カメラを止めた息子の運動会
秋分の日、年長息子の幼稚園の運動会だった。
息子は4月に夫の転勤の都合で転園をした。
年長での転園に心配したものの、
息子なりに楽しんでくれているように見えた。
それでも、毎朝言うのだ。
「僕は幼稚園が嫌いなんだよ。怖いもん・・前の幼稚園に戻りたいんだ」
「うん。。」
私は息子の手を握り、そういうほかなかった。
「1番にお迎えに来てね。みんなより、いーちばん早くだよ」
^そういう息子の希望で、毎日帰りの時間はみんなより少し早くお迎えにいく。
そんな息子の運動会。
最初で最後の、この幼稚園での運動会。
息子は園のことをあまり話さないので、何をやってるのか全くわからない。
「練習が嫌だな・・」とポロッと口に出すことはあれど、普段以上に行き渋るという事もなかった。
運動会のプログラムには、「表現体操」と書いてあったので、さぞ可愛いダンスでもしてくれるのだろうと思っていた。
・
そして、当日。
「表現体操」がはじまった。
運良く、私達が座る正面に息子が来た。
撮影ポジションとしては最高だ!
「用意!!!」
体操の先生の号令ではじまった。
ピーという笛に合わせて、2人組になったり、3人組になったり
扇、ピラミット、逆立ち・・
これは、組体操だ。
「表現体操」は可愛らしいダンスではなく、本格的な「組体操」だったのだ(後半にはダンスもあったが)
私は目の前の息子の頑張りに、気づけば号泣していた。
号泣しながらも、
正面にいた息子にカメラをむけた。
ベストポジションで、息子の表情をはっきり捉える良い写真が撮れている。
しかし、私は気づけばカメラを止めていた。
レンズ越しじゃなくて、息子をこの目で見たかったのだ。
息子の真正面。
それは、カメラのベストポジションじゃない、
息子をこの目で見れるベストポジションなのだ。
口を真一文字にして、真剣な眼差しな息子。
一つの技が終わるたびに、息子は、私の方を見ていることに気づいた。
果たしてカメラを向けていたら、その視線に気付けただろうか?
私は、両目でしっかり息子を見続けた。
息子が私を見た時には、目が合うように。
ずっとずっと息子を見ていた。
膝も、背中も、頭も、手も、土まみれな息子。
普段少しでも手が汚れると嫌がる子だ。
油性ペンが指について、泣いたことがあるくらいなのに。。
そんなことは気にもとめずに、さまざまな技を見せてくれた。
私はカメラを鞄にしまい、全力で拍手を送った。
カメラ片手には手も叩けない。
あぁ
しっかりこの目で息子の姿を焼き付けたいのに、
涙で滲んで見えない。
涙がどうやっても止まらない。。
・
そんな運動会の帰り道。
息子が言うのだ。
「ママ来てくれてありがとう。ママが見てくれたのが嬉しい」
私の目にはふたたび涙が溢れた。
「こちらこそ、招待してくれてありがとう。たっくさん感動をくれてありがと」
息子が照れ臭そうな笑顔を私に向けた。
“パシャリ”
ママの頭に、君の今の笑顔も記録されたよ。
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