ノルウェー文学普及協会(NORLA)主催の翻訳者ホテルに参加して。第2週
こんにちは! 先週に続き、ノルウェー文学普及協会が主催しているプロジェクト「翻訳者ホテル」についてご報告いたします。第1週はこちら
再びエージェンシー訪問です。オスロ・リテラリー・エージェンシーに続いてうかがったのは、ギュルデンダールエージェンシー(Gyldendal Agency)です。
次に訪問したのがスティルトンエージェンシー(Stiltonagency)です。
こちらはたくさんのノンフィクションを扱っていて、私にとって興味深い本がたくさんあります。
スティルトンエージェンシーのオフィスに入ると、まず目につくのが作家さんたちの写真が並んだ梁です。思わず知っている作家さんのお顔を探してしまいました。
5月15日にはノルウェー人の日本語翻訳家、イーカ・カミンカさんがお家に呼んでくださいました。イーカさんは村上春樹氏の作品をノルウェー語に訳してらっしゃいます。
オスロ大学の日本文学の教授、安倍オースタッド玲子先生、日本語ーノルウェー語の翻訳者マグネ・トリングさん、タラ・イシズカ・ハッセルさん、日本食レストランで働く日本人のイシズカ ケンジさん(タラさんのだんなさん)もいらしていて、パーティーでした! ノルウェー語と日本語が飛び交うという滅多にない経験をしました。
安倍オースタッド玲子先生、イーカ・カミンカさん、マグネ・トリングさん、タラ・イシズカ・ハッセルさんは日本文学のアンソロジーを翻訳出版するプロジェクトに加わっていらして、こんな作品を出版してらっしゃいます。
5月17日はノルウェーの憲法記念日です。この日はノルウェー中がお祝いムードです。人々がノルウェーの民族衣装、"Bunad(ブーナッド)"を着て、ノルウェーの国旗を持って街を歩きます。
午後にはアンジェリークさんと彼女のお友達、レアさんと一緒にアーケスフース砦で行われたコンサートに行きました。グリーグ作「ペールギュント」組曲 ソルヴェイグの歌、しばし美しい歌声をご堪能ください
アーケスフース砦はオスロの海沿いにある古城です。こんな古城でグリークの調べに身をまかせていると、なんだか時をさかのぼって中世の世界にいるような気分になります。
18日の夜は、Norlaの方々に、テアテルカフェ(Teatercafeen)というすてきなレストランにご招待していただきました。
前菜のメニューにHamachi, Daikonなど聞き慣れた言葉が並んでいてびっくり。私はハマチと大根のサラダ、イベリコ豚のグリル、マカロンとチョコレートのデザートをいただきました♪ マカロンを食べると、『人形の家』のノラになったような気分になりますね。隣にいたNORLAのメッテさんに、『人形の家』はフェミニズム文学だと思いますかとたずねたら、あの時代なりのフェミニズムを表していたと思うというお答えをいただきました。
お食事の後は、DET NORSK TEATRETという劇場にご招待いただいて、『喜びの時( TID FOR GLEDE)』というお芝居を観ました。
『喜びの時』のテーマは、私たちがお互いにとってどのような存在で、私たちが周りの環境をどのように理解しているか、です。人間関係の中で最もすばらしいものは、同時に最も難しいものでもあるのです。兄弟姉妹間、親子間の愛情や、友愛など。そこには失敗、孤独、帰属、融和がつきものです。現代の文体によって、私たちが何を求め、何を見失い、何を愛し、何に気を取られているのかを間近で見せてくれます。-ウェブサイトより
5月19日木曜日、個人的にヴァイキングについて調査をするためにひとりでハウゲスン(Haugesund)に向かいました。
ノルウェーに来る前、私は作家のベルグスヴェイン・ビルギソンさんにご連絡を取って、お会いできないかとお願いしました。けれどもちょうど私がノルウェーに行く頃、ビルギソンさんはアイスランドにいらしてお会いするのはかないませんでした。ビルギソンさんはノルウェー最古の王族アヴァルドスネスが治めていた、ハウゲスンに行くといいと薦めてくださいました。ハウゲスンではビルギソンさんがご紹介してくださった、マーリット・シィノヴェ・ヴェアさんという学芸員さんが、一帯を案内してくださいました。
ハウゲスンには青銅時代の王族の墳墓やヴァイキング村があります。
このレヘイアの墳墓群は、元来は8つの大きな墳墓と50の小さな墳墓でできています。
これらの墳墓群は西から東にかけて一列に並んでいます。今日では視覚的に確認できるのは6つだけです。最も大きなギュットルムスハウゲン(Guttormshaugen)は直径30メートルで高さは5メートルです。墳墓の大きさや、中に入っている武器、金の品々などは墓に眠る豪族の地位や権力を示しています。
ひとつ王の墓の次に大きな墓があるのですが、それはてんかんにかかっていた少年の墳墓だそうです。その少年はてんかんの発作でけいれんしている間、神と交信していると周囲に思われていたのだとか。
墳墓を見た後、マーリットさんが歴史センターを案内してくださいました。歴史センターとは、アヴァルドスネス一族、特にハーラル美髪王の子孫であるヨール王とリューヴィナ女王について紹介しています。リューヴィナ女王はシベリアにいたサモエド民族の出身なので、アジア系で、黒い顔をしています。
ベルグスヴェイン・ビルギソンさんは、このガイルムン・ヘルヤシンの物語、黒いヴァイキング(Den svarte vikingen)の本を書かれました。
5月20日金曜日には、コーストバスでベルゲンに向かいました
この日のベルゲンは幸いとても良い天気でした。ケーブルカーでフロイエン山に登って港町の景色を堪能しました。
ベルゲンのフロイエン山に登るケーブルカー
5月21日土曜日、再びオスロに帰ってきています。
この日はノルウェー語の翻訳でお世話になっているジャック・ローケンさんと奥様のももさんに会いました。
翻訳者ホテルも後1日でおしまいです。この日の夜は席を事前に予約して翻訳者ホテル参加者、Kulturkjerringer(文化好きのおばさんたち)のみんなで、すてきなビーガンカフェ「Cultivate Food」に行きました。
最後にナイトクラブに行って、みんなでおしゃべり。この2週間ですっかり仲良くなったので、Kulturkjerringerのみんなと離れるのが寂しくてたまりません。それぞれ帰国した今でも、メールやWhatsApp という日本のLineのようなアプリでやりとりしています。
いよいよ2週間のオスロ滞在も終りを迎えます。50代になって、こんなに濃密で学びの多い旅ができるとは思っていませんでした。
この「翻訳者ホテル」を糧に、なお一層ノルウェー文学の紹介と翻訳に励みたいと思います。
このようなすばらしい経験をさせてくださった、
NORLAの皆様
心から感謝を申し上げます。
中村冬美(今井冬美):東海大学北欧文学科を卒業の後、スウェーデンのヴェクシェー大学(現在のリンネ大学)北欧言語学科に留学。主な訳書に『私を置いていかないで』『おうしのアダムがおこりだすと』『あるノルウェーの大工の日記』『海馬を求めて潜水を』『幸福についての小さな書』など。2021年に発売された『よるくまシュッカ』はテレビやラジオなどメディアで注目され、発売日と同時に絵本カテゴリーでアマゾンの1位になった。
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