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アキレスとんかつ

「これってさ、アキレスみたいな感じでいいわけ?」

とコドモが聞いてきました。
 
トンカツを揚げている最中です。
私は油鍋の前で、仁王立ちの最中です。
いつも「地獄のかまの番をする鬼みたいなんだよなー、これ」と思います。

油鍋の前は離れてはいけない。これ常識。

ただ立っているだけで「私は重要な任務をしている!」というエラソーな空気を醸し出せるので気に入っています。
 
油鍋の横で、12歳のコドモは「ころもをつける手伝い」をしています。
 
トンカツのころも。

まず肉に小麦粉をはたきますね。そいで、パン粉をまぶす前に、ちょいちょいと卵液につけますね。
 
この、ちょいちょいをやりながらコドモが聞くのです。
 
つまんでる指の部分には卵が付かないけどいいのか?
アキレスみたいな感じだがほんとうにいいのであるか?
 
「アキレス」とは、ご存じ「アキレス腱」の由来になっているギリシャ神話の英雄アキレスです。

アキレスは赤ちゃんの時に冥府の河の水につけられたので不死身になった。ただ、両足をもってさかさにどぶんとつけられたため、かかとのところが水に触れず、アキレス腱が弱点になってしまった。その弱点を知った敵に殺害された。
 
この話を読んだときに思いました。

てかさ、ドボンと水の中に投げ入れちゃえばよかったじゃん?
 
今は分かります。

トンカツの衣をつけるとよく分かります。
 
ドボンと卵液の中に放り入れると、めんどくさいんですね。
それをまた救出しに行かなければいけないのがたいへんに手間なんですね。
全身がびちゃびちゃだと始末が悪い。こっちも濡れるし。
つかむために乾いたところが必要です。
 
トンカツはいいのです。

我々はべつに、トンカツを不死身にするために卵液にぽちゃぽちゃつけているのではありません。大きな声では言えないけど、揚がったそばから、味見と称してハフハフと口に放り込むていたらくです。不死身も何もあったもんじゃないです。

アキレスはよくなかったに違いありません。

「オイオイオイオイ・・・・!まじか。足もつけといてくれればよかったのに。かーちゃん、頼むよー、もー」と嘆きながらこと切れたに違いない。
 
おかーさんだって忙しいんだからしょうがないでしょっ!?

と逆ギレ気味に言ってやりたい。
アキレスのおかーさん、海の女神テティスと時空を超えてがっちり握手であります。
 
アキレスに思いをはせているうちに
まぁ、こりゃ、自分の指に衣がどんどんどんどんついていくんですね。
ぷっくりしておいしそうなのが悩ましい。このまま揚げてしまいたいです。フィンガーフライ絶賛発売中です。

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