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わたしの二次創作日記_6

2.突然、創作に目覚めた2020年の春

③わたし、ブクマに狂って調子にのる


私を初めてフォローしてくださった方は、山川さん(仮)という方だった。
プロフを拝見したところ「支部は、ほぼ見る専」とのことで、活動のメインはTwitterらしい。

一年あまり、ピクシブを「無料作品が読めるサイト」扱いしていた私の興味は、あくまで作品だった。ご本人に興味を抱くことは、ほぼ無く。
よって、プロフのリンクにある『鳥マーク』をクリックしたこともなかった。

そんな私だったが、いざ一つ作品を投稿しただけで、見える世界が突如変わった。
フォロワーさんご自身のことが、気になって気になって仕方なくなったのだ。

私はすぐさま、山川さんのプロフにある鳥マークをクリックした。
アイコンは、めっちゃお耽美なシンジ。
その隣の「フォロワー数」を見て、私は腰を抜かしそうになった。

「ふぁfjk@!? ふぉ、ふぉろわが1万!?!?」

彼女……噂に聞く、神絵師って方なのでは!?
わ、私、神絵師にフォローされた!?!?

握り締めすぎたスマホは熱々のホカホカで、心臓はバクバク、口はカラカラになった。

このタクシン界隈で、神絵師の山川さんにフォローされたことにより、一人、二人と。
序章しかあげてない私のアカウントに、フォロワーが増えていく……。

閲覧数、ブクマ、そしてフォロワー……。

それらが増えるのが気持ち良すぎて、一日中pixivアプリをチラチラチラチラ見るのがやめられない。

「SNSなんて時間の無駄」と、悟ってカッコつけて馬鹿にしていた私は、光の速度でSNS廃人?気味のおばさんに進化した。

会社を辞め、主婦になって早三年。
副交感神経しかないのでは!?というくらい凪いでいた私の自律神経は、超久しぶりに交感神経ギンギンモードになった。

そしてもっともっとと。
閲覧数、ブクマ、フォロワーを欲した。
この欲を満たすには、続きを早くアップするしかない。

自然、私の頭の中は処女小説の推敲で一杯になった。
目の前にいるはずの夫や子供たちは、意識の中では消えてしまい、私の心は『タクシンの萌えストーリー』に占領された。

夫が寝室で仕事をしている日中、夫が寝ている深夜。
私はひたすらスマホメモに、脳内にたぎる『タクシンの萌えストーリー』を、人差し指を使って吐き出し続けた。

結果、一週間経たずして、二話目をピクシブにアップできた。
夫が子供をお風呂に入れてくれている間に、こっそりと。
夜ゴハンをすませ、pixivアプリを立ち上げられる深夜までの時間が長すぎて、地獄だった。

深夜ジロウに授乳しながら、横目で夫が寝たのを確認した私は、pixivアプリを立ち上げて「よっしゃあ〜!」と小さくガッツポーズポーズを作った。

ブクマは、二つ。
神絵師の山川さんと、Moeさん(仮)。
Moeさんは、私の初投稿に最初のブクマをつけてくれた人だ。
読み専の人らしく、プロフには「タクシン命の固定厨」とだけある。
彼女のブクマを散々漁った私は、知っていた。
「めっちゃ趣味がいい人だ」ということを。
なんてったって、私のブクマとほぼ度被りしている。
彼女からのブクマに、私は大変な価値を感じた。

やる気がバリバリでてきた私は、めっちゃ小説を書いた。
初心者のつたない連載小説だったが、三話、四話とアップするたびにフォロワーは増えた。

それと同時に、私は山川さんのTwitterを常にチェックする「山川さんのキモオタ」に進化した。
Twitter垢がないので、pixivのリンクから常に見に行くのが日課になっていた。
Twitterは垢がないので、「フォロー」できない。pixivには、山川さんの作品は一つもないので、「いいね」ができない。
よって、こんなに大好きな癖に、なんのリアクションも起こしてなかった。我ながら不気味である。
それから、新しくフォローしてくださった方がどんな方か、逐一見に行った。
すると同じタクシン界隈で、ほぼ同じ時期に字や漫画を書き始めた方々が、ちらほらフォローしてくださってた。
そこで私も、なんとなく彼女たちをフォローした。
以下一例。

・「ゆらゆらくらげ(仮)」さん。
字書き。プロフの「えっぴなものしか、かきましぇん」の宣言通り、作品の全てがR18。
・「彗(仮)」さん。
字書き。別界隈で活動されてる方のよう。プロフの最後に「タクシンでも何か書きたいです」とある。
・「茹でブロッコリー(仮)」さん。
絵師。プロフには、ほぼ落書きの一言のみ。ひたすら鉛筆画?をあげている。
などなど……。

タクシン界隈では一人、プロデビューされてる漫画家さんがいる。
圧倒的画力とストーリー構成で、絶対神として君臨している彼女の名は……。
「如月卯月(仮)」先生。
調子に乗ってきた私は「山川さんがフォローしてくれたのだから、如月卯月先生が、私をフォローしてくれることも!?」と甘い期待を寄せたが、彼女からのフォローは、待てど暮らせどなかった。

そんなpixiv中毒な毎日を送っていたある日、日課になってる山川さんのTwitterをのぞいた私は、スマホ片手に衝撃で口を覆った。

タイムラインに、私の小説が流れていた。
更に、コメントも……。

「支部で、タクシンの小説を連載されてる作家さんがいるんだけど、そろそろ更新されそうで楽しみ。めっちゃおもしろいからみんなも読んで」と。

ぎゃあ〜〜〜〜!!!! 
わ、私が!? 
毎日ヨレヨレの服を来て、家事と子育てに疲れきってロクに化粧もしてない私が!!!!
『作家』ですって!?!?

この瞬間、こんこんと長い眠りについていた私の自我は、猛烈に揺さぶられた。
その目覚め方は、強引に肩をひっつかまれたうえ、いきなり背中をぶん殴られたくらいの衝撃だった。

こうなったら如月卯月先生のことは忘れて、なんとしても山川様に、早く続きを読んでもらいたい。

少しでも小説を書き進めたくて、今までダラダラやっていた家事も、キビキビするようになった。
なんてったって、超久しぶりの交感神経ギンギンモードである。

「私という、天才作家の作品をみんなが待ってる!(まっすぐな目)」

当時、本気でそう思っていた。
この誇大妄想は日に日に悪化した。
次第に、まだ在りもしないあらゆる「褒めシチュ」が、私の脳内を駆け巡るようになった。

コメント欄に「最高!」「萌えすぎて泣きました」「こんなタクシンを待っていた」などの褒め言葉が並ぶ。
「何これすごい」「続きを全力待機」のタグが、いつの間にかつく。
「如月卯月先生」にフォローされる。
ブクマが3桁を超えて「腐アミ100user入り」のタグがつく。
評判が評判を呼び、プロの編集者からDMが来て、私は作家デビューする……。
(同人小説を書いてて、スカウトされると本気で思っていたのが謎すぎるし怖い……)

SNSに触れることを避けて暮らしていた私は、SNS赤ちゃん。
汚れを知らぬ生まれたての自我は、ぶくぶくと健やかに肥大した。

スクスク育った誇大妄想パワーに駆られて、更に寝る間を惜しんで書くようになった。(ジロウの授乳でただでさえ眠れていないのに)
少しウトウトしだしても、謎のタクシンの夢を見ては「今の夢、小説に使える……」と目が冴えてきてしまうので、結局起きて小説を書く。

気がつけば、一ヶ月足らずで四万字〜五万字ほど、書いていた。
膨大な文字数を、スマホメモに書き殴り続けた結果、人差し指と親指は腱鞘炎気味。
首から肩はスマホいじり過ぎと、イチロウとジロウを交互に抱っこしている負荷で、ガッチガチのカッチカッチ。
だけどまだこの頃は、ドーパミン的なものがドッバドバ出ていたので、体の不調には気づいていない……。

こんな感じで、私が同人活動にうつつを抜かしている間に五月は終わっていた。
気づけば、六月も既に中旬。
世間では、緊急事態宣言が明けたことで、多少人と会いやすいムードが漂っていた。

そんなタクシン、いや山川さんとMoeさん、それからブクマとフォロワーに心の地図を占領されていた私の生活に、一石が投じられた。

「緊急事態宣言もあけたし、ノコちゃんそろそろ遊ぼうよ〜!!!!」

マイちゃんからのLINE攻撃である。
正直、面倒だった。
しかしながら、会わないことにはLINE攻撃が収まる気配がない。

そうして、六月の終わりに。
イチロウとジロウを連れた私は、いつもの公園に出かけた。マイちゃん一家と会うのは、ほぼ二ヶ月ぶりだった。

二ヶ月ぶりのマイちゃんは、ラッパーとしての腕をまた上げていて、ディスりの質も量もマシマシになってた。

早起きのご老人が、開店前のドラッグストアに並び、ハンドソープや消毒液、マスクを買い占めてること。
だんだん暑くなるというのに、まだまだマスクを強制されていること。
集まることをヨシとせず、大切な子供の健診が延期ではく、中止になったこと。
児童館や公民館で予定されていたイベントが全て中止のままなこと。
予約なしでフラッと遊びに行けていた児童館自体も、閉鎖されたままなこと。
などなど……。

「一番大変で重要なことをしている私たち子育て世代が、老人のためになんでこんなに我慢しなくちゃいけないわけ!?!?」と、マイちゃんは叫んだ。

つい先月まで、私はただの「壁」だった。
「人に怒られたくない」というつまらない動機のみで「私は『壁』です! さぁ、マイちゃん!汚物を投げて!」と自ら進んで「壁」になることを選んだ気の弱い主婦だ。
だけど、今は違う。
私は「天才作家」なのだ。
だから、初めてマイちゃんに言い返した。

「マイちゃん、実際自分の目で見たの? ご老人が近所のドラッグストアに並んでるところを。もしかして……テレビで見ただけ? そんな不確かなことで、よくそんなに怒れるね〜〜」

「壁」のまさかの反撃に、マイちゃんは大きく目を見開いた。

「私は実際、この目で見たよ。お一人様一個のみ購入のトイレットペーパーを『ワシに、二個売れ!』って、ドラッグストアの店員さんに突っかかってるおじいちゃん。だけど、我儘なおじいちゃんを一人見て、『老人って、みんな我儘だ。老人、サイテー』とは思わない。優しくて気遣いしてくれるご老人もいれば、子育て世代でもウンザリするくらい自己中な人もいるし、ね」

私の言葉に、色の白いマイちゃんの顔面は、真っ赤っかに染まった。
それからしばらくうつむいたままで、三歳の娘ちゃんの手をぎゅっと握っていた。
娘のミイコちゃん(仮)は大人しい子で、ママに寄り添って黙っていた。
ベビーカーでジロウは眠り、イチロウだけが空気を読まず「シャボン玉、だして〜」とごねた。

「『老人が我慢すればいいだけの話だ』って言う、話の内容が理解できないのかな? 時間の無駄だし……帰ろ、ミイコ」

舌打ちがでる五秒前みたいな地獄フェイス?のマイちゃんは、私たち家族に背を向けた。
ママに無理やり手を引っ張られて、ずるずる歩くミイコちゃん。
まだまだこれから遊ぶ気満々のイチロウは、ミイコちゃんにバイバイもしないで「シャボン玉〜〜」と、しつこくごねている……。

この先、マイちゃんから連絡がくることはなくなるかもしれない。
でも、それでいい。
もう、連絡しないで欲しいと切に願った。
それくらい、寂しさより肩の荷が降りて、ホッとした気持ちの方が大きかった。

マイちゃんのLINEに返事する時間、マイちゃんに会ってよくわからん話を聞かされる時間。
その時間を全て、小説を書く時間に当てられる。

邪魔が一つ、消えた。と思った。

私には、夫とイチロウとジロウ。
それから、小説。
その二つがあれば、他にはなにも、いらないから。

むしろ、他のものは全て邪魔だ。

ただ、ミイコちゃんの顔を思い出すと、重くて、苦くて、嫌な気持ちになるだけ——。

ここまで駄文を読んでくださった方は、既に「お察し」でしょう。

私の中で『日常生活』と『創作活動』の優先順位が完全に逆転してしまい、なんだかおかしなことになっていることを。
「オレは天才だーー!」状態の私に、メンタル不調フラグが、ビンビンに立ちまくっていることを。

しかし、全能感に満ち溢れていたこの頃の私が、「未来の不調」を疑うことは、微塵もなかった。

これは、二次創作をはじめて。
たったのニヶ月しか経っていない頃のお話です。

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「絶対神」には見向きもされない私が、茹でブロッコリー(仮)さん、ゆらゆらくらげ(仮)さん、彗(仮)さんの動向にイラつく
「3.メンタルがヘラった2020年の夏 ①わたし、相互フォロワーさんに苦しむ(その1)」へと続く……


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