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関口和之『アーカイブ』

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自称ウクレリアン・関口和之の過去のコラムや作品などを掲載します。
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記事一覧

【春の特別編】消えた卒業証書

今回のnoteは【春の特別編】 関口家でたまたま見つかった35年ほど前の原稿用紙。そこに書かれていたのは、何のために書かれたのか定かではない未発表の短編私小説。本人曰く「ほとんどが実際にあったことですが、フィクションも入っています」とのこと。 今回は【春の特別編】としてぴったりの卒業をテーマにしたステキな物語をお届けします。(運営スタッフ) 消えた卒業証書きれいに「さよなら」を言うのは難しい。 寂しさよりも、それが無味乾燥に聞こえてしまうのが怖くて「さよなら」と発することを

エッセイ ふたつの街(後編)

【今回は1986年に発売されたソロアルバム「砂金」に封入されていた特典のブックレット内のエッセイ「ふたつの街」の後編をご紹介】 ◉ジャラジャラと鳴る夕日の街 あの南の島へ行ったのは、もう4年も前のこと。ヤシの木よりも高い建物を建てちゃいけないなんていう変な法律がある島である。  島で一番大きな町は、きっと30年前の新宿があんなだっただろうなという雰囲気の、舗装もされていない通りに人々の活気だけがあふれている所である。  交通機関の大半は自転車だが、ひともうけしようと企む

エッセイ ふたつの街(前編)

【今回は1986年に発売されたソロアルバム「砂金」に封入されていた特典のブックレット内のエッセイ「ふたつの街」の前編をご紹介】 ◉ゆるゆるとのぼる陽炎の街 学生の頃に住んでいた街は、都心に近いにもかかわらず、駅を降りるとまるで地方の小さな町に来たような気さえする、こぢんまりとした所であった。  駅を出ると、すぐ正面に小さなローターリーがあって、その向こうにまっすぐのびている細いバス通りがある。それが街の中心となる商店街である。  夏、アスファルトの照り返しで蒸しかえるよ

砂金の話

【今回は1986年に発売されたソロアルバム「砂金」に封入されていた特典のブックレットの冒頭の文章をご紹介】  たとえば、ボクが池の中の魚をのぞきこんでいたとする。そのとき魚が水の中からひょっこりと顔を出した。すると、どうだろう。まるで、ボクが池の中をのぞきこんでるんじゃなくって、魚が空気の中のボクをのぞきこんでるような、そんな錯覚におちいってしまう。また、寝ころんで空を見ている時、何となく自分が地べたに貼りついてる気がするだけで、いつか何かの拍子に空の向こうに落っこって行っ

ウクレレオーケストラ・オブ・グレートブリテン

今回の投稿は、2003年に発売されたウクレレオーケーストラ・オブ・グレートブリテンのアルバム『シークレット・オブ・ライフ The Secret of Life』に寄せた関口和之のライナーノーツをご紹介します。 ーウクレレという楽器を持った時点で 音楽家としては人前でパンツを脱いだようなもの。 でもそこに蝶タイを締めてみるともっと面白いー 僕が渋谷の楽器店でフェイマスのウクレレを手に入れたのが1986年のこと。時を同じくして、しかも同じきっかけで同じウクレレを同じ教則本付きで

旧友がくれた1枚のCD。

【1989年にVIP通信でスタートした連載を原文のまま掲載】   彼が、伊集加代子のファースト・アルバム『マイ・トリビュート』を僕のところに送ってきたのは、89年の春のことだった。  伊集加代子といえば、日本の音楽ディレクターでその名を知らない者はいないほどのシンガーである。なぜ音楽番組に出ないか、世間にはその名が知られていないのか、というと、彼女が第一線で活躍し続けてきたのが、常にコーラス・シンガーとして、だったからだ。  彼女の経歴は古い。なにしろ、僕がその名を知っ

役にたたないもの

【1993年に新潟日報でスタートした連載を原文のまま掲載】  最近マッキントッシュというコンピューターを手に入れた。奮発してCDロム付きである。これでいろんなゲームソフトやその気になれば話題のエッチソフトも楽しめるわけだが、今僕が一番欲しいのは、そういったゲームソフトではない。百科事典のソフトなのである。  前から百科事典が欲しくてたまらなかったのだが、決心がつかずにいた。本になっているものを買うとしたら、二十巻以上あるはずだ。あの分厚くて重い本が二十冊分、と考えると象が

もしも永遠に今日がつづいたら

【1993年に新潟日報でスタートした連載を原文のまま掲載】  明日という日が来なけりゃいいのに、と思うことが時々ある。  それは、とっても気持ちのいい天気の日だったりして「ああ、毎日こんな日だったらいいな」と思うときか、あるいは精神状態としてはその逆で、締め切り前の「もっと時間が欲しい。今日が四十八時間欲しい」などと思っている時である。  今年見た中で気に入っている映画のひとつ”Groundhog Day”(確か邦題は『恋はデジャヴ』)とかいう、どうしようもないタイトル

ヒロのアンティークショップにて

【1993年に新潟日報でスタートした連載を原文のまま掲載】  ハワイ島はビッグアイランドとも呼ばれ、ハワイ諸島の中では最も大きな島だ。しかし他島に比べて雨が多く、海岸線の大部分が溶岩台地になっているせいか、まだまだ観光開発はすすんでいない。  僕が訪れたヒロという町は、ハワイ島の東側の海沿いにある。ハワイ州の中ではホノルルに次ぐ第二の都市だそうだが、町中を歩いている限りとてもそんな気はしない。特に古い町並みが残るダウンタウンは、はっきりいってさびれてしまっている。一九四六

楽園 ウクレレフェスティバル

【1993年に新潟日報でスタートした連載を原文のまま掲載】  ハワイもどうやら異常気象らしい。まだ梅雨明け前のうっとうしい日本を抜けだしてホノルル空港に降りたった僕たちを迎えたのは、なんとたたきつけるようなすさまじいあらしだった。雨は決して珍しくはないが、この季節にこんな暴風雨というのは、聞いたことがない。  何よりも僕は次の日の天気が気掛かりだった。晴れてくれないと困る、と空をおおいつくす雲を見上げながらなかば祈るような気持ちだった。というのは、今回の旅行の目的は、翌日

公園の気になるじいさんたち

【1993年に新潟日報でスタートした連載を原文のまま掲載】  もともと公園はくつろぐ場所である。大抵の人はテレンテレンとしている。たまにしゃかりきになってジョギングしている人も見受けられるが、彼らは通り過ぎてしまう。公園に溜まっているのは、たいした用もない人たちばかり。そういう人たちをぼうっと眺めているのは、いっそうくつろぐ感じがして好きだ。無防備なものに対しては、こちらも無防備でいられるからだろうか。いくら見ていても疲れることはない。  かくして、公園でいろんな人を観察

ゲーム音楽作りにかける僕の情熱

【1993年に新潟日報でスタートした連載を原文のまま掲載】  このところテレビゲームの音楽の仕事に掛かりっきりだ。ゲームミュージックとの付き合いはかれこれ六年くらいになる。  インベーダーゲームやブロック崩しに始まったテレビゲームは、ここ十数年の間にだれも想像し得なかったほどの飛躍的な進化を遂げた。ゲームのBGMとして聞こえていたかつてのピコピコという耳障りな音楽も、最近はROMの容量が格段に増えたせいで音もきれいで豊かになっている。作る方としてはそれだけ気を使う事が多く

生きているぬいぐるみ テディベア

【1993年に新潟日報でスタートした連載を原文のまま掲載】  最近、ゲームセンターだけでなく、町のいたるところに、UFOキャッチャーを見掛ける。コインを入れロボットのアームを操作して、ぬいぐるみをつかむ、あのゲームである。  一見単純そうに見えるが、ぬいぐるみの重なり方や微妙な形によって、アームを停止させるポイントが変わってくるので、意外に難しい。実際やってみると分かるが、見た目よりゲーム性がある。しかも毎月、ゲーム人形が製作され、入れ代わるから、その度に目新しいキャラク

ちっぽけなウクレレの価値とは

【1993年に新潟日報でスタートした連載を原文のまま掲載】  またまたウクレレの話。  先日、ハワイでとてつもない掘り出し物を見つけた。1920年代製造のマーチンのウクレレである。価値の分からない人には何のことか分からないだろうが、とにかく珍しい物である。  僕はウクレレ愛好家であって、マニアではないのだから、珍しい物に飛びついたり、買いあさったりするあさましいまねはよそうと常々心に誓ってはいた。しかし、そのウクレレの輝きには負けた。正確にいえば埃まみれだったけど、僕の