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詩日記

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日記的詩
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#日記

ホームのベンチ

ホームのベンチ

最後尾の車両に乗って、一番最後に降車して、ホームの自動販売機横にあるベンチに座って、電車が発車して降車客が改札を抜けて、次の電車が来るまでのほんの僅かな閑かさの間で、狭く暗く小さな空を見上げる。

砂浜を歩く

砂浜を歩く

捨てられた空き缶や
名前の知らない貝殻や
不思議な形の流木を
拾っては袋に入れ拾っては袋に入れ

陽は地平線から昇り
水平線へと沈みゆく

空と海は同じ青色なのに
空と海の境目が分からなくなることはない

波に乗って一本の瓶が流されてきた
蓋を開けて中身を覗くと便箋が入っていた
海石で瓶割って便箋を取り出した

便箋を開くと見たことも聞いたこともない
遠い国の言葉が書かれていた

一度便箋を閉じて

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過去の物事と感情

過去の物事と感情

冬から遠ざかるような梅雨前の初夏みたいなそれでも確かに秋である一日が終わろうとする否終わったであろう午前1時、月光に照る雲雲が南風に飄々と吹き流されている。机の上に置かれた梅酒の注がれたグラスの水中に常夜灯が反射し、橙色の暖光が揺らめく。幾度か読み込んだ幾十年前の随筆を読み始めると、明確に覚えていたはずの過去の物事と感情が少しずつ曖昧になって、沈む夕陽が夜闇に溶けていくみたいに、海馬の片隅に鎮み溶

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夜の深海

夜の深海

寝ても覚めても辺りは真っ暗闇で
日の出を待てども待てども夜は少しも明けない

幾つかの星々と
輪郭のぼんやりした朧月と
母に持たされた懐中電灯だけが光としてあるが
それ以外に光はない

北は恐怖
南は不安
東は悲嘆
西は嫌悪
四方八方囲まれ
たったの一歩すら踏み出せずに
夜の深淵に立ち尽くす

右足を小さく一歩踏み出すも
左足は付いてこない
故にやっと踏み出した右足を戻す
音ひとつ立てず夜の深海に

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時計

時計

きみと出会ったその瞬間から
ぼくの時計は止まったままで

きみと手を繋ぐことは
暗い夜を月と手を繋いで歩いているようで

きみと抱き合うことは
名もなき星屑が溢れないよう両手で抱えるようで

きみと夢を語ることは
未だ見ぬ流れ星に願いを唱えるようで

きみが十三夜のお月様に見惚れている間に
ぼくは時計の針が動かないか見つめている

元気がないし疲れた

元気がないし疲れた

とても元気があるという状態は
一年のうちで幾度かしかないが
とても疲れたという状態は
一週間のうちで幾度もある

元気である理由はわからないが
疲れる理由はよくわかる

元気でいようとすればするほど疲弊し
疲れれば疲れるほど疲れは増していく

元気があればどこかに行くけど元気はないし
疲れていればどこにも行かないのに疲れる

疲れていても元気があればいいけど
疲れていれば元気はどこにもない

元気

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公園へ

公園へ

こんなによく晴れた日は
少し遠くにある少し広い
公園へ出掛けよう

冷凍のごはんを電子レンジで温め直して
スパムとか
塩昆布とか
ツナ缶とか
棚の奥で眠っていた乾物たちを
呼び起こし
熱々のごはんで包んであげよう

水筒にたっぷりの麦茶を入れて
レジャーシートと
ハンカチと
ポケットティッシュを
リュックに詰めよう

被り慣れた帽子を被って
履き潰したスニーカー履いて
扉を開けよう

いつもより大

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