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白いドレスと三月の雪

三月十七日

今朝はとても温かかった。木漏れ日のように遮光カーテンの隙間から日差しが差し込んでいた。

起きた瞬間に部屋の掃除がしたくなった。

模様替えをして厚手のニットをしまった。

カーテンを開けて窓の縁を掃除した。

フローリングにワックスもかけた。

洗濯をして太陽の光をめいいっぱい部屋に入れた。

一息ついてスマホを手に取ると友人から一通のLINEが入っていた。


彼女との出会いは十一年前に遡る。入学した高校で同じクラスにいた。あまり馴染めずいつも席に座っていた私は窓際の席に座っていた彼女の声がとても特徴的で、とても友好的で、入学して二ヶ月も経っていないのに周りには友達が沢山いて、黒髪のショートボブが良く似合う人だな、と思っていた。

五月くらいだっただろうか、イメチェンで髪をバッサリ切った。その日も自席に座って大人しくしていたところ彼女が私に声をかけてくれた。正式にちゃんと話したのはその時じゃないかと思う。

「野田の髪型似合ってるね」と言ってくれた。とても嬉しかった。それを皮切りに沢山話すようになった。

彼女は少し変わった子で大事な授業の日にエヴァンゲリオンの渚カヲルがJINSのメガネとコラボしたから取りに行く為に遅刻をしたり、キャンパスノートで工作をしてシルクハットと仮面を作って英語の時間にタキシード仮面のモノマネをしたり、情報の時間に好きな物事を語る、というテーマでスライドショーを作りプロジェクターに映し出される映像と共に皆の前でプレゼンをする時は突然、戦闘機について熱く語り出した。

クラスでもちょっと変な子だけど容姿の可愛らしさや愛嬌、人当たりの良さもあって常に周りに人がいたように思う。

時にはバイトの時間に遅刻するわけにいかない!と帰りのホームルームをやっている最中にクラウチングスタートのポーズを取りチャイムと同時に教室からダッシュでかけて行く、そんな本当に不思議な子だった。

高校二年生に上がる頃、私は転校をする事を決め準備を進めていた。一年生の終業式のその日まで誰にも辞めることは言わないでいたのに最後のホームルームが終わったあとに彼女は泣きながら私のところに来て抱きしめてくれた。なんとなく、いなくなることを分かっていたのだと思う。

彼女が大切にしていたぬいぐるみがある。私はそれがとても欲しくてたまらなかったことを覚えている。少年アシベのゴマちゃんのぬいぐるみで、勿論そんなのどこにでもあって買えばいいのだが彼女の持ってるゴマちゃんが特段可愛くて欲しくて、いつも良いな、欲しいなと言っていた。終業式の日、泣きながらそのゴマちゃんを私にくれた。里親に渡すから里子と名付けて今も寝る時は私のそばにずっといる。その日も彼女はバイトを入れていたので泣いていたけど遅刻しちゃうから、とダッシュで教室から駆け抜けて行った。

十一年の間にぬいぐるみの里子は何度も旅行に連れていき時にはお洗濯をして日差しに包まれ、ぬいぐるみの病院に連れていき綿を取り換えてもらって大切にし続けている。悲しい日も辛い日も寂しい日も嬉しいことがあった日も抱きしめて寝た。今この記事を書きながら隣にいる。

転校してからも彼女とは頻繁に連絡を取り不思議と大人になるにつれてもっともっと仲良くなっていった。社会人になってからは好きなアニメに一緒にハマりどこへでも行った。お洒落をして知らない土地で散歩をしてたまたま見つけた洋食屋で美味しいご飯を食べたり、カラオケに行っては次の日、全身が痛くなるまで遊んだ。

日本は元気がなさすぎる!日本の元気を守ろう!という理由で高校生の時に二人で地球防衛軍という組織を作った。その活動は社会人になっても続き、彼女がカレーにどハマりした時はカレーの魅力を語る為にカレーメイソンという秘密組織を作った。これはカレーライスとフリーメイソンをかけたものでインドについて思いを馳せたり、インド人が営むカレー料理屋に行ってみたり、この時の私たちのテーマソングはケロロ軍曹のケロッ!とマーチだった。おそらくカレーのライスを炊き忘れ、というフレーズを偉く気に入っていたからだと思う。

忘れられないのは定期的に彼女の実家でお泊まり会をして深夜に二人でバトミントンをしたりコンビニにアイスを買いに行ったり、パソコンで動画を見て寝る時はお尻をくっつけあって、私が話しているうちに彼女は突然、気絶したように眠りにつきそのまま私も眠りにつくのが定番だった。かと思えばけたたましい特徴的な声で野田!起きろ!朝だ!と昨晩、勝手に寝たことを詫びることも無く寝不足の私を叩き起してくる。

おてんばで奇天烈でとにかくいつも私を笑わせてくれた。毎日LINEの通話をして毎日LINEでやり取りをして今日はこんなことがあった、と自分の全てを私に教えてくれた。

彼女の作るクラムチャウダーが美味しくて三回おかわりしたこと、ぐりとぐらの絵本に出てくるホットケーキを作って大はしゃぎをして、SMAPのSHAKEを聴きながらダンスを踊ったり、二人でペンギンズにハマり何度もその映画を見た。

なかなか自分のことを話さず自分の殻にとじこもる私を引っ張り出して外の世界に連れ出して色んな景色を見せてくれた。知らない事を教えてくれて時には心を閉じてしまいたくなる時もあったけど構わない!野田に嫌われても私が野田を好きなんだから何も問題ない!とケロッと言い張るところが好きでそんな彼女を嫌いになることなんて出来なかった。


いつも元気で笑っていてピッパの法則という言葉があるようにピッと思ったらパッとやる。そんな人だった。言動にも行動にも乖離がなくやりたいようにやって生きたいように生きて、食べて寝て起きて笑って温かいお風呂に入ってまた寝て、そんな彼女がとても羨ましいな、と思っている自分が当時はいた。

それでも人には見せないだけできっと彼女にも不安定で綱渡りのような、精神を崩しかける程のギリギリなところで生きていた時もあったと思う。苦渋の決断を迫られ逃げたくなった時もきっとあるだろう。好きに生きている事が幸せだったはずなのにそうも出来なくなった時やその苦しかった時に私は隣にいなかったことを未だに彼女との思い出を思い返す度にたまに後悔している。

学生から社会人になりたての頃は毎日のように連絡を取り合い定期的に遊んでいた彼女とは最後に会ったのはもう四年、五年前になる。あれから私達はしばらく音沙汰がない時期もあったが今では一年に一回するかしないかのLINEのやり取りのみだ。それでも文章から彼女が今、幸せで元気に、大好きなお酒と大好きな物事に囲まれ昔のように好きなように生きているのだと私には分かる。


そんな彼女から今朝きた一通のLINE


明日、小柄な彼女に良く似合う素敵な白いドレスを着て大切な人と寄り添って行くことを教えてくれた。少し前に入籍した事も挙式を挙げることも聞いていたけれど、流行りの感染症で中々人を呼ぶことも出来ずこの春、やっと身内だけで行うことが出来るそうだ。

北海道はまだ桜が咲いていない。記事を書いている十七日の朝はとても晴れていたのに夕方前には雪が降った。まだまだ春が来そうで来ないのに私はとても心が踊った。

今度時間が出来たら遊ぶ約束をした。私たちが遊ぶ時は必ず朝早くと決まっている。一日通して全力で遊ぶことをモットーにているからだ。お祝いに何をしてあげよう、最後に会った四〜五年前からお互いどれだけのことを経験したか、それを一日で語り尽くすのにはあまりにも難しい気がする。


人は変化を拒む生き物で変化することを恐れ、尻込みしてしまう。でも彼女は何にでも興味津々でとにかくなんでもやってみる人だった。だから誰よりもチャンスを手にして誰よりも色んな経験をして失敗と成功を納めている。どんな時でも順風満帆に見えた。本当に私を笑顔にする為に色んなことをしてくれた。

今日の夜は里子を抱っこしてこれからも続く彼女の幸せを願って私は眠りにつく。

結婚おめでとう

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