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眠りたくない

疲れたのに早く寝ようと思った日に限って、書きものをしたくなるのはなんでなんだろう。いつもは垂れ流して聴き流してしまう音楽に、じっと耳を澄ませたくなるのはなんでなんだろう。頁に整列した言葉ひとつひとつの頭を撫でてやるように、ゆっくり本を読みたくなるのはなんでなんだろう。眠たいのに眠りたくない、抗いたくなってしまう。

まあ大した理由なんて無いんだろうな。
私にこびりついてる子どもの所が、まだ反抗期の真っ只中なだけ、たぶんそれだけ。

嫌だなほんと、大人になるのは嫌だな。

明日は仕事だから、とか
早寝早起きは生活の質を高める、とか
夜更しすると体に障る、とか。
ねえ、そんな理屈が聞きたいんじゃないの私は。

大層な理由なんてもの、ほんとに要らない。今、今の私が、眠りたくない。だから寝ない。それだけ。

それだけのシンプルさで、生きていけたらどれだけいいだろう、と思う。嗚呼大人には、なりたくないな。

私の行動の根幹にあるものを、真っ当で正当なありふれた理屈だけにしたくない。できればもっとシンプルに。湧き起こった感情のまんま、素直な衝動を根幹に据えて、生きていたい。
もっと素敵な言葉があればいいのに、と思うけど見当たらないから、衝動って言っておくけど、衝動って言葉の字面よりもうんと素敵なもののように思う。だって、自分の中から自然に、勝手に、湧き起こってくるのだから、すごく不思議で変で面白いような気がする。
眠たいのに眠りたくない!って、文章として明らかに矛盾しているじゃないか、おかしい、変だ。
なのにそれが私の気持ちの中では起こり得ているのだから、やっぱり不思議で変で面白いんだよ、そして素敵。絶対そうだ。

意味も理由も筋の通った理屈もない、一見頭の悪そうなことを、やりたいと思った衝動だけでやってしまいたい、そして楽しんじゃいたい。

無意味に夜を眠らずに過ごして、昼間の電車で思いっきり寝過ごすとか。がたんがたん揺れる電車に合わせて一緒に揺れるのが心地良いのも、足元のヒーターが温かいのも、いちばんしあわせに味わえる気がするな。
自転車で海に行って、波打ち際にそれを恐る恐る停めて、ひたひたになりながら夕焼けを眺めるとか。私の住む街には海が無いんだけど。

どうやら世間では20歳になったら大人って呼ばれちゃうみたいで、私が10代でいられるのはあとほんの少しで、今の私の最大の問題はどうやったら「大人」にならずに済むかってこと。

小さい頃からずっと、「大人」が教えてくれるのは理屈ばかりだった。大事な理屈もたくさんあるんだ、世の中に筋の通った理屈があってそれがきちんと通用することはとっても大切なことだって、それは分かってる。分かってるんだけど、たまには大人から、眠らない夜を持て余す素敵を教えてもらいたい。

いずれ大人にならなきゃいけないことは、知っている。増えてく大切なものは、大人にならなきゃ守りきれないってことを、知っている。
だからせめて、理屈ばかりでがんじがらめになった「大人」にはなりたくないのだ。絶対に。

根幹にシンプルさが欲しい。

20歳になってからも、眠りたくない夜は素直に持て余して、暗い街を横目に珈琲を啜りたい。

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