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乙女の戦士


探し物を探している時は見つからないのと同じように書こうとすると途端に文字が書けなくなることがある。文字を書く人なら誰でも経験する壁だ。今日、私はやっと六連勤が終わった。毎日が残業で疲れ果て、本を読む気力も記事を書く気力もなかった。それでも何か書きたい、書き上げたいとnoteを開いたがこの六日間で書いた四つの記事すべてがボツとなった。書き上げた後にやっつけで終わらせたような、大切な想いが添えられていないその文字を読んで私も、読む人も何も残らないような気がして辞めてしまったのだ。


毎日同じ日々を繰り返すと必ず、どこかで変化をつけたくなってしまう。今日のように連日の仕事を終わらせた後に、何をしようか前の日から考え、退勤後に大好きなバスボムやスキンケアの専門店へまっすぐ向かい、やはり疲れていても行ってよかったと感じた。その店で出会った店員さんはとても気さくな方で私の肌の悩みに真摯に向き合い、それだけではなく手元を見てすぐに技術職だと見抜き、伝える前にハンドケアの用品まで出してくれた。「日曜のこの時間に仕事が終わるなんて休めてますか?」とさらりと聞いてくれたその優しさになんだかホッとしてしまう。無理矢理、商品を勧める方ではなく、沢山の物を試したうえでお客様が一番いいと思うものを買ってほしいと言った。

この時、ふと思い出したことがある。サービス業時代に、何度もクロージングという商談の研修や、いかに高いコースを契約させるかという内容で話術を鍛えさせられたことがあった。私はこの研修がとてつもなく苦痛で、休憩時間にこんなことがしたかったわけではないと、自責の念に駆られ何度も逃げ出そうとした。物を売るのではなく目に見えないサービス、想いを売りたいと思い続けていた私にとって今でも罪悪感の残る思い出だ。

人は初対面の人や関係が浅く自分という人間をあまり知らない人にこそ本音を漏らすことがある。話しているうちに店員さんと今、とても日々が忙しく好きなことに時間を割けていないこと、将来の夢や私が記事を書いている話になりいつか書くことを仕事にしたいと話して、そんな私の話を聞いて返ってきた言葉がとても嬉しく、胸が躍った。


「私の友人に医療従事者がいるんですが、ネットで書いてたら縁あって出版社と契約を結び書籍を出したんです。チャンスはどこに転がってるかわかりません。いつ人生が変わるかも分からないので、だからお姉さんの夢も叶いますよ。」


そう言って今日は沢山働いた自分を労わってほしいと、頼んでもいないのに沢山の試供品や発売されたばかりのスキンケア用品をセットにして沢山いただいた。店員さんはまさに、私が憧れていた物を売るのではなく、疲れた私の為に有意義な時間を過ごしてほしいと目に見えないサービスを売ってくれた。返せる方法としてそこで初めて、この人の為ならお金を出していいと思えてしまうし目的は物を買うことでも、出会った店員さんが丁寧で親身になってくれたおかげで私は次もこの人に、この人の為にこのお店でお金を使いたいと思ってしまうのだ。

帰る前に、今日の夜は素敵になるといいですね、とそんな温かい一言を言われ私は今すぐにこの出来事を文字に起こしたいと思った。思えば今まで文字を書いている時は感情の鮮度が高い間に書き起こしていたことに気付き、突然書けなくなった理由が心が突き動かされるような何かを感じ取るアンテナも張らず、ただ日々を過ごしていたことに気付いた。私は楽しいことが好きで温かい人が好きで、またそんな人に出会うと自分の近くにいる大好きな人たちにめいいっぱい、自分の持てる優しさをあげたくなる。人や物が愛しいと感じるとき、何かを大切にしたいと感じたとき、痛みや悲しみが癒えた頃、書くのが自分のスタイルだと今更気づいた。

久しぶりにデスクの前でPCのキーボードに触れて、何も考なくても次から次へと書きたいことや文字が溢れ、指が止まらなくなる感覚がとてつもなく嬉しい。温かい湯船につかり、買ってきたスクラブや洗顔、パックをして、たっぷりの泡で身体を洗い、心を包み、今日出会った店員さんとのやり取りを、目を瞑りながらゆっくりと思い出した。店員さんに名前を聞いてまた来るときにお願いしたいと話したら、この日この時間ならいると教えてくれた。縁が一つ結ばれたのだ。この縁は疲れ果てた私だからこそ巡り合えたものであることに尚更、愛おしさを感じた。


人の温かさや愛おしさは自分が傷を負い、疲れ果て、弱ってしまった時に知るものでその時、隣にいる相手がとても重要な人だったりする。疲れた相手には共感する心も大切だけど、そっと寄り添い、多くは語らず、隣にいてあげられる、大切な誰かがいて、守りたい人がいて、働く人として、そんな目に見えない感情に目を向けていきたいと改めて思った一日だった。

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