みんなの理想の美術館
先日、理想の美術館についてnoteで伺ったところ、多くの方々が教えてくださりました。
ご教示くださった方々に、改めて御礼申し上げます。
実を言うと、誰も反応してくれなかったらどうしよう…と投稿する前は、かなりソワソワしていたのですが、そんな心配は不要でした。
みなさまが理想の美術館について考えたことを、惜しみなく教えてくださって、とてもうれしかったです。
なるほどと思うこと、私一人は気づけなかったことばかりでした。
みなさまからのご意見をもとに、私はこれからどんなことをできるのか考えてみました。
施設・設備について
私が働く美術館は、交通アクセスが悪い場所にあります。
それは、美術館の弱点だと思っていましたが、環境の良さや、周辺に他にも見所があることを考えると、その立地は強みにもなりうるかもしれません。
美術館単体だけでなく、周囲の施設、観光課や商工課等と協力しながら、まずは美術館の周辺に来てもらうことを目指すのもいいのかな、と思いました。
展示について
みなさまからいただいた意見を読みながら、美術館の展示はわかりにくいと感じている方が多いのだなと改めて痛感しました。
このわかりにくさは、学芸員だけで展示をつくってしまっていることに原因があるような気がします。
美術館の学芸員は、主に、文学部で美学や美術史を学んだ人と、美術大学で美術教育について学んだ人がいますが、特に私のように文学部で学んだ人は、ついアカデミックになりがちで、専門用語を使ってしまいがちかもしれません。
美術史を学んでいない人 美術館の学芸員以外の職員やボランティアさんなど に協力してもらって、わかりにくいところを指摘してもらいながら一緒に展示を作り上げていく、ということもできたらいいなと思っています。
ただ、逆説的になりますが、このわかりにくさは、必ずしも悪いことではない、とも私は考えています。
学生のとき、教授から「美術展で音声ガイドは借りないように」と言われていました。その理由は、音声ガイドに頼って自分の頭で考えなくなってしまうから、自分で感じたこと・気づいたことの方がずっと記憶に残りやすいから、です。
音声ガイドを借りたほうが楽しめる方もいるでしょうし、それを否定するつもりはありません。ただ、自分で気づくのは、教えてもらうのとはちがう楽しさがあります。音声ガイドだけでなく、詳しすぎる解説も、鑑賞者が自分で気づく機会を奪ってしまいかねません。
ただ、何もわからないと気づくことすらできない可能性もあります。
なので、作品についてわかっていることを全部解説するのではなく、どうしたら作品を楽しめるのかを伝えられるのが理想なのかなと思いました。
接客について
今回、意見をいただいて、いちばん解決策を考えるのが難しかったのがこの部分でした。
美術館で監視されるのは居心地が悪い、という気持ちもよくわかるのですが、作品や来場者の安全を守るためには監視を緩めるわけにはいかないとも思うからです。
中学生が作品を破壊した事件は記憶に新しいですが、過去にも《モナ・リザ》が来日したときにスプレーを吹きかけようとした人がいたり、最近でもヨーロッパの環境保護家たちが美術作品を狙う事件が後を絶ちません。「見られている」と感じることも、ある程度は抑止力として機能するのかもしれません。
そうは言っても、ほとんどの人はただ単に美術作品を楽しもうとしてやってきているのに、自分が悪者になったような気分になるのは嫌ですよね。
抜本的な解決策とは言えませんが、少し工夫することで改善できることもあるかな、と思います。
まず、美術館側は、展示室に入る前に、来館者に注意事項をもっと丁寧に説明したほうがよいのではと思います。
注意事項は、多くの場合、チケットの裏側に小さく書かれていたり、展示室の片隅に目立たないように書かれていたりします。
以前、博物館の監視の仕事をしていたときに、注意事項が目立たないように書かれている理由を学芸員さんに尋ねたところ、「会場の雰囲気を壊してしまわないように」、「その注意事項を見て嫌な気持ちにならないように」するためだと仰っていました。
私としては、直接声をかけられて注意される方が、嫌な気持ちになるんじゃないかな、と思いましたが、どうでしょう。
会場に入る前にちゃんと教えてもらえば多くの人は聞いてくださるでしょうし、そうすれば監視員も注意したりマークしたりしなくて済むんじゃないかな、と思うのですが。
みなさんが注意されなくて済むように、注意事項をここに書いておきます。
このあたりは、みなさんご存知かと思いますが、念のため。
注意することが多かったのは、以下のような場合です。
接客について、もう一つ問題としては、多くの場合、監視員は有期雇用で、せっかく美術館の接客のノウハウを身につけても、同じ場所で働きつづけられないことが挙げられます。
研修もほとんどないまま、現場に配置されることもあります。私が以前監視員として働いた館では、館のメンテナンス期間にマナー研修がありましたが、そのときには私が働き始めてから半年以上経っていました。
そんな条件下でも、来館者に楽しんでもらおうと心を尽くしている監視員も、たくさんいます。
それでも、来館者から「ヒマそうだね」と言われたり、「あの人たちうるさいから注意して」と言われて注意すれば「このくらいで注意するなんて」と怒られたりします。
来館者と監視員がお互いにいがみ合うのではなくて、監視員にとっても、やりがいが感じられて、働いていて楽しいと思えるような、そして、そんな監視員の接客を受けて、来館者も居心地がいいと感じられるような美術館にできたら、と考えています。
教育普及について
教育普及についてみなさまからいただいたアイデアは、ぜひやってみたいなと思うものばかりでした。
そして、やろうと思えばできそうなものでありながら、私が働く美術館ではやっていないことも多いので、提案できる機会があれば、すぐに提案してみたいです。
広報について
美術館の来館者の満足度を高めることも大切ですが、まずは美術館の来館者になってもらう必要がありますね。
これから私が働く美術館は、ホームページやSNSなど、いろいろと改善の余地がありそうだなと思っています。
まずは、戦略を練るために、先進的な美術館から学ぼうと思います。
ショップ・レストランについて
美術展のグッズは、人気のデザイナーやキャラクターとコラボレーションすることも増えて、以前よりも多種多様になってきたように思います。
ただ、単にかわいくて、お洒落なグッズだけではなく、美術館をより楽しんでもらえるような、美術館から帰ってきた後も楽しめるようなグッズもあるといいですね。
ご意見をいただいたように、気に入った作品を家に持ち帰れるポストカードや、子どもでも楽しめる冊子などのグッズを充実させて、より多くの人に楽しんでもらいたいなと思いました。
これについては、みおいちさんが、海外の美術館で販売されていた小冊子を紹介してくださりました。私が働く館でも、参考にしたいです。
それから、最近ではショップに加えて、美術館のカフェやレストランも、それ自体を目的に美術館を訪れる人もいるくらい、魅力的になってきていますね。
以前私が働いていた美術館のカフェも、とても人気があって、展覧会の鑑賞者の数よりも、カフェの利用者数の方が多いのでは、という日もありました。
当時一緒に働いていた学芸員さんは、それはそれでいいことかもしれない、と仰っていました。美術館のカフェが目的だとしても、美術館に来るということが日常の一コマになっているのだとすれば、ちょっと気が向いたときに展示室に足を運んでくれるかもしれないから、と。
展示室の中だけでなく、美術館全体の魅力を高めることを考えていく必要がありそうです。
☆魅力的な美術館
最後に、みなさまから教えていただいた美術館をご紹介します。
私はまだホームページを見ただけですが、それでも学ぶことが多くありました。
いつか実際に訪れてみたい美術館ばかりです。
・スペイン、ミロ美術館
→美術館鑑賞前、中、後の楽しみ方がそれぞれ提案されていて、美術館をどう楽しんだらいいのかがわかりますね。ファミリープログラムのタイトルを見ると、大人でも楽しそうと思うようなものがたくさん。
・富山県美術館
→教育普及プログラム充実していますね。美術館のオリジナルのカードゲームがあったり、オンライン講座も用意されています。
・茨城県近代美術館
→高校生特派員制度という高校生に美術館の運営を手伝ってもらう制度があるようです。zoomでも開催している、学校と提携したプログラムも面白いですね。
・水戸芸術館
託児付アーティストトークがあったり、ワークショップをキット化して販売していたりするようです。そんなこともやろうと思えばできるのか、と驚きました。みんなに楽しんでもらいたいという熱意が伝わってきます。
繰り返しになりますが、理想の美術館について教えてくださったみなさま、本当にありがとうございました。
おそらく、コメントを書かなかった方の中にも、理想の美術館について考えてくださった方もいらっしゃったのではと想像します。
また、今回の記事を読んで、新たになにか思いついた方もいらっしゃるかもしれません。
今後も、もしなにか思いついたときには、いつでも教えていただけたらうれしいです。
みなさまの理想の美術館を実現できるように、引き続き自分には何ができるのか考えたいと思います。
最後まで記事を読んでくださってありがとうございます。