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【短編小説】心配かけても

ゴホゴホっ!

わざと大きな声で咳をする。


お母さんが大丈夫?と駆けつけてきて

僕はちょっと胸を撫で下ろす。


『かまってくれた』
こころで響く僕の声



「ありがとう」と重い体を起こす


おかゆを作ってくれたけれどうまく力が入らなくて、
スプーンが持てない

心配そうに眺めるお母さんに
「大丈夫だよ」

僕が言う


でも
お母さんの優しい瞳は僕の手元にある

心配をかけて申し訳ない

でも

ほんのり嬉しい

心配されたいと言う気持ち


寂しいから

だめだなぁと思うけど…



おかゆを食べ終えたらお母さんは

もう一度おとなしく寝ていてね

と僕の着替えを持って席を立って


あぁまた寂しい部屋だ
とお母さんが座ってた椅子を眺める



風邪をひいて寝込んでいる僕



昨日休みの友達へ学校の連絡手紙を届ける役を引き受けて…



先生が誰か行ってくれますか?

誰も手を上げないし、


僕が行きます!

そう言って、大量に受け取った手紙を
冷たい雨の中友達の家を巡った

そのせいで今度は僕が熱を出してしまった…


『褒められたい』
『かまってほしい』

うっすらと脳裏によぎる



そして一番大きく響く僕の心の声

『心配されたい』


かまって欲しいだけなのかな



びゃくしょん!と大きなくしゃみ

ずずっと鼻をすする


部屋の扉がドン!と開いて、
僕は少し期待してしまった


お母さんにまたかまってもらえると思ったから


それとも早く帰ってきてくれた
お父さんかな?とも


でも
入ってきたのは小さな影だった



立っているのは小人さん…?

ぎょっと目を見開く

「…だあれ?」

そこに立つ小人さんは、
白雪姫に出てくる小人みたいな服装をしてる…



体を起こして
じっと見つめ合う

なんだか怖いと思って
ぎゅっと目を瞑る



膝の上にずしりと重みを感じ
恐る恐る目を開けると、小人さんが膝のうえに立っていた


「心配…っされたいんだね」
小さな口から聞こえる声


僕は少しうつむく


そして小人さんと同じくらいの
小さな声で


「…寂しいと思っちゃ
いけないの?」



すると小人さんは
「いけないわけじゃないよ」


「…ほんとに……?」と言う僕はこの状態に心を落ち着ける為
近くの水を口にした


けど動揺からむせてしまって

大きな咳をする僕


今度は本当にお母さんが駆けつけてきて
「大丈夫?!」



そして、お母さんの胸に抱かれた小さな赤ん坊に僕の目は行く


僕は、そう

寂しがり
弟が生まれてから余計に悪化した

「ごめんね!大丈夫だよ」

とこぼした水を拭いていると

お母さんは
「ほんとに大丈夫?お母さんが拭くわよ」
としゃがみかけてるのを僕は止める

弟が抱かれているから


ほんとは
大丈夫じゃない…もっと甘えたい。
さみしいし、手伝っても欲しい


でも言えない。

顔を上げるとお母さんはやっぱり赤ん坊のことが気になるようで

「…後で来るからちょっと待っててね」


忙しいはずなのにそう声をかけてもう一度リビングへ戻っていく背をながめる

パタンと閉じられたドア

僕は息を吐く

そして、小人さんの方を見る


お母さんにはこの小人さんのこと見えてなかった?


何も言ってこなかったし…

「どういうこと?」僕が尋ねる


「僕の姿は
君以外に見えないのだよ

…心配されること
そんなに嬉しいの?」



黙って近づいてくる小人さん

タオルを絞ってぼとぼと落ちていく水


その後訪れた静かな空間の中、
耳を澄ますと1階からお母さんの電話に出る声が聞こえていることに気がつく


きっと電話の相手は担任の先生だ


昨日、僕が雨に打たれたせいで寝込んでいることを話してくれている


そして心配してくれている先生の姿が目に浮かぶ


僕が聞き入っていると小人さんは言った

「いろんな人に心配をかけて、
それで君はどこが喜んでしまっているんじゃないの?」


「…だめだよねこんなの。」
と僕はポツリと言う



そう言うと、小人さんは
「そうだなぁ」と僕の膝の上から降りて、部屋を歩き回りながら言った


「心配されたい気持ちもわかるし
さみしいと言う気持ちもわかる

かまってもらえて嬉しいよね」


お湯をすすりながらゆっくり頷く僕  
「…でもなぁ」と小人さんは言った。


「心配をかけさせてまでかまってもらいたい?
自分で気持ちを伝えることが一番大切だと思うけど…」


そして続けて
「それに君の元気な姿を望んでいるんじゃない?」と



弟が生まれてからと言うものどこか感じてしまっていた。僕の寂しさ

かまって欲しい。心配されたい。

かわいい赤ん坊を目の前にすると
ふつふつ湧いてきてしまった気持ち…


風邪をひいて…
そんなことを理由にお母さんにあまり甘えきりになろうとしていた。

心配をかけさせてまで僕はかまって欲しかったのかな…


もう一度耳を澄まして
お母さんと先生との電話を聞く


申し訳ないと思う。
僕がこんな機会を利用してるみたいで…


2人には心配をかけているし

それに
聞こえてくる弟の泣き声


僕の大切な弟のはずなのに…
情けないお兄ちゃんだな

「赤ん坊は泣くことでしか寂しいと言うことを伝えられないんだよなぁ。」

当たり前のことを僕がつぶやく


すると、小人さんはふふふ
「よく気がついたね」と

今度は僕の頭を小さな手でなでてきた


なんだかその手が優しくて
寂しかった僕の心にじんわり染みてきてしまった。


「やっぱり僕寂しかったんだ」


口にするとどんどん止まらなくって


僕はついに泣き出してしまった



1人で泣きじゃくる僕の姿に小人さんは

「君は赤ん坊じゃないんだから、

口で寂しい時はさみしいと言って助けを求めればいいんだよ。
褒めて欲しい時は褒めて欲しい。
かまって欲しい時はかまってほしいと


そう伝えれば、
誰だって君に目を向けてくれるよ」

そういう小人さんに僕は

「そうだよね。そうだよね」と涙でいっぱいになった瞳で小人さんのことを見つめる


というか、
この小人さんは誰なんだろう?


突然現れて

僕のことを心の奥底を読んで
少しバカにしてから

でも

僕のことを励まして…


急に僕は眠くなってきた

熱が出ていたのは本当だったから、
咳をしたり泣いちゃったり…


やっぱり体が疲れていたようで、
気づくと、僕は眠りの世界に入っていた



目を覚ますと
夜10時になっていた


ぼーっとした意識の中僕は今日のことを思い出す

うっすらと思い起こされる記憶たち


咳をして駆けつけて来てくれた。
お母さんの心配そうな姿


電話越しに想像できる先生


泣くことでしかミルクを求めたり
意思表示ができない弟


そして、あの



不思議な小人さん


多分最後のは夢だと思う


わかってる。
きっと熱で変な夢を見ていただけだ


でも

心配をかけさせる

そんなので、僕の寂しい気持ちを埋めてしまうのは良くないと



寂しいなら寂しいと言っていいのだと
それを教えてくれて気づいたのは夢じゃない


僕には口がある
好きなように動くことができる


だから、健康であることも大事だし
心配をかけずにかまってもらうことだってできたはずなのに


横を向くと

看病してくれていたんだろうお母さんが
ベッドの横で弟を抱いて
こくりこくりと眠りこくっている


無駄に心配をかけさせてしまったなぁと、反省して


僕は
「ありがとう。」とそして
「心配をかけさせてごめんね」と声をかける

お母さんは、目をさまさなかったけれど
僕の声で弟を起こしてしまった


もし泣きだしたらお母さん起こしちゃう!

そう思って、僕は焦ったけれど

大きく開かれた瞳からは涙なんて出ることがなくて

弟はにっこりと微笑んだ

安心と驚きでほっとした僕は肩を落とす。




そして僕は、
弟の顔見てさっきの小人さんの姿が重なり


もしかして…


まさかとは思ったけど…


きっとあの小人さんは弟だ


この大きな瞳と小さな手。




僕は寂しいと言うことも言える
この弟と違って何でも言える



何があっても、
僕はこの弟に格好悪いところを見せないぞ

心配かけさせてまでかまってほしいさみしがりな僕なんて


かっこいいと思われる
兄ちゃんになってやる

心の中で誓った





あとがき

寂しいと言う気持ちから、心配をかけさせてでもかまって欲しい…と
わがままになってしまうことがあります。

心配をかけさせずに口があり意思を伝えることができるのだから、
そんなずるい方法に頼らず自分の心を満たすことができるようになりたいと思います

最後まで読んでくださりありがとうございました

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