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El cuerpo / Lost body : トリックが全く読めなかった至高のスペインスリラー


スリラーというジャンルがとても好きだ。

登場人物の過去や心情の機微を隅々までプロファイリングし、起こりうる道から最悪の事象のプロセスを全て洗い、結末を脚本家よりも早く導き出せるか。

私にとって、これ以上に最高なテストはない。


久々に映画をみようと思い、Amazon Primeで評価の良かった本作をたまたま見つけた。
スペイン作品というのも目を引いた。


こんな出会いがあるのか。
結論から言って至高の2時間だった。



この手で、殺したはずの妻

英題はLost body、放題は死体失踪。


実業家であり資産家でもある女性が死んだ。
心臓発作のはずだった。

事情聴取で呼ばれた夫は、若い恋人との未来のため、完璧に妻を殺したはずだった。
しかし、妻の遺体はどこにもない。

やがて、彼女と自分しか知らないことをほのめかす文章や電話が、自分の周囲に…
果たして彼女は、今も生存しているのかー…


暗い森、静かに打ち付ける雨、古めかしい派出所。
一見真面目に見える精悍な夫に隠された秘密。
黒い革ジャンに身を包む渋い刑事たち。
TRU CALLINGで見慣れた死体安置所にどこか懐かしさを覚える。


直接的な言葉や表現を用いずに、機微や背景を伝えてくる演出がいい。

突然の映像や音で驚かせる手法を用いずに、とにかくストーリーで魅せる展開が、実にスリラーの本質を突いている。

とにかくテンポが最高なのである。
探偵モノは大体解説が口説くて時間配分が悪い。

キャラ立ちさせるものではないのだ、こういうものは。
彼らの誰もが、平然とした表情の奥に、誰にも見せない激しい動機を抱えたまま、出しぬこうと生きるその様こそが至高である。

謎も見事で、明かされていく展開に予想を深めるも、先を洗えなかった。
珠玉のコールドケースに当たったリリーのような心持ちで、あっという間の2時間だった。


少し肌寒く静かな夜にでも

終盤、一連の謎解きシーンでは涙が出た。
目的達成のレースにおいて、己が命をかけた覚悟に勝るものはない。

死体描写も流血もあるが、残酷描写に主眼を置いた作風ではないので、犯罪捜査小説を好む人であれば充分に勧められる。


スペイン語は久々に聞いたが耳あたりが良い。
間延びした作風を好まない私には、要点を噛み切るかのように端的に会話していくこの本作はとても馴染んだ。
彫りの深い美男美女ばかりで、インテリアも照明も音楽もどれをとっても自分好み。

少し寒い秋口の夜などに、ブランデーやワインなどと共に楽しみたい作品。

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