読んでない本の書評12「黒猫・黄金虫」
計りに乗せると123グラムと124グラムの間を何度か揺れた。猫が人間と遊んでやろうかやめておこうか悩むとき、こんな音のないステップを踏む。
死にばかり惹かれる人は大変だなあ、と思う。だけどポーほど仰々しい装飾をつけて、いろんな方向から眺めてみる趣味でなくても、親類のお葬式でテンションが上がりすぎる子どもから、台風の中に田んぼを見に行ってしまうおじいさんまで、裂け目の向こうに死が見えたら覗き込みたい気持ちはみんな同じなんだろう。
猫を飼っているので動物が虐待される話はつらい。「アヒルと鴨のコインロッカー」なんか、たいへん面白いが鬱方面に感情が抜けていかないように感情のロータリーの真ん中で猛烈に旗を振りながら読まないと危険である。
それに比べるとポーの「黒猫」は、あんがい平気なのだ。ひどく大変な目に合うけれども、自分の意志を貫いたあげくに闘いに勝つあっぱれ豪胆な猫だからだろう。
何度読んでもよくわからないのは、壁に死体を隠してるときに、頭上にぴょんと猫が飛び乗ったのに気付かずそれごと塗りこめてしまう、なんてことあるかな、ってことである。
たしかに猫は人間がいそがしくしているときほど、とりあえず参加する習性がある。キャットタワーを組み立てるときだって、これから固定しようという棚板の上に座っててこでも動かない。手順ごとに次々と正確な邪魔をしたあげく苦労して完成させた瞬間、姿を消したりもする。
だけどいくら夢中になっているとはいえ、一番上の棚板に柱と一緒にうっかり猫をボルトで留めたまま気付かないという事態を想像はできない。この小説、どこからどこまでが実在の猫でどの猫がせん妄なのだろう。一番肝のところがさっぱり理解できない程度の読解力である。
借家の内覧をしたり、家の間取り図を見たりするのが好きで、おかしなでっぱりのある壁を見ると「うむ、何か塗りこめられたな」と内心にやりとする。それがポーの「黒猫」のせいだったことに今さら気がついた。トリックやら復讐心がどうあれ、強い意志を持って何度も何度も会いにきてくれる猫のことを、ちょっと「かわいいな」と思っているのだ。
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