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【短編小説】みんなどうぶつ

「あの人はライオン

あの子はパンダ


ふくろうみたいな目をした女の子」


私には、人の顔が動物の顔に見える
駅で目の前を行き交う、たくさんの人々


幼い頃に恥ずかしがりなのと
人間と目を合わせることが怖かった私におばあちゃんが言ってくれた

「人間の顔をみんな動物さんだと思えばいいんだよ

例えば、そうねぇおじいちゃん。

なんだかあの渋い眉毛がワシみたいでしょ

だから、おじいちゃんはワシ
そう思ったら少し喋りやすくなるんじゃないかしら?」

そう言われてから私は周りにいる人のことを動物に当てはめるようになった。

幼い頃の人間の顔が、なんだか怖くて。

コミュニケーションなんてうまくとれない。
人と目を合わせることができない。

友達の少ない私にとってはそのおばあちゃんの提案はとても良いものだった。


動物好きだったし、人間じゃないって言うだけで、私はなんだか別のものと話している…おとぎ話の中にいるから…

みたいな感覚で今まで過ごしていた



本当に、今の今まで

もうすっかり高校生にもなったのに。

でもその弊害で
こんなことばっかりしてたら、私は人間の顔というものがわからなくなってしまった


それは私の顔もそうだった


目を背け続けた結果、
何かに例えることができない自分の顔というものが醜くなって…

私の顔が素直にみれない


それに、人間に対する私の感覚。

対等に話せない


顔のパーツの特徴から
なんだかハムスターみたい
とか
たれ目の感じが、なんだかナマケモノみたいだなぁとか

そう思って相手に対して動物に話しかけるみたいになっていた。

それは扱いとして酷かったかも知れない



中学生の頃、隣の席だった男の子
「なんだか蛇みたい」

そう第一印象を抱いてしまった瞬間
私はなんだか彼のことが怖くなってしまって

話しかける時、ビクビクして少し距離を置いて話すようになっていた

それは彼に対してだけではなくて怖いと思った顔の人は、かわいい動物じゃなくて、ちょっと攻撃的な動物に例えてしまい

私はそのたびにその相手距離を置いてしまっていた


自分のこの動物に当てはめる行為があまり良くないのでは…と。

うすうす感じるようになっていた

そして何よりも

相手を人間として同じ立場として見れていない自分。


そんなものに自己嫌悪さえ感じ始めた

それでも小さい頃からの習慣は、やっぱり変わらないもので、

今でも動物に見える



人間として、相手を見なきゃいけないのに

誰とでも対等に関わらなきゃいけないのに…


そして、鏡に映る目の前の私と言う存在自体認めてあげないといけないのにな


私はすっかり
私と言う存在をこの世から消していた




「…あの」
後ろから肩を叩かれて私は振り向いた。

立っていたのはどこの高校かわからない制服を着た同い年位の男の子


すると、彼は「ハンカチ落としましたよ」


私のピンクのハンカチを手に取り渡してくる彼


「ありがとうございます」と言って、
私は彼の顔見て何か違和感を抱く


あれ?

初めて人の顔を動物だと思わなかった


思わずありがとうって言った後に
「えっ?」と言う声が出てしまい


彼は不思議そうな顔をしている


気持ちが不思議なのは私の方だった


「…いえ、ありがとうございます!」


そう言うと彼は少し照れた表情で
「どういたしまして」

そう言って。でもすぐに立ち去ろうとしない彼の顔は、
やっぱり動物の顔に見えなくて、

私もなんだか固まってしまう。



どうしてだろう。


初めて人間として関われた気がした。


彼は、はっ!として
「あ、もう行かないといけないですよね。すみません。

それでは」


そう言って、
立ち去る彼の顔が何故か忘れられない

突然話しかけられたからなのか、
彼だったから…なのか。




そして今気がつく


ありがとうという言葉


私は誰かに言った経験がほとんどなかった
酷い話だけれど

相手を動物として見ているせいで、
私はどこが心の優しさや感謝というものが消えていたようで。

人間とただしゃべれたらいい。
怖がらずに関わることができたら最低限それでいいと思っていた



だからありがとうって言葉を発した瞬間、
人の顔が人間として見れるようになったんだ


怖いと思ってた


過ぎ去っていく目の前の
動物たちだった人間


対等に見ることができない。

ひどい自分だったから
ありがとうなんて言ってなかった。


人の優しさの言うものに触れて
人間って怖くないんだって


そう思えたから、
私はきっと彼の事は動物に見えなくて


そんなフィルターかける必要なく
彼のあの澄んだ瞳を見ることができたんだと思う


拾ってもらったハンカチを握り締めて。
私はもう一度彼の顔思い出す




久々に認識した人間という顔


久々だからと言うのもあるかもしれないけれど、

彼の顔だけははっきりと今までにない位覚えていて



もう会えるかわからない

彼にとっては、ただの何気ないハンカチを拾っただけの行動だったと思う



でも、私にとっては、
世界中の人間を対等に見ることができるようになるきっかけをくれた

そんなかけがえのない人物だった。



そして私は鏡を見る

ずっと目を背けていた。私の顔


何の動物に例えるなくて、
見たくないと思ってた
私の顔は


小さい時に見たあのおばあちゃんの優しい瞳ととても似た
トロンとした優しい一重まぶただった


おばあちゃんのことを思い出した瞬間、
今まで見てきた動物に例えてきた人々の顔がなんだかよみがえってきて…

今まで見てきた人の顔が本当はしっかりと覚えていることに私は気がつく




なんで今まで対等に人間として見て扱えなかったんだろう

怖いライオンだから距離を置いたり、小動物みたいだからと子供扱い勝手にしたり…

「ばかみたいだな」


ふふと自分をあざけ笑い
私は足をもう一度進める


人間たちの世界へと
もう私は誰と目を合わせることも怖くない

大丈夫。

思っていたより、みんな優しい



ライオンや蛇なんていない


そして、友達。

小動物に見えていた友達もしっかりとした人間だ

可愛い女の子達だ


もうビクビクせずに、
私は世界ありがとうと言える
目を合わせて



そして、目の前の鏡の私にも言う
「ずっと目を背けてごめんね

これからこのおばあちゃんとおんなじ瞳で世界を見るよ」


あとがき

人と関わることが苦手な私は人とコミュニケーションを取ることを自ら避けてしまいます 

 それでふと思いついたのが、人の顔を動物だと思って関われば良いのではないか…と。

そうは思ったのですが、対等に人間として見ることができていないと言うことに気が付きできたお話です


人と関わる事を積極的にはなれない私ですが、誰とでも対等に関わることができるようになりたいと思います


最後まで読んでくださりありがとうございました

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