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不登校の娘が、ほどけた靴紐をきゅっと結んだあの瞬間のこと

小3娘が2学期から学校に行けていない。

不登校が始まってからの2ヶ月。
私は娘との時間を楽しもうと決めていた。
沢山遊んで、沢山笑った。
しかし、この2ヶ月は私がリードしてきた期間だったともいえる。

学校に対しても、私は娘の無理のない範囲で、提案を繰り返した。

「今日は学校の近くまで歩いてみようか。」
「今日は校門の中に入ってみようか。」
「今日は先生に会ってみようか。」
「今日はスクールカウンセラーさんと話してみようか。」

行くも行かないも娘の自由だが、娘と学校との距離が離れきらないようにはしておこうと思ったのだ。


しかし、不登校3ヶ月目がはじまった頃、私は娘に伝えた。

「これまでは学校のこと、ママが提案してきたけど、ここからは、娘が決めてみてね。」

私はこの時、学校のことではじめて娘の背中を押した。

そのきっかけは、娘の作文とスクールカウンセラーの先生の言葉だった。

その作文がこちら。

「心は休まったのにいつ行ける?」
私は学校に行けません。
なぜかというと学校に行く勇気が出ないのです。
ある日ママとパパから「心をちょっと休めたら?」と言われました。
私は悩みましたが、心を休めてもいいかなと思って「休む」と言いました。
パパとママは優しく「いいよ」と言ってくれました。

休んでるうちに心は元気になりましたが、学校に行く勇気は出てきません。
けど、休めば休むほど友達に会うのがちょっと怖くなってしまいます。
私は、もともと人の目を気にしちゃう人なのでよけいに怖くなってしまいます。
けど、パパとママは気分転換といって、いろんなところに連れて行ってくれます。

私はこんなママとパパですっごく幸せです。

行ける日が来たらいっぱい自分を褒めようと思います。


突然「これ見て」と渡された作文用紙に書かれていた内容だ。

「学校に行きたくない」から「学校に行けるなら行きたいけど、行けない。」

娘の心が変化している。娘の心が動き出したと感じた。

そして、スクールカウンセラーの先生にもこの内容を伝えた。

この時、先生は娘に向かってこう話してくれた。

「勇気を待たなくていい。完璧に揃ってから何かしようと思わなくていい。
毎日今の自分はどのくらいできるかなの実験すればいい。
今日は○明日は△明後日は○、その次は×。それでいいのよ。
いきなり高い高い山に登ろうとしないで、先ずは小さい山に登ろうってきめて、どこまで出来るか試してみたらいいのよ。」

この時、娘の顔がパッと明るくなったのを感じた。
先生は、娘の背中を押したのだ。

この時、私もまた、これから親としてやるべきことがはっきり見えた気がした。
今の娘のままで、娘が決めたことを、娘がやればいいのだと。

そして、私は先程の言葉を娘に伝えたのだった。


数日後、娘は自分でこの次にやることを決めてきた。

「ママ・・・友達に会いに教室に行ってみる。」

***

教室に行く日、娘は朝起きると目に涙を溜めていた。
私は何も言わなかった。見守った。

私は娘と学校に向かった。

学校までの道中娘が足を止めることもあった。

「やめとく?」喉まででかかった言葉を飲み込み、娘の歩調に合わせ、ゆっくりと学校に向かった。

校舎の中に入っても、娘の歩みは遅い。

いよいよ教室が見えてくると、娘は小さく息を吐いた。

「いってくる」
そういって走り出した。

教室に入ると、娘にたくさんの友達が駆け寄り声をかけてくれた。

 「大丈夫なの???」「心配したよー」

その様子を私は廊下から見守った。

娘はこの学校に転校して1年だ。
たった1年でこんなにも心配してくれる友達がいることに驚いた。
どれだけ頑張ってきたんだろう・・
娘のこれまでの学校生活を思うと、涙が溢れてきた。


娘は、自分の席にはいくが、決して座ろうとはしなかった。座ることはできなかったのだろう。
立ったまま引き出しに溜まったプリントをまとめカバンに詰め込む。それが終わると、お友達にバイバイと手を振り、廊下に出てきた。

滞在時間は10分程だった。 

娘は先程とは打って変わって、足早に廊下を歩き、玄関に向かう。急いで靴を履き替えると、走って校門を出た。

私も娘を追いかけるように慌てて外に飛び出す。

冷たい風がほてった頬を冷やして気持ち良かった。私もいくらか緊張していたのかもしれない。

娘はふぅーと大きく息を吐き、興奮気味に話だした。

「ママ!!!私にとって今日の山(教室に行って友達にあう)はとっても高かったんだよ!!」

急いで履き替えた靴の、ほどけた靴紐を結びながら続けた。

「ドキドキしたけど頑張れた!大丈夫だった!前と違った。前より怖くなかった。山三つ分くらい登ったと思う!!できた!!」

そう言うと、きゅっきゅっと靴紐をきつく締め、スキップしそうなほど軽やかに歩き出した。

「ねーママ。私、頑張ったね!!ママ、ありがとう。」

たった10分の滞在時間。
普通に通えてる子からしたら、たかがそんなことかもしれない。

しかし、娘にとっては大きな山だ。
自分で決めた大きな大きな山を越えたのだ。

「自分で決めたことをやる。」
勇気がでたから行動するのではない。行動することで、勇気が生まてくるのだ。

私は目の前の娘にそう教えられた。

この10分以降、娘は少しづつ学校の時間を増やしている。図工に行ってみて、国語に行ってみて・・行ける時間を試している。まだ週に3〜5時間行ければいい方で、給食を食べたり、休み時間を過ごしたりは難しいそうだ。

ただ、それら全て学校のことは娘が自分と相談して、自分で決めている。

***


「どうして学校に行かなきゃいけないの?」

思えば不登校になる前に娘はよくそう言っていた。
娘にとって学校とは「行かなきゃいけないもの」だった。

しかし、今娘にとって学校は「自分で行くと決めたもの」に変わっているのだ。


彼女はそんな「自分で決めてやる」を繰り返しながら、自分の殻を自分で破ろうとしているのではないだろうか。
いや、学校に10分滞在したあの日に殻を破ったから出来ていることなのかもしれない。

ほどけた靴紐をきゅっと結んだあの瞬間、私は娘が自分の足で自分の道を歩き出すような、そのスタートを切ったような、そんな瞬間に思えた。

娘のこんな姿を間近で見せてもらえて、この不登校という時間が、私にとってもとても大切な時間なんだと、今は思える。

こちらこそ、「私はあなたのお母さんですっごく幸せです。」

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