煮炊き物|海老芋の炊き物に白和え衣
「乃木坂しん」店主の石田伸二による食材エッセイ・レシピ「煮炊き物の12カ月」の第1回目は「海老芋」です。
日々、市場に並ぶ食材によって春の移ろいを感じながらも、肌に当たる風や水の冷たさによって、現実へと引き戻されてしまいます。
初めまして、乃木坂しん店主の石田伸二です。私たちのnoteを読んでいただき、ありがとうございます。
「煮炊き物の12カ月」と題しましたこの連載では、季節ごとのお野菜を紹介しながら、乃木坂しんでも実際にお出ししているお料理を、ご家庭でも楽しんで作っていただけるレシピにアレンジしてご紹介していこうと思っております。
また、その際に食材の事や私の料理に対しての考え方などもお伝え出来ればと思っておりますので、そちらも併せてお楽しみください。
関西では広く食べられている里芋「海老芋」
第1回目は「海老芋」をご紹介しようと思います。今月の献立の八寸でもあしらいでお出ししています。「海老芋」というと、あまり聞きなれない名前かもしれませんが、簡単に言えば里芋の仲間で、もともとは唐芋(とうのいも)という品種でした。その中でも特徴的な反り返った形と外皮の縞模様から、海老芋と名付けられるようになったそうです。
時期的には11月~2月頃が旬となる食材で、乃木坂しんでも冬の時期にはなくてはならない私たちも大好きな根菜の一つです。
海老芋の産地として一番有名なのは、やはり京都です。
京野菜として有名な海老芋ですが、今や東京でも使われている料理人さんが多いです。私が好んで使うのは京都産ではなく、大阪の富田林の物を使わせていただくことが多いです。
海老芋は関西で多く作られているというイメージが強いですが、現在は静岡がシェアの8割を占めます。また、私の故郷である徳島県でもつくられており、修業をしていた頃から、里芋の仲間の中では一番馴染みのあるお野菜で、よく端の方をつまみ食いしては、先輩の味を覚えたものです。
煮ている時よりも火を止め冷めていく時に味が入る
海老芋の特徴は、何といってもそのキメ細かな身質だと私は思っています。その身質により、他のお芋と比べても、より粘りのあるしっとりとした食感、そして自然な甘みを楽しんでいただけるのと、煮崩れしづらいという特徴があるので、それらも料理屋で海老芋を使う要因の一つではないでしょうか。
普段の私の仕立ては、白水(米のとぎ汁)で下炊きをした後、出汁に変えてそこに塩と薄口醤油を入れやさしいお味に仕立てます。そうすることで、海老芋本来の味と香りを楽しんでいただきたいからです。但し、今回は白和え衣とあわせるので、出汁に濃口醤油と砂糖で少ししっかりしたお味に仕立ててまいります。
【材料】
海老芋 大きめの物――2個
出汁―― 1.2L
濃口醤油―― 大さじ5
砂糖―― 大さじ5
米のとぎ汁(白水)又はお米と水
1. 海老芋や里芋などは買ったときに土が着いていることが多いので、まずはタワシなどで土を洗い流してください。次に皮を剥くのですが、その時に、皮を厚めに剥き、筋をしっかりと一緒にとるように気を付けてください。そうすることによって、煮上がりの食感が全然違います。また、海老芋は半分くらいに切ってから剥くと剥きやすいです。
ちなみに、剥いた皮は油で揚げて塩を振って食べると、ちょどよいお酒の宛てになりますので、捨てずに食べてあげてくださいね。
2.皮を剥きましたら、食べやすい大きさに切り、10分ほど水につけてアクを抜いてください。その後下炊きをするのですが、この時、白水(しらみず)という「米のとぎ汁」を使用します。もし、白水がなければお水にお米を少し入れて下炊きしていただいても大丈夫です。
下炊きは竹串が通るくらいやわらかくなるまでしっかりと火を入れて、そのあと出汁に変えたときにはすぐに味をふくませられるようにしておきます。
3.鍋に、昆布と鰹節でとった出汁を入れ、海老芋を入れて火にかけます。一度沸いたら弱火にし、濃口醤油と砂糖を入れ、10~15分ほど煮ます。ちょっと時間が短いなと思われるかも知れませんが、煮炊き物は煮ている時よりも火を止め冷めていく時に味が入っていくので大丈夫です。むしろ味を入れてから煮過ぎないように気をつけてください。
4.火を止めて出汁の煮汁に入れたまま味をふくませてから、柚子の皮を削ってかけるなどして、お召し上がりください。粉を打って油で揚げていただいてもすでに味が入っているのでとても美味しいです。是非試してみてください。
酸味を利かせた白和えが合わせる食材を引き立てる
次に、今回はその海老芋とともに、豆腐を使った白和え衣もご紹介しようと思います。乃木坂しんの2月の献立にも八寸のあしらいとして(下の写真の左上)、この海老芋の白和えを入れておりますので、是非今晩のおかずに試してみてください。
白和えというと、ご家庭ではほうれん草や人参、コンニャクが入ったものを想像されるかと思います。それが料理屋になると、柿やマスカットなどの果物、蟹や車海老などの甲殻類などが定番になります。
乃木坂しんでは、季節の食材を使って前菜や八寸に必ずといって良いほど白和えはご用意させていただいております。なぜなら、意外と好きな方が多くとても喜んでいただけるのです。
よくある白和えは、胡麻のペーストやお味噌など味にコクを加える物が多いのですが、私の白和えはコクではなく、純米酢をしっかりと加え酸味を効かせてあります。
酸味を加えることによって味のキレを良くし、食感が重たくなりがちな白和えもサッパリと味わっていただけるだけではなく、合わせる食材の本来の甘味や旨味を引き立たせてくれます。乳脂肪分ははいっていないのに、クリームチーズのような味わいになるので、とても面白いですよ。
【材料】
豆腐(木綿豆腐)―― 1丁
米酢―― 大さじ2
濃口、塩―― 小さじ1/2
薄口―― 小さじ1
味醂、酒、砂糖―― 大さじ1
1.豆腐は木綿をお使いください。それに重しをして、しっかりと水分を抜きます。重しをする前に豆腐を湯がくと、早い時間でしっかりと水分が抜けるので、少しお手間ですが試してみてください。
2.豆腐を裏漉しします。すり鉢ですって滑らかにする方法もありますが、時間がかかってしまいご家庭では大変だと思いますので、フードプロセッサーで撹拌してください。あっという間に滑らかなペースト状になります。調理器具って素晴らしいですね。
3.撹拌した豆腐にお水を大さじ2杯加えます。なぜ折角水分を抜いたのにもかかわらず、またお水を加えるのかと不思議に思う方も多いと思いますが、ここにも理由があります。元々豆腐に含まれる水分はニガリなども含まれるので、少しえぐ味のようなクセが残ります。まずはそれをしっかり抜くことで、仕上がりのお味が格段に変わるのです。ひと手間ですが是非やってみてください。
4.調味料を全て加えて再度撹拌し味を整えます。炊いた海老芋に白和えをかけて、今回は仕上げに鹿児島県の喜界島で栽培されている国産の炒り胡麻「寿の白ごま」を振りかけてお出ししています。
この白和えのレシピは基本となる物なので、あとは合わせる食材によって、酸味を加えたり、甘味を加えたり味を微調整して完成です。
今回は海老芋に合わせましたが、ご家庭だと、お野菜や果物の他に蒸した鶏肉など、幅広く様々な食材に合わせることができますので、是非試してみてください。
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今回は海老芋の炊き方と白和え衣についてお話をさせていただきました。ちょっとしたひと手間でご家庭でも美味しく季節のお野菜を楽しんでいただけると思いますので、是非ご家族の方に作ってあげください。
海老芋の炊き方は乃木坂しんのYoutubeでもお話しております。こちらもご覧になってみてください。
「煮炊き物の12カ月」ではこれからも、その季節のお野菜を美味しく煮炊きする方法をご紹介させていただきます。それと共に自分の修業時代のエピソードや料理に対する考え方などもお話出来ればと思っております。
「乃木坂しん」
店主 石田伸二
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乃木坂しん
東京都港区赤坂8-11-19 エクレール乃木坂1F
☎03-6721-0086
ランチ(水〜土) 12:00〜15:00(13:00LO、ランチは前日までの予約制)
お昼の小会席 10,000円、おまかせ 15,000円、18,000円
ディナー(月〜土) 17:30〜23:00(21:30LO)
おまかせ 15,000円、18,000円、28,000円
※消費税、サービス料10%別
※緊急事態宣言中は、夜の営業時間を変更して営業しておりますので、店舗までお問い合わせください。
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次回のnote更新では2月の献立を紹介していきますのでお楽しみに!また、アカウントのフォローもしていただけるとうれしいです!
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編集=江六前一郎
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