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短編小説「あたしの学校の七不思議」2023/01/01

 寒い、寒い、宵。
 駅への道で隣を歩いている雪美(ゆきみ)に、あたしは、話しかけた。
「いやあ、新年早々部活ですっかり遅くなっちゃったね。学校、駅から近いには近いけど、こうも高低差があってはね……。いくら帰りは下り坂とはいえ、疲れちゃうよね。毎度のことながら。──それにしても、雪がこうも積もると、いつも見ている学校でも、結構雰囲気が変わるわよね。
 あ、そういえば、学校の七不思議、知ってる? 今更な話題だけど。ふふふ。知らない? 冬に怪談は季節外れだけど、折角だから聞いてよ。知らないんでしょ? 七不思議。──これね、実は怪談でも何でもなくて、種も仕掛けも〝ある〟ことなの。

 一つ目は〝増える下駄箱〟。聞いたことない? 満月の晩には、下駄箱が余分に増えている、っていう話。どう増えるかというと、横へ横へと、増築されたような感じで、列が増えているの。ふふふ。これね、実はあたしの仕業。満月の晩だけ、数セット、簡易の下駄箱を持参して、学校に忍び込んでいるのよ。
 二つ目は、〝廊下の雪女〟。廊下に雪女が出るの。ふふふ。これね、実はあたしの仕業。夜にたまに学校に忍び込んでアダルトビデオを二階の廊下に投影するんだけど……映写機の様子が不調なのよ。廃墟から盗んできたやつだしね。それで、AV女優の輪郭がぼやけて、外から見た警備員さんには雪女に見えた、って話。警備員さんには悪いことをしちゃったわね。驚かせちゃったみたい。
 三つめは、〝ガムの降る体育館〟。警備員さんが体育館で夜、ガムが降ってくるのを見たのよ。恐ろしくなってその場では遁走し、翌朝には何も無かったってね。ふふふ。これね、実はあたしの仕業。商店街の福引券を道端で拾った時にガムが当たってね、それで夜中に学校に忍び込んだ時に警備員さんに追われて、体育館の梁へと逃げたの。怖かったわよ、落ちたら大怪我でしょうし。命だって最悪、分からないような高さよ? で、その時に持っていたガムを落としちゃったのよね。勿体無かったから、警備員さんを撒いたあとは拾って、噛んだわ。
 四つ目は〝家庭科室のDJ〟。ふふふ。これね、実はあたしの仕業。家庭科室に勝手に忍び込んでね、ちょっと罰当たりだけど、お地蔵様とか神社とか、各所で盗んだ餅を、電子レンジで温めているの。その時に、ちょっと鼻歌をね。
 五つ目は、〝職員用トイレの落ち武者〟。ふふふ。これね、実はあたしの仕業。例によって夜の校舎に忍び込んだはいいものの、その時は警察もいてね。困っちゃったから、校長室の前に飾ってある、伝統芸能だか何だかの鎧兜の展示品を急いで来て、職員用トイレへ逃げ込んだの。お餅を美味しく頂いたわ。あの日も寒かった。
 六つ目は、〝ボウガン本棚〟。図書準備室の本棚は、夜中の三時二十一分になると、ボウガンの矢が無数に飛んでくる、っていう話……。ふふふ。これね、実はあたしの仕業。ボウガンに見えたのは、プロジェクターにライトアップされた私の尿だった、ってわけ。放っている最中の、ね。
 七つ目は、〝光る傘立て〟。これは、」
「続きは署で聞こう。おじさん。」

 気がつくと、岐阜県警十数名が私を取り囲んでいた。さすまたや警棒を持っている者も、いる。
 雪美は、遠くで、部活仲間と思われる女子高生達に、
「大丈夫だった?」
「怪我はない?」
等と言われながら、こちらを、見ている。うんちを見る目とおばけを見る目を、足して二で割ったような感じだ。失礼しちゃう。怪我だなんて。ただ、雪美はあたしを知らなくても、あたしは職員室の資料で雪美を知っているわけだし、どうせ駅のトイレに行ったら尿もするだろう。もし、そのまま、尿を流して捨てるのであれば、あたしに分けてもらおうかな、と、ちょっと思っただけなのに。まだ、その交渉もしていない。前座の話をしていただけだ。

「さあ! 手を上げてじっとしなさい! 不審なおじさん!」
 あたしは手を上げながらも、叫んだ。
「〝光る傘立て〟も、あたしの仕業! でもね、凄いのこれは! 何で光るか分かる!?」
「やかましい! おおかた、例のアダルトビデオ鑑賞用中古プロジェクターが反射でもしたんだろ!」
と、警棒二刀流の巡査部長が叫びながら突っ込んできた為、私は叫んでやった。

「おおあたり~!!」

 スプリンクラーのように宙を舞い踊る、あたしの、尿。尿。尿。それを覆い隠そうとするかのような、雪。雪。雪。
「へっくちん。」
 ふと、あたしは、嚏(くしゃみ)。岐阜県警に取り押さえながらも、出るさ。だって、全裸は、寒いんだもの。


 ぶぶぷう!!!!!!!!!!



 屁が出た。




                   〈了〉


                 非おむろ「あたしの学校の七不思議」2023/01/01

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