なぜ厚真町?と感じる方がほとんどかと思います。ですが実は厚真町は、厚真に移住し起業する人を、地域おこし協力隊の制度を活用して町がバックアップする厚真町ローカルベンチャースクール」という取り組みを通じて人が集まり、新しい事業がどんどん生まれている北海道内でも注目の町なのです。

ローカルベンチャースクールは一言で言えば、選考を経て合格した人が地域おこし協力隊として3年間町のサポートを受けながら起業準備をし、自立を目指す取り組みです。取り組みの詳細や、どのようなローカルベンチャーが生まれているのかは、関連記事に詳しく書いてあります。

普段私と仕事やサイドプロジェクトで関わっているような方であれば、えぞ財団団長の成田さんが普段住んでいる町という紹介の仕方もわかりやすいですね。実は彼もこのローカルベンチャースクールの制度を通じて、厚真町で起業した一人です。創業にまつわる記事を見つけましたが、何だかちょっと若い笑。

今回は数日厚真町に滞在するにあたり、コミュニティスペースの「イチカラ」に滞在させてもらいましたが、とても快適でした(写真:イチカラで作業する私)。ローカルベンチャースクールを運営するエーゼロ厚真の花屋さんもおり、イチカラを訪ねるだけでも厚真町の取り組みについて、かなり深い部分まで知る機会が得られるのではないかと思います。
コワーキングスペースも、町そのものもそうですが、「そこに◯◯さんがいるから」というのが、地域とその外の人たちとの交流のきっかけとして最も重要なのだろうなと、今回の厚真往訪で強く感じました。

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このローカルベンチャースクールの取り組みについて、細かく話を聞くというのが今回の厚真滞在の一番の目的でした。期待に違わず、地域における取り組みについて様々な示唆をいただけたので、特に重要だと感じたポイントについて、かんたんに触れておきます。

一つ目は「地域における取り組みは時間がかかる。日の目を浴びる前から、着々と準備をしておくことが重要」だということ。
このローカルベンチャースクールの取り組みも開始したのは2015年。色々な試行錯誤を続けながら、ターニングポイントとなったのは震災(北海道胆振東部地震)があった2018年でした。そこが契機で大きく注目を浴びることとなりましたが、その時点でしっかりと準備ができていたことが、その後の大きな変化をポジティブなものにすることに繋がったそうです。

二つ目は「国からの財源は一時的な補助でしかなく、その期間に金銭面も含めた自立性をどれだけ高められるか」という点。
現状はこのローカルベンチャー事業も国からの委託費・補助金を主軸として運営されていますが、国としてはあくまでも「新規性のある取り組み」について一定期間(数年単位で)補助金を出すという方針があります。
地域に取り組みを根付かせるためには、同じことを地道に長い期間続けることが非常に重要なのですが、一方で「新規性のある取り組み」でないと行政予算が取りにくいというジレンマがあるというお話を聞いて、行政の予算の取り方にも構造的な課題がありそうだなと感じました。厚真では、国からの財源に頼らない独自のマネタイズ方法も模索しているとのことです。

三つ目は「定住することよりも先に、多様な人材を地域に関わらせることが大事」という価値観です。特に行政視点では、直接的な人口増や定住が重視されることが多いですが、そもそも地域外の人間にとっては「骨をうずめる覚悟」というものは入り口としてすごく重たいんです。
そうではなく「一度厚真に関わった人が、その後別の場所に移住したとしても、その先で引き続き厚真に関わってもらう、というような働き方・関わり方を許容できれば、貴重な人材リソースの枯渇を緩和することができる」というお話はとても共感できました。

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今回の滞在では私も、最近厚真町に移住した友人が働く農家で原木しいたけの収穫を体験させてもらうなど、移住とは大きく異なる「緩い繋がり」で厚真町と接点を持つことになりました。こういう小さな関わりから、また何か新しい取り組みが生まれるのかもしれません。

また、厚真町の隣にある苫小牧市では、苫小牧高専が起業教育に力を入れていたり、道内で札幌以外では唯一、スタートアップウィークエンド苫小牧を開催するなど、こちらも面白い取り組みを行なっています。
地方共創ベンチャーであるFoundingBaseが拠点をおく安平町も厚真に隣接しており、新千歳空港からもアクセスが良い胆振地方はベンチャー・新規事業創出の流れがさらに盛り上がっていきそうな、注目のエリアです。

道内最大のベンチャー大国、十勝・帯広

最後にご紹介するのは私の地元でもある十勝・帯広です。帯広は道東で最大の人口を有する十勝地方の中心都市。畑作や酪農などの農業を基幹産業とする国内有数の食糧生産基地の一つです。北海道を代表する製菓ブランド「六花亭」と「柳月」が本社を置くスイーツ王国としても知られます。
本州の方がイメージする北海道に一番近い地域ではないでしょうか(写真:日高山脈を望む十勝平野)

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現・帯広市長の米沢市長は、日本最大のベンチャーキャピタルであるジャフコの北海道代表も務めていた人物で、Startup City Sapporoのプロジェクトに先駆けて、2015年から市長主導で「とかち・イノベーション・プログラム」という起業家創出プログラムを行うなど、道内でもいち早くスタートアップ創出に取り組んできました。
次世代産業育成のためにはベンチャー投資が必要だという想い・姿勢は現場レベルでも感じることができ、帯広市役所勤務の若手社員の方なども、行政が何を支援できるかを積極的に模索している印象です。

エコシステムとして必要な要素も地方としてはかなり整備されており、帯広駅前にあるコワーキングスペース「LAND」では、十勝エリアの企業を対象としたベンチャー支援を行うコントレイルのメンバーが中心となった地域活性化ビジネス相談の取り組み(O-KISOU)や、高校生が生み出した学生向けプログラム(Tokachi EGGs)なども開催されています。
札幌には、Sapporo Incubation HUB DRIVEやサツドラが運営するEZOHUBなどがありますが、地方都市にこのような新規プロジェクトを行う際に積極的に活用でき、かつイノベーション感のある雰囲気のスペースというのは意外とありません。ここLANDは帯広駅前徒歩数分の一等地にあり、なんと無料で利用できますので、出張で来られる方はぜひ訪れてみてください(写真:コワーキングスペース、LAND)。

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十勝・帯広エリアには、北海道を代表するスタートアップ企業が数多く集積しているのも特徴です。
先日14億円の資金調達を行なったばかりの酪農DXを手掛けるファームノート(帯広市)や、ホリエモンこと堀江貴文氏が出資する宇宙ベンチャー、インターステラテクノロジズ(大樹町)など、全国でも有数の実績を持つスタートアップに加え、GPSトラクターのサービスを手掛ける農業情報設計社(帯広市)や、2019年のOpen Network Lab Hokkaidoで最優秀賞に選ばれた、獣医師のための共有型電子カルテサービスを手掛けるvetell(帯広市)、同イベントでオーディエンス賞に選ばれた、ハンターが繋がるプラットフォームを運営するFant(上士幌町)、NoMaps Dream Pitch 2020で優秀賞に選ばれた航空機シェアリングサービスのエアシェア(帯広市)など、道内で著名なスタートアップがこれほど揃っているエリアは他にありません。

さらに、「HOTEL NUPKA(ホテルヌプカ)」や「馬車BAR」を運営する十勝シティデザイン株式会社が2021年に入ってから「リゾベーション型」滞在という新たな考え方での関係人口創出・拡大への取り組みを進めています(今回私が帯広に行くことになったきっかけもこちらです)。

昨年4月に東京から北海道へUターンをしてきて以来、札幌以外の北海道の地方都市におけるスタートアップや新規事業創出の在り方を考えてきましたが、ずっと地方で生まれ、育ってきた人がいきなり、その地域の常識を破って新規事業を創出するというのは、ものすごくハードルが高いことです。地道な起業支援相談会や地域に根ざしたアクセラレータープログラムももちろん重要だと思います。ですが、そこには必ず「そもそも起業家として立ち上がる人が少ない」という課題が付随してきます。
その本質的な課題を打破する打ち手の一つが、このような首都圏の(新規事業に携わるような)人材と、十勝(に限らず北海道の地方)の「何かやりたい、気持ちを持っている」人材との接点を、意図的にもたせるようにすることではないかと最近は感じています。

意外と私の周りのアンテナの高い方でも知らない方が多いのですが... 十勝・浦幌町における「浦幌ワークキャンプ」という取り組みが、ものすごく良いロールモデルなのではないかと感じています(まだ私が東京にいた2019年に永田町GRiDで開催されたイベントで存在を知って以来ずっと注目している)

一言で言えば、浦幌ワークキャンプは、ヤフー株式会社・ロート製薬株式会社で働く社員と、地元浦幌町でまちづくりや事業を行う人との共同プロジェクトです。
東京の会社の有志社員と地元の事業者が、定期的に浦幌町にリアルで集まりながら、地域の課題解決に向けた知恵を1年間に渡って出し合い、最終的には地元産業である林業をテーマに、「BATON+」という新会社の創業にまで至っています。浦幌町で林業の第一線で活躍しているメンバーに加え、ヤフーとロート製薬のマーケティング部門のメンバーが副業で携わることで、地元事業者だけではできないような事業展開を狙うこともできます。

さらに、この浦幌ワークキャンプをきっかけに、元メルペイ取締役の辻木勇二さんが浦幌町へ移住してきて、デジタル森林浴をテーマとした浦幌町初のITスタートアップ「フォレストデジタル」を創業するなど、まさに、多様な人材が(定住ではない形で)地域に関わることで、結果として地域から新規事業や雇用、人の移住が生まれる一連のエコシステムが成立しています(写真:フォレストデジタル社が設立した、日本初の常設型デジタル森林浴施設「うららパーク浦幌」)。

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このように、十勝エリアは中心都市である帯広市だけでなく、宇宙版シリコンバレーを作ろうとしている大樹町、浦幌ワークキャンプなどをきっかけに新しいオープンイノベーションの形を生み出している浦幌町、本記事では触れませんでしたが、ふるさと納税で20億円を集めて新しい取り組みを進めている上士幌町など、それぞれの町が、それぞれの特徴を活かして「新しい地域のカタチ」に挑戦しています。

さいごに

本記事では、函館・厚真・帯広と回ってみての気づきと、参考になりそうな事例をいくつかご紹介させて頂きました。そのなかでも今回のnoteのテーマである「地方都市における起業・ベンチャー創出の取り組み」という意味では、やはり十勝・帯広エリアが頭一つ抜けている印象を受けました。今後は私も十勝出身者として関わりを持ち、さらにこの流れを加速していけたらと感じています。

フルリモートでいろいろな事ができるようになったこの世界で、首都圏の人材と地域に根ざした人材とのコラボレーションはまだ始まったばかり。地域のポテンシャルはまだ10%も解放されていません。このnoteが、これから地域で新しい取り組みを始めようとしている方、地域活性化に悩んでいる方、東京にいながら地元に貢献したい気持ちを持っている方にとって、何か少しでもヒントとなりますように。

普段は札幌で、スタートアップ投資や起業家育成の取り組みを行っています。何かご一緒できそうな方、興味があるという方がいれば、ぜひご連絡ください!
Mail:info@polarshortcut.jp
Twitter:@OkbNori

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