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延藤 直也
2023年11月9日 07:55
最後尾の車両に乗って、一番最後に降車して、ホームの自動販売機横にあるベンチに座って、電車が発車して降車客が改札を抜けて、次の電車が来るまでのほんの僅かな閑かさの間で、狭く暗く小さな空を見上げる。
2023年11月8日 08:24
捨てられた空き缶や名前の知らない貝殻や不思議な形の流木を拾っては袋に入れ拾っては袋に入れ陽は地平線から昇り水平線へと沈みゆく空と海は同じ青色なのに空と海の境目が分からなくなることはない波に乗って一本の瓶が流されてきた蓋を開けて中身を覗くと便箋が入っていた海石で瓶割って便箋を取り出した便箋を開くと見たことも聞いたこともない遠い国の言葉が書かれていた一度便箋を閉じて
2023年11月7日 09:19
冬から遠ざかるような梅雨前の初夏みたいなそれでも確かに秋である一日が終わろうとする否終わったであろう午前1時、月光に照る雲雲が南風に飄々と吹き流されている。机の上に置かれた梅酒の注がれたグラスの水中に常夜灯が反射し、橙色の暖光が揺らめく。幾度か読み込んだ幾十年前の随筆を読み始めると、明確に覚えていたはずの過去の物事と感情が少しずつ曖昧になって、沈む夕陽が夜闇に溶けていくみたいに、海馬の片隅に鎮み溶
2023年11月6日 08:30
寝ても覚めても辺りは真っ暗闇で日の出を待てども待てども夜は少しも明けない幾つかの星々と輪郭のぼんやりした朧月と母に持たされた懐中電灯だけが光としてあるがそれ以外に光はない北は恐怖南は不安東は悲嘆西は嫌悪四方八方囲まれたったの一歩すら踏み出せずに夜の深淵に立ち尽くす右足を小さく一歩踏み出すも左足は付いてこない故にやっと踏み出した右足を戻す音ひとつ立てず夜の深海に
2023年11月5日 08:29
きみと出会ったその瞬間からぼくの時計は止まったままできみと手を繋ぐことは暗い夜を月と手を繋いで歩いているようできみと抱き合うことは名もなき星屑が溢れないよう両手で抱えるようできみと夢を語ることは未だ見ぬ流れ星に願いを唱えるようできみが十三夜のお月様に見惚れている間にぼくは時計の針が動かないか見つめている
2023年11月4日 07:42
とても元気があるという状態は一年のうちで幾度かしかないがとても疲れたという状態は一週間のうちで幾度もある元気である理由はわからないが疲れる理由はよくわかる元気でいようとすればするほど疲弊し疲れれば疲れるほど疲れは増していく元気があればどこかに行くけど元気はないし疲れていればどこにも行かないのに疲れる疲れていても元気があればいいけど疲れていれば元気はどこにもない元気
2023年11月2日 07:40
こんなによく晴れた日は少し遠くにある少し広い公園へ出掛けよう冷凍のごはんを電子レンジで温め直してスパムとか塩昆布とかツナ缶とか棚の奥で眠っていた乾物たちを呼び起こし熱々のごはんで包んであげよう水筒にたっぷりの麦茶を入れてレジャーシートとハンカチとポケットティッシュをリュックに詰めよう被り慣れた帽子を被って履き潰したスニーカー履いて扉を開けよういつもより大