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WBC決勝、1点差、9回、ツーアウト、フルカウント、三振!

「まるで漫画のよう」「漫画を超えた」……もはや常套句じょうとうくですね。今、この言葉を外せないのが、第5回World Baseball Classicで優勝を勝ち取った侍ジャパン。最強の打者を最高のピッチャーが三振にとり、1点差を守って優勝した、奇跡のエンディングです。

にわか野球評論家”として、あの興奮を引き起こした3.22の奇跡を検証したいと思います。WBCに興味のなかった数パーセント(筆者の個人的感覚です)の皆様には申し訳ないですが、大谷選手がテレビに映るとどうしてもあのWBC決勝戦を思い出し、最高のリアル野球漫画を描いてくれた野球の神様に感謝せずにはいられません。どれほどの偶然が重なっていたことか。ここで9つの奇跡・泣ける逸話を挙げたいと思います。

  1. アメリカが決勝まで勝ち上がったこと。さすがのアメリカも、予選ラウンドを通過し準々決勝、準決勝を勝ち抜いてくれないと、あのドラマは生まれません。

  2. 奇跡のオーラス相手になったのが、大谷選手と大リーグで同じチーム、ロサンゼルス・エンゼルスのマイク・トラウト選手。獲得タイトルや受賞歴は字数の都合上控えますが、現役最高のバッターであることは間違いありません。
    彼が大谷選手と同じチームというのがまた泣けませんか? 『巨人の星』でいうなら星飛雄馬と、高校から巨人にかけてバッテリーを組んでいた伴宙太が、中日ドラゴンズに移籍してまで大リーグボール3号を打つために対決するアニメの最終回とダブってしまいます。

  3. そのトラウトと大谷、両者が試合開始前のセレモニーで、それぞれの国旗を持って入場してきました。まさか漫画以上の最高の場面がこのあと現実に起こると誰が想像できたでしょう。野球の神様は、この時からストーリーを書いていたのでしょうか。

  4. 大谷選手が投打の二刀流を続けていられること自体が、すでに奇跡的。優れた野球選手の多くは、高校まで「ピッチャーで4番」をすることはままあります。しかし大学や社会人野球、ましてプロ野球でそれをできる人は皆無と言っていいでしょう。打者対打者では……また巨人の星で恐縮ですが、花形満と左門豊作では対決感がしませんね。大谷がトラウトをどう抑えるか、それでこそハイテンションになるというものです。

  5. その大谷選手に二刀流を続けさせたいと受け入れたのが、当時北海道日本ハムファイターズの監督、そして第5回WBC日本代表の栗山監督だというのも泣ける話じゃないですか。栗山監督は……星一徹とは似ても似つかない風貌と性格ですけどね。日ハムに入団した2013年から、いえその前年のドラフト会議前に、MBL行きか日本球界か迷っていた大谷選手を熱く説得して1位指名を約束したときから、最高のドラマが始まっていたのです。
    エンゼルスに移ってからも続けさせてくれている監督や球団にも感謝です。

  6. エンゼルスへの感謝は、大谷選手の登板問題もあります。年俸数十億円を払う球団側としては故障でもされて大リーグ開幕後欠場となっては一大事。文字どおり大損害で、保険も関係することらしく、そう簡単に登板しても良いという回答が出ませんでした。延びに延ばされ、当日になって登板OKとなったそうです。こんな裏事情で一つであのドラマがなかったかもしれないのですよ。有難いとはこのことです。

  7. 打順と得点差。日本が9回を抑えるという試合運び。地味に最高の偶然を演出してくれました。後攻だったなら、打者大谷は誰とあたることになったか。どのピッチャーと大谷があたったとしても、優勝してくれれば結局日本中喜んだことでしょう。しかしあれほど完璧に最高のドラマに仕上がるかというと、物足りません。
    そして1点差リードというヒリヒリする場面で、ファイターズで同じ背番号11を引き継いだダルビッシュ有投手からDH大谷選手(この時点で投手大谷)へ選手交代です。こんなことあり得ますか?

  8. さあ打者2人をアウトにすれば、夢の対決、トラウトの打順が回ってきます。シナリオどおり、と思いきやピッチャー大谷、先頭打者9番のマクニールにフォアボールを与えてしまいます。ノーアウトのランナー、代走が送られます。順当なら次の1番ベッツ、2番トラウト、そして3番ゴールドシュミットまで打席が回ってしまう場面。ピンチなのは勝敗もさることながら、このままでは最終打席がトラウトにはならなくなってしまいます。完璧最高リアル野球漫画が描けません。
    ところがところが、次のベッツ選手をセカンド併殺打、ダブルプレーに打ち取ります。ツーアウトです! 筋書きのないドラマの筋書き、大詰めです。

  9. 奇跡が奇跡を呼び、いよいよトラウトとの夢の対決。ツーアウトランナーなし。最悪ホームランを打たれてもまだ同点ですが、そんな大谷選手を日本中誰も見たくはありません。160キロのストレートを織り交ぜ、3ボール2ストライクまで追い込みます。
    「最後の一球、何を投げるか大谷!」
    「投げた! 曲がった、スライダー!」
    「トラウトのバットがくうを切る。空振からぶり三振!」
    「帽子を投げ捨て、雄叫びをあげる大谷。侍ジャパン、悲願の世界一奪還!!」

興奮冷めやらぬ侍ジャパン優勝ですが、大リーグ大谷選手以外にも、高校野球やプロ野球にも注目していきましょう。野球の神様がまたゾクゾクするような漫画を超えた奇跡のシナリオを描いてくれるでしょう。
以上、“にわか野球評論家”が実況さながらにお伝えしました。

《2023.4.3天狼院書店ライティング・ゼミ7本目 ◎8位


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