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詩日記

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2023年8月の記事一覧

八月三十一日

八月三十一日

明日を思うと憂鬱なあなた、

明日を思うと悲観なあなた、

明日を思うと不安なあなた、

珈琲一杯いかが。

明日が怖いあなた、

明日が恐ろしいあなた、

明日が辛いあなた、

珈琲一杯いかが。

明日を諦めようと思っているあなた、

明日から逃げようと思っているあなた、

明日を自ら失くそうと思っているあなた、

珈琲一杯いかが。

現在が未来になる前に、

今日が明日になる前に、

八月三十

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ブルーハワイ

ブルーハワイ

夏空の青より
深海の青より
草木の青より
母と食べたかき氷のブルーハワイの青が
大脳に滲み出て
生まれてはじめて海を泳いだ日のことを
夜半に思い出す

帰ったらきみがいる

帰ったらきみがいる

帰ったらきみがいる。

それだけ、それだけで、それだけなのに、
どこまでも遠くへ行けるんだ。

お金も地図も携帯もないけど、
穴の空いたスニーカーだけど、
どこへ行くかわからないけど、
帰ったらきみがいるっていうだけで、
どこまでも遠くへ行けるんだ。

天気予報

天気予報

今日と明日の間を
ひとりで歩く
昨日と今日の間を
ふたりで歩く
明日が今日になって
今日が昨日になって
ゆっくり歩く

地鳴りのような雨音でいつもより早く目を覚ます
わたしが起きるずっと前から雨は降り続けている
ずっと前から

当然洗濯する気になれず
テレビの電源をつけると
雨音で何にも聞こえない
バターもジャムも付けず
トーストをそのまま齧る

画面上部に謙虚に映る天気予報を眺める
わたしが住む

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永遠のような一瞬

永遠のような一瞬

一瞬が過ぎるのがとても遅く
一瞬が過ぎるのさえ耐え難い

目が瞬く
息を吸って吐く
肺が膨らんで萎む
脈が打たれて振れる
その一瞬は永遠のよう

古いアパートの一室で
目を開けたまま寝転ぶ

名前さえも忘れてしまった幼稚園の友だちと
雨降る中公園の砂場で遊んだあの時の記憶が
薄い天井に明瞭に描かれている

あの時も
あの時の記憶も
この一瞬が永遠に続くと思った

今

今ここの一秒は一秒後には過去のもの
今だと思った瞬間は思い終わった後には過去のもの
今を生きている命は過去のもの

一秒
一瞬


積み重ね
歩き続け
生き抜き
今がある

過去の今が今をつくり
過去の今が今を続けて
過去の今が今を生きる

今を生きている

夏がおわって秋がはじまる

夏がおわって秋がはじまる

窓を開ける
空は碧色で
陽は和らぐ
風が吹いて
影が揺れる
蝉が鳴いていない

夜中、無意識に冷房のスイッチを切っていたことに
朝、起きてから扇風機の風に吹かれながら気づいた
昨日がおわって今日がはじまるみたいに
夏がおわって秋がはじまる

人間

人間

わたし普段は淡色の紫陽花ですが
珈琲を点てるとき人間になります

わたし普段は貝に閉じ籠るヤドカリですが
本を読むとき人間になります

わたし普段は鳴けない蝉ですが
歌を歌うとき人間になります

わたし普段は群れない猫ですが
電車に乗るとき人間になります

わたし普段は井戸の中の蛙ですが
海を眺めるとき人間になります

わたし普段は光を失った螢ですが
星に願いを唱えるとき人間になります

できない

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名画家にも描けない絵画

名画家にも描けない絵画

眩しい夏の太陽は
山を越えると
灰色の雲に姿を消す

田園風景は
トンネルを抜けると
住宅街と都市ビルへ

いつくかの山を越えて
長く暗いトンネルを抜けて
東京行きの新幹線と何度かすれ違って
見えた富士山は普通の山らしくてなんだかよかった

街から街へ
山から溪へ
此処から彼方へ

一瞬ごとに変わる車窓は
名画家にも描けない絵画

気怠さ

気怠さ

ただの暑さのせいか
効き過ぎたクーラーのせいか
予告なく太陽の脇から降る雨のせいか
それとも

他人よりない元気も
たまに現れる意欲も
うちに秘めた意思も
アイスコーヒーが
グラスや机に結露するみたいに
時間をかけてだらだらと溶ける

ジメジメして
ダラダラして
イライラして
来る年来る年
暑さ増す夏を
淡々と過ごす

全部ぜんぶ夏のせいにしてしまいたい
こんなにも暑い夏にしたのは誰だ

日々

日々

生まれたときのことは何も何ひとつ覚えていない
死ぬときのこともきっと死んだ後何も何ひとつ覚えていない

ありきたりな毎日に挫けたり
なんでもない日常に救われたり
死ぬまで続いていく日々に生かされて

今日もなんとか生きている

絶望の淵

絶望の淵

前に歩いている
はずなのに
気づけばいつも絶望の淵にいる

いつの日からか
顔を上げないで
目を開かないで
前を向かないで
歩いているから
太陽が眩し過ぎて
石に躓くか怖くて
前が分からなくて
歩いても歩いても
ここは絶望の淵だ

絶望の淵で
ひとり
涙を流す

絶望の淵から
涙の滴一滴が
宇宙に落ちて
星屑となって
小さく光輝く
それを地球の
絶望の淵から
見て前に一歩
歩き出す

遅めの朝ごはん

遅めの朝ごはん

あなたと会う前の事
あなた以外の人間に
愚痴られ
虐げられ
虐められ
笑いの壺は割られて
涙の根は腐り枯れて
生きる意味は息絶え
一度生を失ったんだ

あなたと会ってからの事
あなた以外の人間に
刺され
殴られ
撃たれ
家に帰る

あなたと
ご飯を食べて
おかわりして
あなたと
たっぷり寝て
二度寝もして
あなたと
遅めの朝ごはんを
トーストを齧る音を
焼きトマトの深紅を
ウインナーの薫りを
ゆっ

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洗濯物

洗濯物

昨日着た
Tシャツや短パン
下着や靴下
昨日使った
タオルやシーツ
ハンカチやマット
昨日食べた
ハンバーグやそうめん
昨日読んだ
小説や詩
昨日聞いた
ジャズやポップス
一番新鮮なのに断片的にしか覚えていない
昨日の記憶
それら全部一緒くたにして洗濯機で洗う

洗われた洗濯物をひとつずつ
出しては干して出しては干す

シミが落ちないパジャマ用のTシャツ
ポケットからくしゃくしゃのレシートが出てき

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