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【短編小説】甘く溶け出たホンネ

お母さんとデパートへ帰省の時にもっていくお菓子選びにやってきた。

「仕方なく荷物もあるし、私もぶらぶらしたい」
と言いながらついてきた

仕方なく、面倒

そんな言葉を私は言っていたけれど
2人でのお出かけは楽しい
心の中では思ってる

のに

私の口から出る言葉は
冷たいものばかり…

「今日何食べたい?」と聞かれても

別に、なんでも

なんでもじゃない。

本当はお母さんのハンバーグ食べたい
でも素直になれない…

「せっかくだから服屋さん見ていく?」

そう提案されても、なんだかお母さんと一緒に服選びって恥ずかしくって

「…私1人で見るからいい」

とせっかく一緒にお出かけなのに別々のところでショッピングし始めてしまった…

同じ店でも互いに見たいものを見てしまったり、目を向けてしまうのは周りの商品や別のものばかり…

2人の目が合うことはない
自然にできる距離感


私が近づきたいのは距離じゃなくて、心の距離感なのに、勝手に離れてしまう…

周りの賑わう小さな子供たち
「ママ!パパ!」
と抱きつく、小さな子たちを見て

あんな風に素直になれていた時期が
私もあったはずなのにとため息を打つ

寂しいわけじゃない…と思うけれど、けれども、甘えたい気持ちって気持ちすっかり抑えていたな

それでも

「ほんとは甘えたい。さみしい」
そんなふうにお母さんの背を見て思ってしまった

もうすっかり追い越してしまった身長

こんな歳なのになぁ

突然ぱっとお母さんが振り向いて

「お菓子のギフト見てくるから
何か好きなものを見ていいわよ」

そう言われて、私はうんと
別に見たいものもないけれど
流れでうなずいてしまった


結局1人になってしまって
なんだか心細い気持ちになった

「…一緒に見ればよかった」

ともう遠くへ行ってしまったお母さんのぴょこぴょこした跳ねた毛を見て後悔する


様々なお菓子屋さんやパン屋さん。
ケーキ屋さんにカフェ…
いい匂いが漂う

私はあてもなく、ぶらぶらと歩く

甘い匂いに誘われて、
私がたどり着いたお店

デパートとは思えない
…なんだか駄菓子屋っぽい雰囲気だ


棚に置いてある木の箱には
きらめく色とりどりの飴ちゃん

「飴ちゃんの試食?」


そろそろ小腹が空いてきていたし、
私はこのキャンディーを1つつまむことにした

久しぶりに食べた甘い飴ちゃん


…何味だろう?

何だかわからないけれど、
なんだか温かい懐かしい味がする


「何味なんですか?」

と、theおかんって感じのエプロンをつけた店員さんに尋ねてみた

すると

「これはオリジナル味ね。
何味かはっきりと言えないんだけれど。ふふ

不思議な力が湧いてくる。

そんな飴ちゃんなんだよ」


「不思議な力?」

私が尋ねると

ゆっくりとおかんみたいな見た目した店員さんはうなずいて

「湧いてくる力はね、人によって違うから何が出てくるかは舐め終わってからのを楽しみだよ

もしこの飴の力がいいなと思ったら、また買いに行く来てごらん」

私はうなずいて
飴ちゃんを舐めながらショッピングを続けた


不思議な力ってなんだろう…?

まさかそんな不思議なって言ったってただ企業秘密の味を言いたくないだけでしょ

不思議な力なんてあるわけない

そう思ってた



…でも私は驚いた

ほとんど飴ちゃんが溶け始めた頃、
お母さんの姿を見つけた私の行動に。


もっていくお菓子を決めたようで、両手には大きな紙袋2つ抱えていて、なんだかおぼつかない足取り。
おっとっとってなっている


そんな姿を見て私は駆け寄った


普段なら無視してたかもしれない。

お母さんが持つの普通でしょ

そんなふうに思ってたかもしれない
仮にもつんけんした反抗期だから

でも私の口は
「お母さん!重いでしょ持つよ」

すると目を見開いてお母さんは
「どうしたの?あっ」

と私は持っていた紙袋を奪い取って
今度は私が重さでおっとっととなる

「ふふ、無理しないでいいのよ!」
と言うお母さん

「いやいや!お母さんこそ無理しないでよ」

と普段言わないような言葉が口から滑り出て私はどういうこと??

と心の中で思って困惑しきっていた

のに、
口から出てくるのは柔らかい丸みの帯びた言葉ばかり

「どうしたのよ。ふふっ」

とでも嬉しそうなお母さん

私は自分の行動に不思議だったけれど、でも本当は優しくしたかった

そんな気持ちがあったのはやっぱり本当だったから、私はそのままお母さんに初めてこんな言葉を言った

「いつもありがとう。大好きだからもっと手伝いたいなーって思ったの!

別に何かの日じゃないけれど、ありがとう!」

するとお母さんは太陽のような笑顔になって

「…もう!どうしたの急に甘えて」

へへと笑いつつ紙袋を持ち直す私

「もうお店見てもらわなくていいの?」

と聞いてきたお母さんに私は

「あ!」
と言って

「ちょっと待っててね。1つだけお買い物してくる」

私はさっきの駄菓子屋風のお店へと戻った

甘い香りが漂う店内
懐かしい香り…

「…あぁいらっしゃい」

と迎えてくれたのは、もちろんさっきのおかんっぽい店員さん


「さっきの飴ちゃんください!」

と私が3個入りのさっきの不思議な飴ちゃんを店員さんへ手渡した

「この飴ちゃんどうだった?」

と受け取りながら聞いてくる店員さんに

「私、本当にこの飴ちゃんで不思議な力が沸いたんです」


ほうと自慢げにうなずく店員さんに私は続けて言った。

「私ずっとお母さんに冷たくしてしまってたんです。
本当は感謝してるし大好きなんですけど、素直になれなくって…

反抗期ってやつですよね…へへ」

少し照れながら私が説明する。


「それでいつも歯向かっていて。
でも…この飴ちゃんを舐めたらなんだか優しい気持ちが溢れるように湧いてきて。

いつぶりか分かんないけど、いつもありがとうってお母さんに言えたんです。優しくなれたんです!

こんなことあるなんて思わなくって、
この飴ちゃんのおかげなのかわからないけれど、このあったかい気持ち。
不思議な力…

飴ちゃんの舐めたときの心の温かさ、
お母さんにも味わってほしいなってそう思ったんです」

すると店員さんは顔を綻ばせて

「なるほどねえ。素敵な考えが湧いてきてくれて、私も嬉しいわぁ」

そう言って飴ちゃんをかわいい袋にラッピングして私に手渡してくれた。


「3つあるけれど、
これは誰と誰に渡すの?」

そう楽しげに聞いてくるおかん風店員さんに私は言った

「1つはもちろんお母さんです。お母さんの不思議な力どんなものなのか気になるし。

2つ目つは私がまたとげとげした気持ちが出てきたときに舐めようかなって…」

「じゃあもう一つは?」
と優しく尋ねてくる

「これは店員さんにプレゼントです」

と1つ袋から出して包みを開け、
私は店員さんに手渡した。


「あら、まぁ!」
と言うやっぱりおかんらしい声を上げる。店員さん

思わずふっと笑ってしまって、なんだかまた優しい気持ちが湧いてきた

いつもツンツンしてしまって、
最近人に優しくするなんてことを忘れていたかもしれない

でも、このふしぎな飴ちゃんを舐めて私の心はすっかり優しい私になっていた

「じゃあ今、お言葉に甘えて辞めちゃおうかな」

そう言って飴ちゃんを真っ赤な口紅をつけた口に放り投げた。

すると頬に手を当てうっとりとした表情になって

「おいしいわぁ。ありがとう

やっぱりお客さんの笑顔見ることが私の幸せね。
魔法の力、私も湧いて来ちゃった!

もっと人を笑顔にしたいって力がね」

「よかったです」
と満足げな笑顔を浮かべる私

幸せな空間が私たちの周りを囲こった


店員さんに手を振り私はお店を後にした


そして向かう先は、もちろんお母さん

「お母さんお待たせ!」

と言って飴ちゃんを1つ手渡した


「…飴ちゃん?」
と首をかしげる、お母さん

「そう!不思議な力が湧いてくる飴ちゃんだよ」

きらめく飴ちゃんを眺めながら

「プレゼントなんていつぶりかしら」と嬉しそうなお母さん

「いつもお世話になっているのに何もできてなくてごめんね!」
と素直な私がまた飛び出てきた

「やけに今日は素直じゃないの!
別の子になったみたいで、不思議だわ」

別の子と少し膨れっ面になる私


「ひどい言い方しちゃったわよね…

別の子なわけない。
あなたは、私の唯一の大切な大切な娘だもの!

ツンツンしてたって甘えてたって、
素直だって。どんな姿のあなたでも
私はずっと大好きよ」

お母さんの優しい発言に、私はまた甘えたい気持ちが増大してしまって、周りにたくさん人がいるのに抱きついていてしまった


お母さんにのもとに生まれてよかった

生まれ変わっても私はお母さんと親子でいたいそう思った。


不思議な飴ちゃん…ありがとう。

素直な優しい私を出してくれて
お母さんの輝く笑顔。
おかんみたいな雰囲気の店員さんの笑顔…


そして、私の気持ち


全部があったかくなった私の心は
この世全てにありがとうと言えるようになっていた


あとがき
最近自分のお母さんがとても大好きです
もちろん、ずっと大好きであったのですが、素直になれない時期が続き、ありがとうや大好きという言葉を言っていませんでした

けれども、最近素直に言えるようになって、さらに大好きが増したので書きたくなってしまったお話です。その相手にでも素直になる事は難しいけれど、気持ちを伝える心の温かさはずっと持っていたいものです。

最後まで読んでくださりありがとうございました

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