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詩日記

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日記的詩
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2024年1月の記事一覧

静かな海

雲雲から滲み出る月の淡い光が

凪の上に零れ落ちて光を受けた海全体が微かに揺れ

静かな海を沈む様に哀しみを歌う

冷める

ほんのり冷たい風が苺みたいに赤くなった頬を撫でると

ひと呼吸ごとに身体が熱を放ち

温度を失った生温い血液が全身を巡る

夜の影

等間隔に並ぶ街灯や

一定のリズムで変わり続ける信号や

すれ違う自転車のライトに照らされて

現れたり消えたり

大きくなったり小さくなったり

ひとりだったり二人や三人になったり

濃くなったり薄くなったりする

夜の影と遊びながら家へ帰る夜道で

自分が誰だったか見事に見失う

紅い種火

枯れた薔薇の木枝に紅い種火が蕾む

種火が乾いた酸素を汲む

瞬く間に炎を咲かし黒灰色の煙を放つ

周辺の草花に火の粉が舞い落ちる

とても青く澄んだ空の下で炎が燃ゆる

冬のある日のこと

秋と冬の間を歩く

頬を紅く染めた葉に見惚れて上を見上げながら、

秋陽の温もりに包まってのんびり歩いていると、

後方から背中の大きな北風に瞬く間に追い抜かれ、

歩く道は枝と繋いでいた手を離れた紅葉で溢れ、

落ちた紅葉を踏まない様に秋と冬の間をそーっとそっと歩く。

冬眠

乾燥して赤裂で荒れた手指で
羽毛布団の柔らかい温もりを握り締める

冷たい隙間風が敷き布団と
掛け布団の間を縫う様に入り込みまた出てゆく

布団の中で春が開くのを待っていると
朧げな陽光が深い闇の中に射し込む

夜に溶ける

夜にも関わらず太陽とは違う光の元に
とても明るく開けた空が広がる

向かう目的地は一歩ずつ歩む分遠のき
目的地までのの距離は変わらない

人と手を繋いだ時の温かさと
独りで居る時の冷たさが
交互に現れて交互に消える

居場所を失い目的地を見失い
此処が何処か分からず立ち竦む

マグマの様に熱く沸いた
積雪とともに夜に溶ける

信号が赤から青に変わるまでの間

真っ直ぐに上を向く

明るい夜空に小さな星々が散らばっているのが見える

湧き出る感情を言葉にしようと試みる

言葉は音を持つことなく白い息と成って瞬く間に消える

ガソリンの臭いが混じった冷たい空気を吸う

青い閃光が澄んだ冬空を射す

内側の感情

言葉に成らず内側に溜まった感情が
夜の街に迷い込んだ野良猫の様に
身体の中心から末端へ末端から中心へ
血管を通り行ったり来たりする

血液に流されながら感情は赤く塗れ黒く澱み
泥々になりそれから真っ黒な塊となり
血の流れを少しずつ止めて遂には血管を塞ぐ

ふらつく身体をなんとか支えようと手摺に捕まるも
全身が痙攣し間も無く意識が遠退き
呼吸が止まり
視界が真っ暗になる

真っ黒な塊が食道から喉元を

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個性の液体

灼熱の陽光が燦々と降り注ぐ砂漠で駱駝に乗り水を求めて歩く

しとしとと水の滴る音がするのを耳で聞きその方に目を向ける

血の混じった赤黒い液体が動脈から一滴一滴と滲み出ている

滴り落ちる液体に掌を翳し数滴掬い舐める

肉でも魚でもない知る筈のない私自身の味を舌に感じる

平和を祈る

水を汲む様に
糸を編む様に
風を薫る様に
星を見る様に
詩を読む様に
鳥を呼ぶ様に
茶を嗜む様に
葉を拾う様に
光を灯す様に
手を繋ぐ様に
真を守る様に

明日の平和を祈る

他者への祈り

望遠鏡に映る星は自分ではない他者への祈りの実像だから、毎夜誰かの為に祈りを捧げ、暗い夜空に星を、絶望の闇に希望の光を、宿すのだよ。

灰色

灰色のクレヨンを手に握り締めた少年が

黄色い銀杏や紅い陽光
真っ黒な夜空や青い炎
白い雪原や黄金の蛍火
あらゆる自然色を塗り潰す

赤ちゃんの泣き声も
若者たちの叫び声も
親子の笑い声も
亡母の歌声も
あらゆる声色を塗り潰す

世界の果てまで灰色に塗り潰した少年は
灰色の海と灰色の空の間にただ独り沈む
その姿がいつのまにか見えなくなるまで

冬の夜空

見上げれば
冬の寒空を一機の飛行機が
三日月と北極星を線で繋ぐ様に
飛ぶ

北風がひとつ吹く

また見上げると
さっき見た一機の飛行機が
オリオン座を形作る星々の間を縫う様に
飛ぶ

車のクラクションが二回鳴る

そのまま見上げ続けていると
ずっと見ていた一機の飛行機が
線香に着いた火の粉の様に
飛ぶ

三度瞬きする

見上げた夜空で
三日月は手を叩いて笑い
北極星は頬を緩めて微笑み
その間を流れ

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