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聖徳太子は超能力者で、男性に片想い中!たくさんの片想いが交錯する歴史恋愛漫画『日出処の天子』感想

聖徳太子と言えば、飛鳥時代の政治家であり、旧1万円札に印字されるほどの歴史上重要人物です。

そんな偉人が実は超能力者であり、同性愛者だった!という驚愕のストーリーが展開する漫画が『日出処の天子』(ひいづるところのてんし)です。

歴史とBLと政治とSFを混ぜ合わせ、美しい絵の中にストーリーを昇華させたのが天才女性漫画家・山岸凉子先生です。1980年から1984年にかけて『LaLa』(白泉社)に連載。

ストーリー

日出処の天子 第1巻 (白泉社文庫)

物語は西暦583年からはじまります。当時の聖徳太子は厩戸王子と呼ばれ、わずか10歳ながら明晰な頭脳で権力者たちを操り、神童と呼ばれていました。厩戸王子を相談役として頼りにしていた一人が蘇我馬子。この時代の権力者です。そして彼の息子・蘇我毛人が、本作のもう一人の主人公となります。

毛人は実直な好青年であり、蘇我一族を率いることを期待されていました。ある日、山中を通り過ぎる道すがら、一糸纏わぬ姿で泳ぐ女性を見つけ、彼女の美貌に釘付けに。実はこの女性は厩戸王子の分身だったのです。この時から女性のことが頭から離れなくなりました。厩戸王子もまた毛子を特別な存在と思うようになり、時を重ねるにつれ毛人への思いは強くなっていきました。

毛人と厩戸王子。両思いになるのかと思いきや違います。毛人は布都姫を助けたことがきっかけで、姫への恋心が募ります。この状況を毛人を愛する厩戸王子は黙ってません。二人の恋路を邪魔するため、あらゆる手を使って毛人と布都姫を遠ざけるものの、毛人は諦めるどころかますます布都姫を愛するようになり・・・。

思い、思われ、ふり、ふられ

この漫画は
・聖徳太子(厩戸王子)は美少年
・聖徳太子(厩戸王子)は超能力者
・聖徳太子(厩戸王子)は同性愛者

というキャッチーな設定が特徴的ですが、漫画が描こうとしているテーマは「自分の思いが相手に届かない切なさ」です。常に誰かが誰かに片想い中。これは男女間(男男間もありますが)だけでなく、親子間にも現ています。

息子の能力を知りつつ、自分の理解を超えているがために、厩戸王子を避けてしまう母(穴穂部間人皇女)。母の愛情を求めているものの応えてもらえず孤独な厩戸王子。そして厩戸王子が恋愛における愛情を求めた相手が毛人でした。愛を求める反面、厩戸王子は妻の菟道貝蛸皇女に冷淡な態度をとります。

好青年の毛人は常に愛されている状態。厩戸王子だけでなく、妹の刀自古からも熱烈な愛を向けられます。その毛人は布都姫に恋焦がれ、大王の妃になると分かると自暴自棄になります。

恋愛における普遍的なテーマ

・好きな人と結ばれない切なさ。
・好きな人が自分を見ていない悲しさ。

これは今も昔も変わらない普遍的な恋愛のテーマです。
最終的に誰と誰が結ばれたのでしょうか。
そして厩戸王子が最後に選んだ相手は驚きの人でした。しかもその人を選んだ理由が分かると、「最後まで愛情を求め続けた人だった」と同情を寄せてしまいます。

聖徳太子という歴史上の偉人を、実は誰からも理解されず孤独な人だったと描いた『日出処の天子』。そして聖徳太子が愛した毛人は唯一、彼を理解しようとしていました。だからこそ惹かれたんだと思います。好きな人に振り向いてもらうためには、自分の思いを伝えるだけでなく、理解しようとすることが大切なのかもしれません。

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