こんな私には写経が必要だ
NHKのドキュメンタリー「72hours」がすごく良かった。今回のテーマは「写経」。様々な理由で写経に来る人たちがいる。
印象に残ったのは山手線の車掌をつとめる男性。写経に来る理由を語る言葉が素敵だった。仕事は毎日毎日同じことの繰り返し。安全に運行できるように指差し確認をして、時間通りにお客さんを運ぶ。思い通りにできるときもあれば、思い通りにいかないこともある。そんな毎日だから、心を整えるために写経に来るのだと。
たまの休みの日でも、より高い質で仕事を遂行できるように自己管理をおこなっているその実直さ、仕事への熱意や誇り、お客さんへの想いに心を打たれた。
もうひとりは、年に4回来るという初老の男性。今日は母の日だから来たという。なぜ母の日に写経なのかと思えば、その人の母親は認知症でモノをあげても忘れてしまうそうだ。だからモノをあげてもあまり意味がないから、すこしでも元気で長生きしてほしいという想いを込めて写経しているのだと。母の日以外には父の日と両親の誕生日に。だから年4回。写経に来るのはいずれもご両親のことを想う日だったのだ。
そのおじさんは、それは「祈り」のようなものだと言っていた。現代の日本人にとって祈るという行為はすっかり縁遠いものになってしまったし、なんなら胡散臭いもののようにも思えてしまうけれど、こんなあたたかい祈りもあるのだと知った。その男性は「まあ自己満足かもしれないですけど」と自嘲気味にはにかんでいたが、祈りとは本来そういうものなのだと思う。自分ではどうしようもないことだから、超人的、超自然的なものに願いを込めて待つ。そうすることで、いくらか自分の不安が和らぐ。祈りの対象となる本人には届いていないかもしれないけれど、どこかで誰かが自分のことを想って祈ってくれているという事実があるのなら、それは幸せなことだ。
その場には外国人のお客さんも来ていた。「ルワンダで外国人向けに写経教室やったら儲かるんじゃないか」とよこしまな考えが浮かんだ自分にこそ、写経が必要なのかもしれない。