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些細な言葉が誰かを傷つけていた、と反省させられた映画「怪物」(映画感想)

相手の立場に立てているのか?

以前、友人(女性/独身)宅で開催されたホームパーティーに、お招きいただいたことがあり、テーブルに並べられた彼女の手料理の数々を見て
(将来は)素敵な奥さんになるよ!
褒めたつもりで感想を言ったことがありました。

その後、
なぜ「素敵な奥様=料理ができる」と価値観を押し付けたのか。
そもそも「女性=料理をする」と風習の押し付けたのか。
独身女性である友人に結婚を押し付けたのか。

と反省したことがあります。

つまり私が偏った価値観や考えがあるが故に、他人に「これが幸せ!」と押し付けたのです。

何気ない言葉が誰かを傷つけているかもしれない。

そんなふうに自分を顧みるきっかけさせてもらったのが映画「怪物」です。

あらすじ

本作は3人の視点で、同じ場面を何度も繰り返すストーリー構成となっています。つまり羅生門スタイルですね。

1人目の視点は安藤サクラさん演じるシングルマザー・麦野早織。夫を亡くし、息子を懸命に育てる母です。一人息子が教師から暴行を受けていると知り、学校に訴えますが、事勿れ主義の態度を示す学校関係者にうんざりします。そんな中、塞ぎ込んだ息子は心ここにあらず。やがて嵐の夜、息子は家を飛び出していた・・・。

2人目は永山瑛太さん演じる教師の視点。生徒思いの保利先生はひょんなことから、生徒である麦野湊くんを怪我させてしまう。しかもクラスメートの星川依里をいじめている様子を見てしまい、麦野湊くんに疑いの目を向ける。だが、行き違いで麦野湊君の母親から、「息子が暴力を受けている!」と訴えられてしまい、休職に追い込まれ、やがてマスコミにまで追いかけられてしまうことに・・・。

3人目は息子の麦野湊くん。クラスメートの星川依里くんがいじめに遭っていると知りながらも助けられず、自責の念に駆られていたある日、星川くんと帰り道を共にしたことから、心を通わせることになる。星川くんが虐待にあっていることも知り、ますます彼を助けたくなる。やがてお互いの秘密を感じ取り・・・。

秀逸なキャッチコピー。宣伝がうまい

本作を見ていて、秀逸だなと思ったのが、キャッチコピーの「怪物だーれだ」。これがあることによって、観客が「怪物は誰だろう?」と考察するきっかけを与えられます。実際に、SNSやネット記事、映画ファンの間で、怪物は何なのか?の答えが提示されています。言葉の持つ強さを認識させられますね。

さて、いろんな考察が出回っていますが、私個人の感想としては、言葉の持つ暴力性です。もっと言うと、些細な言葉が誰かを傷つけていると言う恐さを実感しました。

「男らしくない」
「将来、結婚して、子供をもって・・・」

そんな日常的な言葉が、実は誰かを傷つけている。
自分の価値観を押し付けている。
しかも自分の放った言葉によって、誰かが最悪な行動を取ることもあるということです。

だからこそ、相手の視点に立って言葉を放つことを自制しました。

違いを受け入れることの難しさを分かっているのか?

ダイバーシティという言葉が、定着し、当たり前にように使われています。ダイバーシティとは多様性を受け入れ共存している状態を指していますが、人種や性別、宗教の異なる人々を受け入れることだけを指してはいないのだと思います。多様性とは隣にいる人との違いを認識し、受け入れつつ、時には理解できないことに絶望する。そんな厳しい現実を指しているのではないでしょうか。

たとえ血の繋がった親子であっても、息子の本当の姿を見ていなかった母親。息子・麦野湊と心を通わせることができたのが、同級生の星川くんでした。理解者は同級生しかいないこの世界で、子供2人が迎えた悲劇は、違いを受け入れようとしない社会への非難のように感じました。

違いを受け入れることは難しい(私もなかなかできません)。
でも受け入れなくてはいけない社会が目の前に迫っている。
そんな厳しい現実を見せられた映画でした。

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