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わが家の甘やかしカレー

カレーの匂いが、階下からたちのぼってくる。
実家では、それが休みの日の合図だった。

わが家では、カレーをつくるのは父の担当。

父のカレーは、つくるのにとても手間がかかる。

そういうと、スパイスから調合しているのか、と思われるかもしれないが、父はスパイスに関してはそれほどこだわりはない。

スーパーで安売りされた市販のカレールーを使う。

それでも、父がつくるカレーには特別なおいしさがある。

食べた瞬間に、ほろほろとお肉が口の中でとけ、たまねぎとにんじんの甘さが口いっぱいに広がって、幸福感がじわじわと押し寄せる。


最近、私はスパイスを調合してつくるカレーにハマって、そればかりつくっていたが、久しぶりに父のつくるカレーが食べたくなった。

父からカレーづくりについてのこだわりは、よく聞かされていたけれど、いざつくってみようとすると細かな部分がわからない。

私は、久しぶりに、父に電話した。

父は「大事なのはたまねぎをよく炒めることくらいかな」と言って、すぐに電話を母に替わってしまった。

だけど、母が話している後ろで、「最初に、にんにくを5分以上炒めて」だとか、「肉を鍋に入れたら、ローリエを入れて」と叫ぶ父の声がする。

もう一度電話を替わればよさそうなものなのに、面倒くさいのか、照れくさいのか、父の代わりに母が私に伝えた。


そんな父のレシピがこちら。

わが家のカレー

材料(5~6杯分)
・たまねぎ 1個
・にんにく 2かけ
・にんじん 半分くらい
・カレーシチュー用豚肉(牛すね肉や鶏もも肉でも) 好きなくらい
・ローリエ 1枚
・カレールー 半箱
・水 箱に書いている量よりちょっと多め
・ゆで卵 お好みで
・ごはん

①たまねぎをみじん切りにする。
 にんにくの皮をむき、つぶす。
 にんじんをすりおろす。

②肉にまんべんなく塩コショウ(分量外)を振る。

③フライパンに油を引き、にんにくを弱火で5分ほど炒める。
 真っ黒になる手前でにんにくを取り出す。

④③のフライパンで②の肉をさっと炒める。
 表面が焼けたら、肉を取り出し鍋にいれておく。
 (このとき、鍋にまだ水はいれない)

⑤肉を炒めたフライパンについた肉のアクを取り除き、タマネギを炒める。
 30分くらい炒める。
 焦げつきそうなときは、ときどき水を加えながら。
 飴色になったら、火を止める。

⑥肉の入った鍋に、⑤の玉ねぎを加え、中火でさっと炒めたら、水を加え、沸騰したら蓋をして弱火で30分~1時間程煮る。(牛肉なら1時間以上煮込んだほうがおいしくなる)

⑦肉が柔らかくなったら、すりおろしたにんじんと、ローリエを加えさらに20分程煮る。

⑧火を止め、ローリエを取り出し、ルーを加える。
 ルーを加えるときに、味噌漉しを使うとダマにならない。

⑨中火で10分程煮る。焦げつかないようにかき混ぜながら。

⑩皿に盛って完成。


  
父のレシピでちょっと変わっているのは、にんじんをすりおろすところくらいだろうか。

にんじんが苦手な私のために、父はにんじんをすりおろしてくれるようになったのだ。

父のカレーは、私への甘やかしメニューだった。


はじめは、私のためにすりおろしていたにんじんだが、家族みんながにんじんをすりおろしたカレーのほうが好きになったため、このレシピが父の定番となった。


ちなみに、このカレーは私にとってだけでなく、妹への甘やかしメニューでもある。

肉が好きな妹のために、父は肉をたっぷりカレーに入れる。

それでも、肉ばかり食べる妹のせいで、2日目はほとんど具なしカレーになってしまう。
たまねぎもにんじんもルーと同化しているし、じゃがいもは煮崩れないように最初から入れないのが我が家のカレー。

しかし、そんな2日目のカレーもおいしく食べる方法がある。

2日目のふわとろカレー

2日目のとろふわカレー

材料
・2日目のカレー
・卵 1~2個

①2日目のカレーを中火にかける。

②ふつふつしてきたら、溶き卵を加える。


このときは、写真のとおり肉がまだゴロゴロ残っていたが、この卵とじカレーも好きだからつくってみた。

妹のように肉ばかり食べてしまう人がいても、卵を加えるとおいしく食べられる。とろとろ卵とカレーが絡み合って、ごはんがすすむ。



父のレシピどおりにつくるのは、手間も時間もかかる。

だけど、つくっている間、不思議と、面倒だとは思わなかった。

父に教えられたとおりにつくれば、絶対においしくできるはずだとわかっていたから。

このカレーを食べたら、夫はどんな顔をするだろう、と想像したら、自然と顔が綻んだ。


私は、実家でこのカレーを休みの日の朝に食べていた。

休みの日だから少し遅いとはいえ、朝食に間に合わせるためには、父は休みの日なのに早く起きなければなかったはずだ。

でも、たぶん父も、同じ気持ちだったんだと思う。

私たちが「おいしい!」と喜んで食べる顔を思い浮かべながらつくっていたのだろう。

私は、にんじんをすりおろしたり、たまねぎをいためている間、そんな父の気持ちを想像して、少し泣いた。

いや、たまねぎが目に沁みたのかもしれない。


このカレーをつくっている間、部屋中に懐かしいにおいが漂っていた。

父に教えられたとおりにつくったカレーは、私がつくっても、父のつくるカレーのようにキラキラしていた。

カレーだからもちろん辛いのだけど、わが家の甘やかし成分が溶け込んでいるカレーは、とてもやさしい味がした。


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