僕たちはこれからどう食っていくか
東京は中目黒に集結した、全員メガネの男たち。彼らは視力が悪くとも、時代を見る目は持っているとかいないとか。
集まったのは、3つのグループ、計6名。
第一弾プロダクト「HINGE」が大ヒットし、次々とストイックなプロダクトをリリースしているidontknow.tokyo。
インターネット時代のワークウェアを標榜し、クラウドファンディングで新作ウェアを発表し続けるALL YOURS。
そして「WORKERS'BOX」が売り出し中のHI MOJIMOJI。
彼らが時を同じくして経験した「これまでにないできごと」から互いの共通点を探り合い、これから「どう食っていくか」を話し合った秘密会議の模様をテキストでお届けします。
(このnoteは2018年2月2日に開催されたトークイベント「僕たちはこれからどう食っていくか会議」を書き起こし、再構成したものです)
登壇者
【1】僕たちに何が起こったのか
木村:自己紹介していきます、司会のオールユアーズ木村です。池尻大橋のお店やオンラインで洋服を販売していまして、クラウドファンディングで新商品を発表しています。2017年はCAMPFIREさんのファッションアパレル系カテゴリーで日本一の支援額をいただきました。
松岡:すごい!
木村:これまで「水をはじいて雨の日でもずっと着られる綿のパーカー」とか「脇汗がしみなくて体の臭いが気にならないTシャツ」とか、生活のストレスを解消する商品を作ってきました。今、会社の売上げのほとんどはクラウドファンディングです。
青木:社員さん何人いるんでしたっけ?
木村:6人です。
角田:クラウドファンディングだけで6人食ってるって!
田久保:グラフィックデザイナーの田久保と申します。
木村:田久保さんはアイドントノウのメンバーの一人なんですけど、オールユアーズのロゴを作っていただきました。
青木:田久保さんのファンジスタぶりがこのロゴに表れてますよね。すごくシンプルだけど、解説を聞くとまた意味が違ってきます。
田久保:オールユアーズさんのコンセプトはその名の通り「あなたのため」で、「あなた=U」が必ず中心にくるレイアウトをしています。このロゴデザインをきっかけに、今では商品のタグ制作やネーミングでもご一緒させていただいてます。
木村:お世話になっております。
田久保:テントの青木さんと治田さんとは以前から公私ともに仲良くしていただいていて、アイドントノウではメンバーのひとりとしてグラフィック周りを担当させてもらってます。
治田:治田と申します。青木さんと2人でテントというデザイン事務所をやっています。普段は工業製品のメーカーさんからお仕事をいただいて、製品をデザインする仕事をメインでやってます。
青木:はい。
治田:加えて自社商品を自分たちで売ることもやってまして、その延長線上で、アイドントノウという集まりでストイックなプロダクトをこれまでにいくつか発表しました。
木村:そもそも「アイドントノウ」って何でしたっけ?
角田:その説明は僕から。メンバーのひとりで、トゥエルブトーンの角田と言います。「YOKA」という組立家具シリーズや玩具をデザインしている者です。
角田:テントさんとはご近所さんで、普段から飲んだり遊びに行ったりする仲で。
青木:一緒に旅行に行ったりね。
角田:お互い考えるのが好きなので、事務所に行くといつもブレストが始まるんです。そこであるとき「考えるモノを作ろう」となったとき、「そもそも考えるって何なんだ?」「アイデアって何にも知らない状態から生まれるんじゃないか?」って話になって。
木村:「知らないことから始めよう」
角田:そうそう。何かを知ったかぶりした状態で、新しいことって考えられないんじゃないかなと。
青木:「知ってるよ、知ってるんだけど、知らない」
角田:スマホに「今日のお天気は?」って訊いたら分かるくらい何でも知れちゃう世の中だけど、あえて「俺たちは知らない」と言うところから始めるのが「かっこいいじゃん」って。そういう風に名前が決まったのがアイドントノウなんですね。
木村:いつの間にか人が当たり前になってるルールとかをぶっ壊して、「知らんがな」という感じで「もう一回ゼロからモノを作り直しましょう」というグループですね。
青木:週に一回集まる部活動かな。それで結構いいモノができたんですが、発売はどうするか、展示会に出すのか、みたいな話をしていたときに「なぜそれを作ろうと思ったのか」とか「こういう風に好きだ」というのを隠し事なしに全部サイトに書いちゃえと思ったんですね。
角田:そんなやり方、僕らはこれまで考えたこともなかったんですけど。
青木:次の日からドメインを取ってサイトを立ち上げて。この「HINGE」というメモパッドが第一弾アイテムなんですけど、ものすごい情報量の開発ストーリーを公開したんですね。「こんなに長いの誰も読まないだろう」と思いながら。
木村:これ、すごいプロダクトなんですけど、コピー用紙をはさんで、アイデアが思いついたらパッと広げてすぐ書ける。
青木:もともとアイドントノウの4人ともコピー用紙を使ってたんですよ。
木村:一般的なノートだと「谷間のところがイヤ」だとか「前のページがイヤ」「線が入ってるからイヤ」って不満があって。だから「コピー用紙を使えるメモ書きを作ろう」ってことでできた商品ですよね。
青木:コピー用紙だけだと「わしゃわしゃになって困る」という問題があったから作ったんですが、はじめは正直「誰が買うねん」って思ってました。
木村:でもコピー用紙でスケッチをしている人が実は多かったというのが広まった要因ですよね。ものすごくターゲットを絞り込んで「デザイナーのアイデア出し用」に作ったはずが。
角田:誰かが作ればよかったんだろうけれども、みんなクリップボードがある時点で諦めているんですよね。「コピー用紙を使うものはクリップボードである」と。そこが僕らからすれば「I don’t know(知らんがな)」ですよ。
木村:書く面が全部フラットなんですよね。だから邪魔するものが何もなくて、頭の中にあるアイデアがそのまま全部ここに出せる。
青木:で、Twitterを中心にみんなに「面白い」と言ってもらえて。初めての取り組みなのに、すごく拡散してもらえて、いっぱい買ってもらえて。というのが最近、アイドントノウに起きたことです。
木村:同じことがハイモジモジにも起きましたよね。
【2】僕たちに共通していたこと
松岡:ハイモジモジの松岡と申します。主に文房具を作る会社を夫婦でやってます。
松岡:うちの妻、片づけがめちゃくちゃ下手くそで。以前ふたりでひとつのテーブルを共有してたんですが、常にデスクが散らかっていたんですね。彼女の書類が僕のほうにどんどん攻めてくる。
木村:向かい合わせに座ってたんですね。
松岡:そう。それで僕の周りのスペースをすべて占拠されてしまいまして。結果、事務所の中で作業する場を分けました。
木村:別居だ。
松岡:家庭内別居ならぬ事務所内別居。ただ、彼女としては「ちゃんと片づけたい」という理想はあったようで。そんな彼女が自分のために作ったのが「WORKERS’BOX」という箱です。
木村:これ、僕も事務所や家で使ってるんですけど、とりあえずこの中に入れるんですね、書類を。自分である程度グルーピングして入れておく。すると、すごいことが起きるんです。「散らかったものたちが本来あるべき場所に帰っていく」みたいな片づき方をするわけです。
田久保:「散らかる=所在がない」だと。
木村:そうそう。だから「WORKERS’BOX」でモノの住所をちゃんと決めてあげて「ここですよ」と納めてあげると片づくんです。
角田:すごい。
木村:僕も事務所で怒られるほど、めちゃくちゃ散らかしてたんですよ。でもね、これで解決しました。
松岡:文房具って片づけが得意な人には使いやすいものですが、苦手な人にとっては難しいんですよね、使いこなすのが。ところが「WORKERS’BOX」は片づけが苦手だった人が目の前でどんどん片づけていくので「本当に使えるものなんだ」と気づいて。それで商品化することにしました。
木村:売れたきっかけは何だったんですか?
松岡:Twitterですね。商品を分かりやすく4コマ漫画で紹介したら、たくさんリツイートされまして。
松岡:はじめはFacebookの投稿を見た友達がみんな買ってくれて。普段そんなに買ってもらえないですよ、いくら友達だからって、モノを買うときは一消費者として「自分に必要かどうか」で判断するわけだから。でも今回は違った。ということは「情報さえ届けば響くはずだ」と思ったんです。そこで一番拡散力のあるTwitterを活用することにしました。
木村:松岡さんのTwitterめちゃめちゃ面白いんですよ。IKEAのソフトクリームのやつとか、拡散してメディアにも取り上げられましたよね。
角田:それ何リツイート?
松岡:26,000でしたね。「WORKERS’BOX」よりも拡散しました(笑)
木村:アイドントノウの「HINGE」もTwitterがきっかけですよね。
青木:はじめは個人のFacebookから広めたんですが、いきなり100人ぐらいに買ってもらえてびっくりしました。それが落ち着いたある晩、ネットショップで23個売れたんですね。興奮して角田さんに「大ブームが来た!」って騒いでたんですけど、次の日に3,000個売れて、前日の23個どころじゃないことが起きたんです。
角田:そうなんですよ。
青木:自分たちの全然知らない、買ってくださった方がツイートしてくれて。「WOREKRS’BOX」と同じ16,000リツイートでした。
木村:すごい。
青木:急に拡散されて、その様子を分析してくれた人もいて。その記事によると、有名人やメディアが拡散してくれたわけじゃなかった。
角田:そうなんですよね。バズライターみたいな影響力のある人に拡散いただけたのかと思ったら、同心円状にワーッと広がってたみたいで。
木村:商品を紹介するプロの人じゃなくて、買ってくれたユーザーさんが「この商品面白いよ」って広めてくれたんですね。
青木:もうひとつ面白いのが、もともと「HINGE」はデザイナーがアイデアを出すためのツールとして作ったんですけど、拡散してくれたのは腐女子の方々だったんですよ。
田久保:腐女子って言っちゃっていいの(笑)
青木:まあ、自分でプロフィールにそう書いてる方々なので。
角田:「HINGE」を使って描いたマンガをTwitterにアップしてくれるんだよね。
木村:自分たちが想定していたのとは違う人たちにも響いたんですね。
青木:全然想定してなかった用途で、ものすごい売れ方をした。面白い経験をしました。
松岡:うちも「WORKERS’BOX」って名前だけあって、お仕事されてる社会人向けに作ったんですけど、腐女子も多くて。
田久保:また腐女子(笑)
松岡:アニメグッズなんかをコレクションする方々が「WORKERS’BOX」の中に収納する用途で使われるんです。もちろんTwitterのユーザー特性もあるんでしょうけど、そういう方々にも響いたのはうれしい誤算でした。
木村:オールユアーズもSNSきっかけなんですよ。メディアの取材を受けたのはクラウドファンディングで売れてからで、やっぱり最初に広めてくれたのはお客さんなんですよね。
松岡:ああ。
木村:SNSで一般のお客さん向けに発信していたら、思いがけないところにも響いてくれた。これがこの場に集まった僕らの共通点じゃないでしょうか。
【3】僕たちはどう売っていくか
木村:SNSで発信していたら、お客さんがどんどん広めてくれた。そういうメンバーが今回集まったわけですが、もしもメディアからの発信だったら受け取るユーザーさんはセグメント化されていたはずで。
青木:今回、起きたことで自分たちでも驚いているのが「今までの売れ方と違う」ということ。
木村:アパレルだったら、まずは展示会に出て商品を発表します。それを見てバイヤーさんがお店に置いてくれたり、メディアが雑誌に載せてくれたり。モノの流通って本来、そういう流れだったんですよね。
角田:雑貨や家具も、商売の中心はやっぱり展示会なんですよ。ギフトショーとかに出展して、お店のバイヤーさんに来てもらって、お店に置かれることを前提にしたモノづくりをする。
青木:僕が独立前に大きいメーカーで開発してたころの話をすると、開発とは無関係な広報の部署の人がいて、彼らがメディアに告知して、場合によっては発表会をする。あるいは記事を書いてもらうためにプレスリリースを送る。そこからお店に卸して、量販店でプロモーションがあったりして。やっぱりメディアかお店が入口だったんですよね。
角田:規模の大きいところだと、さらに営業さんもいて細分化されてますよね。
青木:そうそう。
角田:デザイナーとお客さんが直接触れることがない。
青木:商品を作る人は奥の方にいて、そこからすごく遠いところに営業さんがいて、お客さん窓口があって。クレームがあったとしても、こっちの耳には入ってきません。
角田:だから独立して自社商品なんかも作られてるテントさんは、バイヤーさんやお客さんに接することができること自体、面白いことだったりしますよね。
松岡:うちも「Deng On」というキーボードに立てる伝言メモが最初にヒットしたんですね、大手雑貨チェーンさんにも特設コーナーを作ってもらったりして。そういう経験があるから「まずはお店に卸す」のが第一だったんですよね。ただ「どうすればそのお店に商品が置かれるのか」ってことばかり考えるようになっちゃって。
木村:お客さんじゃなくて売り場を見てたんですね。
松岡:具体例で言うと、他社の商品で吊り下げボードにたくさんの種類が並んでいる付箋を店頭で見つけたんです。このスペースにハマる新商品を出せば、いずれうちが取って代われるんじゃないかと考えて、同じサイズの什器まで作りました。でも、思うように売れなかったんですよね。
角田:売り場のことを考えて作ったのに、売り場に並ぶこともなかったと。
松岡:その先に本当の意味でのお客さん(=それを使ってくれる人)がいるはずなのに、その手前の「売り場」のことばかり見ちゃってました。「このままじゃダメだな」と痛感しましたね。
木村:「HINGE」も「WORKERS’BOX」も「自分たちが使いたい製品」ですよね。
松岡:そう、まずは自分たちのために作って、商品化するかどうかはその後に考えました。
木村:自分たちが「欲しい」と思った。だからこそ熱量を持って伝えられたし、予想だにしなかった人たちにも響いた。思えばここにいるみんな、自分たちでコンテンツまで作ってるんですよね。
青木:以前メーカーに勤めてたときに「プロトタイピング」って言葉をよく使ってたんです。試作を使ってみてプロダクトの改善をする、テストルームでユーザーテストもするという意味で。でも今みたいに自分たちでコンテンツを発信して、売って、出荷もして、クレームも直で受けることのすべてがプロトタイピングだと気づいたんです。
松岡:ああ。
青木:そう考えると「もう展示会に出さない」とか「お店には卸さない」と主張したいわけじゃなくて。僕たちは作るところから売るところまでを含めた「全体のプロトタイピング」をしてる。
木村:今、デザイナーとかメーカーの領域が変わってきていて、売るところまでデザインしてますよね。雑誌なんかも同じで、最近は編集者が売るところまでやらないと、その雑誌が売れなくなってる。
角田:編集者が本を売るところまで?
木村:そうです。編集者自身にSNSの影響力がないと雑誌が売れない。
青木:ただ、僕としては「デザイナーが売った方がいいですよ」と言いたいんじゃなくて。結局今日集まったメンバーは実験をするのが好きな人たちなんですよね。その仮説を検証してみた成果を取引先の店舗さんに投げかけたい。「この仮説を使って一緒に遊べませんか」と。
角田:「こうやったら売れましたよ」っていうのを見せて、共有することもできるしね。
青木:もちろんその仮説が使えない場合もあるんですけど「僕たちの周りではこういうことが起きました」と実体験から言える分、今までのデザイナーとかメーカーとは違う感じになってるんじゃないかなと。
角田:お客さんを巻き込んで作ってる感じがあるんだよね。みんなで作ってるというか。
松岡:うちもお客さんからリクエストとクレームの両方をいただくんですけど、クレームから次の商品の展開につながることもあって、お客さんと一対一で接してる実感があります。
木村:ええ。
松岡:お店に卸してたときは「みなさん」に売ってたけど、今はネットを通じて「あなた」に売ってる。商品を届ける先の二人称が変わりましたね。
【4】これからどう食っていくか
木村:これから僕たち、どう食っていきましょう。
青木:そこですよ。
木村:たとえば「HINGE」はデザイナーさん向けに作ったら、意図しない腐女子のコミュニティにも響いた。つまりコミュニティベースでモノが売れてるんですよね。だから自分たちからコミュニティに向かって発信していくのが大事だと思うんです。
木村:たとえば今日みたいなトークイベントで「こういう考え方で作ってますよ」「こういう風にしたら上手くいきましたよ」みたいな事例をシェアして、それを参考に実行してみる人が現れたりする。そういう人たちが増えることによって、モノが売れたり、また新しい商品が生まれるんじゃないかな。
田久保:僕はグラフィックデザイナーとして独立するまで、すべての仕事がクライアントワーク(依頼される仕事)だったんですね。広告代理店とかいろんな業者が絡んでいて、世の中に公開するタイミングも完全にできあがってるんです。
木村:情報解禁が制限されますよね。
田久保:だから木村さんが前に仰ってた「発想から発送まで」って考え方が自分にとっては新しくて。アイデアが浮かんで「こんなの作り始めたよ」ってネットで配信して「こういう壁にぶつかったよ」「ようやく形になったよ」「発送するぜ」まで全部やるんですもんね。
田久保:今日集まったメンバーの商品がSNSでバズったのって、使い手でもある自分たちがユーザーとして売ってるからだと思います。実際に使っているところとか、商品ができあがるまでのストーリーだとかを高い熱量を持って発信すると「自分もこういう使い方ができそうだな」って、見てる人には伝わるはずで。ユーザー目線からユーザー目線に届いたというのは今回、大きかったんじゃないかな。
木村:著名人が発信すると結構バイアスがかかりますもんね。でもこうしてSNSで発信したことで新しい世界が見えた感があります。
田久保:失敗したらすぐ編集したり更新できるのもネットのいいところですね。
木村:オールユアーズは販売前に全部公開するんです。どういう風に考えて作ったとか、ここを悩んでるだとか。
治田:商品が売れた数も可視化してますよね。
木村:売れた数も買った人数も全部オープンにしてます。「モノを売る」というより「何人巻き込めるか」と考えてますから。
田久保:それで「共犯者」。
木村:そう、オールユアーズはお客さんのことを「共犯者」と呼んでます。
青木:別に悪いことしてないのにね(笑)
木村:世の中に対して新しい考え方を提示してるので、ちょっと悪いことをしてる感覚で楽しんでもらいたいんです。
青木:スティーブ・ジョブズも「海軍に入るより海賊であれ」って言ってましたもんね。
木村:だから僕にとっての「これからどう食っていくか」は「共犯者をどう巻き込んでいくか」ですね。
青木:思えば「WORKERS’BOX」も「HINGE」も地味な商品なんですよね。
木村:そう、めちゃくちゃ地味。
青木:ファッションやグラフィックの世界では「流行」があって、スタイルを取り入れることが一般的でした。「こんな80年代テイストどうですか」とか「今こんなテイストがキテます」みたいな。僕もメーカーでデザイナーをやっていたときは流行りを意識してたのですが……
木村:ええ。
青木:でもアイドントノウで「HINGE」なんかを作ってみて、どちらかというとノコギリを作った感覚があります。
木村:普遍的な「道具」ってことですね。
青木:「マイナスドライバーってものを作ったぞ」みたいな。そういう感じに到達できた、そのさわりが今回できたような気がしていて。ハイモジモジさんもそうですよね。
松岡:「WORKERS’BOX」も本当に、モノとしてはただの箱といえば箱ですしね。なのに売れてるってことで、木村さんに「錬金術」と言われました(笑)
治田:でも地味だからこそ、ちゃんと説明しなきゃいけないわけですよね。
木村:そう、自分たちで発信しないといけない。
青木:ドライバーだって「ただの棒じゃん」って言われたらその通りで。
角田:そうそう。それを「どう使うのか」を伝えないといけない。
青木:みんな素直にやると、シンプルなものを作ると思うんですよ。たとえば子供のために巾着袋をこしらえるときに、やたら変なギミックを入れる人っていないですよね。自分たちのために作ったら、シンプルでいいものができると思うんですね。それなのに、いざ売るとなると「色を派手にしないと売り場で目立たないんじゃないか」と思ってしまう。
角田:ファッション要素とかね。
青木:何かもう一個入れちゃうところがある。そのやり方が今までは正しかったわけですけど、今回の経験を経て「ネットでこんなにたくさん書いても読んでくれるんだ」と思ったら、すごく地味なものでもいくらでも思いを込められるし、伝えられる。それが勇気になった。
角田:それこそ売り場を意識してないから。
青木:よく「売り場では3秒で判断される」って言われるじゃないですか。デザイナーの仕事って、トレンドを入れるなり、びっくりさせることが仕事のコアだったんですけど、そういうのはもう無くなったんじゃないかと思ってます。ちゃんといいものを、ちゃんと語れるインフラが整ったので。
角田:ネットは誰でも使えるからね。
青木:「HINGE」も最終的にはブラックとホワイトを発売しましたけど、僕、はじめは黄色も作ろうとしてましたからね。
角田:えっ、そうなの?
青木:「売り場で目立つから黄色は絶対いる」って言い張って。でも田久保さんに止められました。
田久保:気持ちは分かりますけどね、売り場のことを考えたら。
青木:でもウェブ中心に売るって決めて、やめたんです。
木村:前提条件を外していくと、もっと自由度が逆に上がるし、インターネット的ですよね。インターネットで売ることを前提に考えると売り場で目立つ必要がない。
松岡:うちも以前は「パッケージも含めて商品」と考えて力を入れていましたが、それこそ「WORKERS’BOX」もネット中心で販売してるので、過剰なパッケージがないんですよ。
木村:見た目で勝負するんじゃなくて、どちらかというとコンテンツとか文脈の勝負ですよね。
青木:しかもそれが嘘じゃなくて。
木村:そうそう、「自分が欲しいものである」と。
青木:つまり「正直者が得をする」と?
木村:「インターネットは正直者が得をする」って、10年以上も前に糸井重里さんが言ってるんです。
青木:言ってましたか。
木村:僕ら、みんな「ほぼ日」が好きなんですよね。
松岡:かつて広告の仕事をされていた糸井さんが「ほぼ日」を始めた理由として「メーカーになりたかった」って仰ってたんです。僕がメーカーをやり始めたのはその後追いをしているようなもので、糸井さんの影響を受けまくってます。
青木:僕も「ほぼ日」にはすごい憧れて、普段からすごい読んで、本当に憧れているんですけど、彼らができないことができると思ってて。
木村:おっ!
角田:彼らを超えていくんですね。
治田:「ほぼ日」と同じことをしてもしょうがない、と。
木村:青木さんっていつも「逆ばり」ですよね。
青木:えっ、逆ばり?
木村:「人と違うことをやりたい」
青木:いやいや、全然、全然。僕、世の中が正しいと思うことをやろうとしているだけで。
木村:ということで、終わります(笑)
青木:本当なのに(笑)
【質問コーナー】
木村:さて、ここからは客席からの「質問コーナー」です。まずはこちら。
「自分が本当にやりたいことに、どうやって気がつきましたか?」
青木:消去法でやりたくないことから逃げてきたら「これしかできなかった」ですね。やりたくないことって、いっぱいあるじゃないですか。朝起きるのが面倒くさいとか、そういうレベルじゃなくて、仕事をする中で「どうしても無理だ」って思うことがあって。
治田:僕もそうで、組織で働けない人間なんです。学校みたいな場所でずっとこのまま一生過ごしていくのかと思うと、もう。だから「一人で生きていくにはどうしよう」って逆算して考えてきました。
田久保:僕ははじめ広告制作会社にいて、たとえば「新商品のパッケージがイケてないのでリニューアルしましょう」みたいな、デザインの消費スピードが早いことに疑問を感じてました。それに「かっこいい」「オシャレ」「きれい」みたいなデザインをできる人は世界中にいるから、もっと「自分にしかできないこと」や「やるべきこと」を探すようになりましたね。たとえば政府公式文書を読みやすい文字の配列にしてみたりとか。
角田:僕は好き嫌いがなくて、何でもやりたい方なんです。デザインもやりたいし、音楽も作りたいし、販売もやりたくなっちゃった。でも会社に所属していたら、デザイナーはデザインしかできないんですよね。だから「色々やれる環境」を自分で作るためにはどうしたらいいかと考えてきました。一回きりしかない人生だからね。
松岡:僕はもともとフリーライターで、あらゆるジャンルの広告記事を書いてたんです。あるとき、すごく手応えのある文章が書けたんですけど、提出後に修正されたことがあって。なぜかというと、その製品の仕様が突然変わったんです。でもこちらに情報提供している時間がないから、メーカー側で書き直されちゃった。もう、よそ様の都合に振り回されるんじゃなくて「自分のやりたいことをしたいな」と思いましたね。
木村:僕も会社勤めをしていたときに同じような考えをもっていたんですけど、とにかく会議が多くていろんな人の意見が入る。動機に対しての純粋性はどんどん濁っていくわけで、表に出たときに全然別物になっちゃってたりする。だから小規模でやってる人たちは「本当にこれがいい」と思った動機に純粋であることが大事だと思います。大手のメーカーさんはプロセス上、そういうモノは作れないので。
木村:こんな質問も。
「モノを作る上で大切にしていることって何ですか?」
松岡:「自分が欲しいかどうか」は絶対必要ですよね。こういう人が欲しいであろうという「仮想客」はいなくて、自分がお客さんであることがまず大事だと思います。その延長線上に「同じように欲しいと思っている人がいるはずだ」と信じる。
木村:自分たちで発信するなら、本当に自分が欲しいものじゃないと心からオススメできないじゃないですか。少しでも心に引っかかるところがあると押し売りすることになる。売れる、売れないの前に「自分がそれを欲しいかどうか」。
角田:「HINGE」で言うと、僕ら自身が試作の段階からヘビーユーザーだったんですよ。はじめはダンボールで試作したんですけど「すごくいいじゃん!」って。それ以来、僕ら自身がファンというか、手放せない状態になってます。
木村:作り手ですけど、同時にユーザーなんですよね。自分自身が使い手で、深く理解しないと売るのが難しい。関連して、こんな質問も。
「売れるものは考えない方がいいのでしょうか?」
青木:「売れるもの」を考えるのは本質的に無理なんです。未来予測なので。無理なことを考えても仕方ないから、細分化して、できることからやろうとしてます。
木村:「WORKERS’BOX」を知り合いがみんな買ってくれた、ってエピソードがあったじゃないですか。「自分が欲しい」に加えて「欲しいと言ってくれる人」をいかに作るのかも大事で。僕は欲しい人をどう増やすかって考えますね。
角田:なるほど!
木村:でもそれって、そもそも製品が良くないといけなくて、「どう共感してもらえるか」だと思うんですよね。製品のスペックがどうで、何ミリの何を使っていて、こういう素材でって話よりも「こういうものが欲しいから作ったんです」というストーリー、文脈がちゃんとある製品が今は強いと思います。
治田:僕はずっとクライアントワークをやってきて、手がけた製品を家に置いておくと、毎日見ることになるわけです。そのときに少しでも納得いかないところがあると後悔するんですね。だから「それを毎日見られるかどうか」を大事にしてますね。
青木:なぜよくないものが生まれるかというと、裏で政治的なやり取りがあったんですよね。純粋な動機とは異なる圧力が働いちゃう。
治田:自分がそうしたかったわけじゃないけど、違う理由で呑まざるを得なくって、でもやっぱり納得はしてない状態。
青木:そういうことを繰り返していくと、自分が手がけてないものに対しても「動機に純粋かどうか」が一瞬で読めるようになっちゃうんですよね。「ここの部分に政治的に何かがあったよね」って。
角田:最近のクルマとかね。
青木:「自分も経験したあのときのアレ、この人にもあったんだろうな」って部分を感じると見ていられなくなっちゃう。裏で何人か泣いてそうだな、って。
角田:モノづくりの工程において、邪念がいろいろ入ってきちゃって、最終的に誰も欲しくないものが量産されちゃって、でもみんな使わざるを得ない、みたいなね。
木村:誰かのために、たった一人のために作ったものって、強い文脈があるんですよね。固有名詞が出るくらいまで落とし込んだ「誰か」のために作ったものが今の時代にとっての「いい物」なんじゃないでしょうか。
青木:以前、角田さんが「自分が欲しい物を作るというのは世界を作れる」って言ってたんです。
角田:たとえば何かモノを作るとする。自分は全然好きじゃないんだけど、誰かは買うんだろうな、っていうモノづくりがこれまでなされてきた。そういう「誰かが欲しいであろうもの」が増えて、世の中に無駄が多いんだよね。
青木:「10代都市在住の女性」をターゲットにしたりしてね。
角田:そうそう。でもそうじゃなくて「それを分かってくれる仲間」が手に入れたら幸せだ、というモノを作っていくことが無駄を減らすはずだし、思い入れの強いものが広がっていくから、結果的に世界を救うと僕は思ってます。
青木:「アメリカファースト」なんかも、ある側面から見ると分からなくはないんです。手元を全力でやると案外そこら中の人に得する結果が生まれがちで。
角田:「HINGE」もね、世の中に出してみたら「なんで今までなかったんだろう」って喜ばれたくらいで。
「作るモノやプロジェクトに対して、ストーリー性をあえて強調することはありますか」
角田:強調はしないね。
青木:そんなことしなくてもストーリーはあるからね、そこら中に。
角田:人が生きていればあるわけだし。モノを作れば「その人が作ったモノ」って事実だけでストーリーはあるわけじゃないですか。そもそも「自分が欲しいモノ」を作ってるから、絶対に物語はあるんですよ。
木村:どっちかっていうと「動機が面白い」とか「動機に共感できるか」の方が大事ですよね。
青木:思えば「HINGE」も「WORKERS’BOX」もそうですが、ユーザーに共感させられるなんて思ってなかったというのがスタート地点でしたね。
木村:無理に共感させようとすると話は変わってきますね。
青木:下手するとこれから意図的にユーザーに共感させようとして、失敗することが待ってます。
角田:調子に乗って(笑)
松岡:うちもTwitterでバズったことに味をしめて、同じような4コマ漫画を何度かツイートしましたけど、全部スベッてますからね。16,000リツイートのあとは3リツイートくらい(笑)
青木:狙ったらスベるんですね(笑)
角田:ただアイドントノウもハイモジモジも、バズったときにちゃんとウェブを作り込んであった。そのページに来て、読んでくれたから「面白い」って思ってももらえたのであって。Twitterにバンバン投稿すればなんとかなる、ってことでもない。
木村:短い言葉で簡潔に伝えるという意味では、Twitterは適してますけどね。
青木:バズを経験して良かったのは、意外と「悪い人って少ないな」って思えたこと。ネットの世界って、すぐにクレームを言うとか、よくないイメージがあったんですけど、全然そんなことない世界が広がってた。
松岡:うん。
青木:もうバズは狙わないけど「いい人はいっぱいいそうだ」ってことが分かって良かったです。
会場協力:株式会社スマイルズ
(終わります)
【お知らせ】
今年もやります、トークイベント「僕たちはこれからどう食っていくか会議」。
※2.17追記
こちらのイベントは新型コロナウィルスの感染拡大傾向を鑑み、中止とさせていただきました。詳しくは下記をご覧ください。
「小規模でも自社製品で食っていける!」そんな思いを持ったブランドたちが集まって「実際みんなどう食っているの?」を話し合う会議をします。2018年から始めて、今回が3回目!ファイナルです!
各時間帯でブランドごとのトークセッションと、全ブランドの展示販売も同時開催!話を聞きながらモノも見られる、マーケット形式のイベントです。
誰でも作れるオンラインストア、どこでも決済できる仕組みが出回るにつれて、いままで小さいサイズではできなかったことが簡単にできるようになってきました。
自分たちが本当にいいと思った物を、自分たちがいいと思ったヒトと作って、自分たちで伝えて、売る。これって僕らにとってはめちゃくちゃ画期的だったんです。こんな時代の体験談を各々の現在地から話していきます。
「僕たちはこれからどう食っていくか会議ファイナル」
日時:2020年2月22日(土)11:30 - 18:00
場所:世田谷ものづくり学校
出展者:idontknow.tokyo、ALL YOURS、HI MOJIMOJI、YOKA、TENT
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