食材の大きさや切り方、塩の当てるタイミングでもかわる料理のバランス
10月に入って、一気に気温が下がり、秋が深まってまいりました。毎日の寒暖差が大きいので体調管理も難しい時期でもあります。どうぞみなさまご自愛くださいませ。
こんにちは、乃木坂しんの店主、石田伸二です。
切り方ひとつで表情がかわるのが料理
10月に入って食材もすっかり秋めいてきました。秋の食材の王様・松茸が献立に入ってきましたし、先月からお出ししている長野県・妙高の奈潟轍さんの天然きのこなども本格的にはじまっています。
今月も献立の試食会を支配人の飛田と繰り返してきました。秋はお出ししたい食材も多く、何年も作り続けてきたお料理もありますので、2人の間で献立の流れや、1品1品の構成について大きな齟齬はなかったのですが、だからこそ「バランス」が必要で、それが7年目の乃木坂しんが大事にすべきことなのではないかという話をしました。
たとえば、毎年10月に献立に入れているお造りの鰹は、例年と同じように藁焼きにした鰹で、部位や塩の分量も同じですが、切る厚さを変えて盛り付けました。薄く切った方は、1枚の体積に対する塩分の量が厚く切ったものよりも多くなるので、とうぜんうま味がしっかり引き出された強い味わいになります。
一方、厚く切ったものは、周りに塩はありますが、中までは塩分が入っていないため、薄い方よりも塩分量が弱く感じます。しかし、厚い分、咀嚼をする回数が増えることもあり、噛むごとに味わいや香りが複雑に変化して、薄く切ったものとは、違った奥深い風味を味わうことができます。
わずかに切り方を変えるだけで、ひと皿で得られる食材の表情が豊かになり、より深く食材を味わい、感じることができるようになると思うのです。
良い食材が多い季節だからこそ、間をつなぐ役割の食材や、塩味、切り方でバランスをとることで、ひと皿として完成度の高いお料理を模索していきたいと、神無月(10月)の献立をまとめながら考えていました。
秋の乃木坂しんの料理も、ぜひ味わいにいらしてください。
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先付|イクラの茶碗蒸し
松茸のすり流し 振り柚子
最初の1品は、茶碗蒸しです。温かい茶碗蒸しに、少し冷たいイクラの醤油漬けをたっぷりとのせた、ひと口の温かさと冷たさが行き交うような仕立てにしています。
最初の試作では松茸を蒸す前、お出汁と玉子を合わせる際に加えていたのですが、松茸がうまく役目を果たせていないように感じたため、茶碗蒸しには入れずに、松茸のすり流しにして、茶碗蒸しの上からかけています。
つまり、茶碗蒸し、松茸のすり流し、イクラの醤油漬けの順で盛り込んでいることになります。
松茸のすり流しには、お出汁で炊いた松茸を、凍らせて粉砕したものを使っています。すり流しにしたことで、茶碗蒸しとイクラの醤油漬けをうま味と香りで繋ぐ役割をうまく果たしてくれています。
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前菜|渡り蟹とゆり根の白扇揚げ 柿釜にて
柿の種や実を切り抜きくりぬいた柿釜に、刳り抜いた柿の実、渡り蟹のほぐし身、ゆり根の白扇揚げを盛り込み、柿のすり流しをかけました。フルーツのイメージがある柿をお料理として食べていただきたいと思い仕立てたものです。
昨年も、似た仕立てで香茸を白扇揚げにして、柿と渡り蟹に合わせていました。今年は、コクを加えるイメージで白扇揚げはゆり根にし、秋の香りを加えました。
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椀物|スッポン進上、粟麩、香茸、木の芽
昨年は「丸吸い」といってスッポンのお吸い物を椀物に仕立てていたのですが、今回はスッポンを進上にして、鰹と昆布の一番出汁をはってお出ししています。
丸吸には焼いたお餅をつけることが多いこともあって、昨年同様にお餅ではないのですが、食感は餅のようなものを加えたく炭火で焼いた粟が入った生麩を盛り込んであります。
試作では、スッポンでとったお出汁をはっていたのですが、スッポン進上のおいしさを伝えるなら、同じようなうま味の出汁ではない方がいいのではと話し合い、一番出汁にかえています。結果的には、スッポン進上や粟麩、香茸といった食材のおいしさを支える存在になっていると思います。
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造り|甘鯛昆布締めと生ウニ、酢橘餡、梨
脂がのっておいしくなってきた甘鯛を半日から1日かけて昆布締めにしたお造りに、生ウニとワサビをのせ、上からお出汁と塩、薄口醤油、くず粉の餡に最後に酢橘を搾った酢橘餡をたっぷりかけて召し上がっていただきます。
甘鯛の昆布締めだけでもおいしいのはもちろんなのですが、生ウニのうま味や香りを加えることで、ひと皿のなかで相乗効果を与えています。またワサビがアクセントになり、甘鯛や生ウニの力強さをいったん切ることで、次のひと口で再び新鮮に食材のおいしさを迎えることができます。
お出汁をおさえめにした酢橘餡も、果汁を食材に搾りかけるよりもやわらかく全体的にまとまり、甘鯛と生ウニを取り持つ役割を果たしてくれています。
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造り|カツオ藁焼き
10月になって、赤身の強さがある、いわゆる「戻りガツオ」がおいしくなってきました。昨年も藁焼きにしてお出ししていますが、冒頭にもお話ししたように、藁焼きにしたカツオを、厚みを変えて切り出して盛り付けています。
写真ではわかりにくいですが、見えているのは切り身が薄い方のカツオの藁焼きです。その下に、1.5倍から2倍の厚さで切ったものが隠れています。
カツオの身は、やわらかくてねっとりしているのが特徴です。そのおいしさを強調するためにも、藁焼きにすることで表面にやや繊維質を感じるような部分を作って、生の身とのコントラストを作り、ねっとりとした食感を強調させています。
さらに切る厚さを変えることで、焼けた部分と生の部分のコントラストに差をつけ、同じカツオの藁焼きでも、食べたときに違った表情を感じとっていただけるようになっていると思います。
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凌ぎ|鱧の棒寿司 松茸 酢橘添え
懐石料理ではちょっとしたご飯物や麺類などを「お凌ぎ」といいます。乃木坂しんでは、いろいろなお凌ぎをお出ししていますが、今回はひと口サイズの鱧の棒寿司を作りました。
白焼にした鱧と酢飯の間に、薄切りにして塩を振った松茸が挟んであります。添えてあるのは、鱧と相性がいい酢橘です。たっぷりと搾ってからお召し上がりください。
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八寸|アオリイカと生からすみ
むかご豆腐、食用ほおずき
蕪ともって菊の甘酢漬け、銀杏
さつまいもチップ、丹波茶豆、焼茄子
いわゆる”主役級”の食材はありませんが、どれもきちんと手をかけることでほっとする滋味深い味わいのお料理を集めました。献立の流れのなかでひと呼吸をおいてゆっくりお酒を飲んでいただけるような、そんな八寸を今月は意識しています。
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焼物|魳松茸焼きと栗の甘露煮
魳の松茸焼きは、昨年の八寸の1品としてお出ししていたものを、途中からひと品に仕立て直したものでした。
塩をした松茸を魳で巻き、炭火で焼いたシンプルなものです。加熱することによって、魳から出た油を松茸が吸い、松茸から出たジュースを魳が吸って一つの料理になる。シンプルながらなかなか奥深い料理です。
炭火焼きにする際にアルミをかぶせて、蒸し焼きのようにするのがポイントです。
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強肴|鰻白焼きと海老芋
天然きのこの餡かけ、山葵
熊本県天草の海で養殖されている大きな鰻の白焼と、お出汁で炊いて素揚げした海老芋を天然きのことその出汁からつくった餡とともに盛り込みました。
天草の鰻をウチでは「海鰻」と呼んでいるのですが、ほんのり塩味があるのが特徴です。白焼にしていますので、意識しながら召し上がっていただくと良いかもしれません。
長野県妙高の奈潟さんの天然きのこから、今回はアカヤマドリとホウキダケを使っています。
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食事|鱧の玉子とじ丼、
または蕎麦米雑炊、または鯛の滋味造り
お食事は、上の3つのなかから選んでいただきます。お腹に余裕があれば、少量ずつ全種類のご注文もできますので、ご遠慮なくお申しつけくださいませ。
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菓子|無花果の最中、水蕨(巨峰)
最中は、焼き無花果と、東京・渋谷のフレッシュチーズ専門店「CHEESE STAND」のリコッタと、リコッタサラータのアイスを挟んで食べていただきます。全体のコク出しで、最中生地にバターを塗ってあります。小さなグラスの方は、水蕨と巨峰です。
リコッタサラータは、リコッタを乾燥して塩漬けにしたセミハードタイプのチーズで、程よい塩味がアイスクリームにぴったりです。
イチジクがなくなり次第次のデザートになりますので、気になる方はお早めにいらしてくださいませ。
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今月も、魅力的な様々な食材を取り揃えながら、みなさまのご来店を心よりお待ち申し上げております。
「乃木坂しん」店主 石田伸二
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構成・文・撮影=江六前一郎