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侠客鬼瓦興業 82話「真理恵さんとめぐみちゃん」

(めぐみちゃんが・・・、めぐみちゃんが・・・)
僕は涙をポロポロと流しながら、遠ざかる彼女の後姿を見つめていた。
やがて信号が赤から青へ、それでも呆然とたたずんでいる僕にお慶さんが
「何をやってるの、早く追いかけなさい!」
「で、でも、僕は彼女を裏切ってお風呂屋さんへ」
「それでも何でも、早く追いかけて、めぐみちゃんを引き止めるのよ、どんな言い訳でもいいから、とにかく話をするの!」
「あっ、は、はい!」
お慶さんの言葉で、僕は慌てて交差点を渡っていった。 
そんな様子を見ていた女衒の栄二さんが
「あらまあ、ヨッチーちゃんもやるわねー、めぐっぺに内緒でこんなお店で有名になってるなんて、やっぱり超一流だわホホホホホホ」
奇声のような笑い声を上げながらピンクの建物の前のマライアさんを見た。

「私まずい時に出てきちゃったみたい」
「あら、マライアちゃんあんたが責任感じることじゃないわよ、男がソープに行ったくらいで、あんなに怒るめぐっぺの方がどうかしてるのよ」
「で、でも・・・」
「いいの、いいの、ホホホホホ」
「こらっ栄ちゃん!何をうれしそうに笑ってるの、早く私達もめぐみちゃんを追いかけるのよ!」
「えっ!?あたしも?」
「そうよ!あの子、すごく傷ついてるんだよ、変な事になったらどうするの?」
「変なこと?ま、まさか」
「あの、固いめぐみちゃんがあそこまで好きになった人に裏切られたのよ!鉄君、君も一緒に探しなさい!あんたにも責任あるんだから!」
「あっ…はい…!」
お慶さんはそう言うと、大急ぎで鉄と一緒に交差点を渡り始めた。 
「何で、あたしが恋敵のめぐっぺの心配なんて・・・、まったく冗談ヨシコさんだわ」
栄二さんはぶつぶつつぶやいた後、点滅する交差点を内またのおネエ走りで走っていった。
マライアさんは、そんな様子を複雑な表情で見つめていた。
「マライアさーん、送迎の車が出発しますよー!」
ピンクの建物の影からワゴン車にのったヤンキー風の男が声をかけてきた。
「あっ、はい、今行きます」
マライアさんはあわててワゴンに向かって走っていった。


そのころめぐみちゃんは、国道沿いの人気の無い静かな通りを一人歩いていた。
「バカ、吉宗君のバカ」
目に涙をためながら側道脇の薄暗いガードを潜り抜け、ふと左手を見ると、そこには彼女の町からつながる多摩川の広い景色が広がっていた。
「・・・こんなところに」
大きな川沿いには数艘の小船が静かにゆれていた。気がつくと彼女はその脇の土手にぽつんとたたずんでいた。

「約束したのに・・・、吉宗君のこと信じてたのに・・・」
「鬼瓦興業の面接ではじめて見たとき、ふっと流れた不思議な風はいったい何だったんだろう?」
「真剣に私のことを好きだって言ってくれた時の、あのキラキラした綺麗な目、あれも全部うそだったんだ」
「全部うそ、うそばっかりだったんだ・・・」
めぐみちゃんはその場にしゃがみこむと、涙をポロポロと流しながら月夜に光る川の流れを見つめていた。

それからどれくらいたったか、しばらくの間泣きつづけていためぐみちゃんは持っていたティッシュで鼻をかむと
「あ~あ、いっぱい泣いてさっぱりしちゃった」
「もういいんだ、結局彼だってみんなと同じ調子の良いただの男だったんだ。そう、風だって何だって、ただの私の思い込み、そうだ、そうだ」
そう言いながら大きく息をすうと
「考えてみると出会ってからも間もないし、あんな人なんてどうだっていいじゃん」
そう言いながら元気に立ち上がった。その時

「本当にどうだって良いの?彼のこと・・・」  
「えっ!?」
「どうだっていいなら、私がもらっちゃうよ彼」
振り返ると、そこには見覚えのあるグラマーな女性が立っていた。
「あっ!?」
「分かるかな?私のこと」 
「たしか、マライア・・・さん、ですよね・・・」
「マライアって、ここでその名前やめてくれる。私、本名は真理絵って言うんだ」
「あっ、ごめんなさい、あの、真理絵…さん、どうしてこんな所へ?」
「あなたのこと探してね、送迎のお兄さんに無理に頼んでここに来てもらったのよ」
マライアさんはそう言いながら、土手下に止まっているワゴン車を指差した。するとその運転席からガラの悪そうな男がぬっと顔を出し大声で
「マライアさーん、みんな待ってんすからねー、急いでくださいよー!」
「はいはい、すぐ行くから、ちょっと待っててー!」
マライアさんこと真里絵さんは車の男にそう言うと、ニッコリ笑いながらめぐみちゃんを見て
「女ってさ、傷つくと行くところって決まってるでしょ、公園か川が見たくなるって、あなたが向かった方角からきっとここだと思ったのよ」
「はあ・・・」
「私も嫌なことがあった時、よく来るんだ、ここ」
「あなたもですか?」
「うん、ここで静かに川の音を聞いてると、なんだかほっとするんだ。でも夜はちょっとぶっそうなんだけどね」
笑いながらそっと川を見つめた。
めぐみちゃんはそんなマライアさんのことを、不思議そうに見ていた。

「ねえ、さっきの話本当かな?」
突然マライアさんが声をかけてきた。
「えっ?さっきって」
「ほら、彼のことどうだっていいって、あれよ」
「あっ!?」
めぐみちゃんは少しあわてた後
「はっ、はい、どうでもいいです」
ムッとした顔でマライアさんを見た。 
「まあ怖い顔、そっか、やっぱり私みたいな汚れた女と関係した男なんて、汚くて駄目なんだね」
「汚れてるって!そ、そんなこと」
「いいのよ、どう思ったって、本当に汚れた商売女なんだから」
「そ、そんなこと全然思ってません!」
「あら?」
マライアさんはおどけた顔でめぐみちゃんを見た。
「本当に思ってないの?」
「はい!どんな仕事をしていたって関係ありません、それに貴方はとっても美人で綺麗な方だと思います」
「まあ、貴方も同じこと言ってくれるんだ、彼と・・・」
「彼?」
「あなたの彼氏よ、夕べ彼もそう言ってくれたのよ、私のこととっても綺麗だって」
「吉宗君が!?」
めぐみちゃんは思わず顔を真っ赤にして目をつりあげた。

「ぞ、そんな、調子のいいことを」
「えっ?」
「いい人ぶった顔して、あっちでもこっちでも、そんな調子のいいことばかり言ってたんだ、彼!」
「あっ・・・ちょっと待って、誤解しないでよ、彼の言った綺麗ってそんな意味じゃ無いわよ」
「そんな意味じゃないって?」 
マライアさんは照れくさそうに笑うと。
「彼ね、こんな仕事をしてる私の事を汚れてなんかいない、真っ白で綺麗だって、別の意味で真剣にそう言ってくれたの、それもおいおい泣きながら」
「泣きながら?」
「そうなのよ、おかしいでしょ、初めて出会った、それも商売女の私のために、真剣にぼろぼろの顔で涙をながしてくれるなんて」

めぐみちゃんは、一瞬、僕のぐしゃぐしゃの泣き顔を思い描いてプッと吹き出したあと、あわてて首を振った。
「そ、そんなの嘘の涙ですよ!そうに決まってます」
「嘘の涙?」
「彼、何かにつけてすぐに泣くんです。ただそれだけ、きっと調子のいい涙です」
「そうかな?調子のいい涙だったら、私も散々見てきたつもりなんだけど」
「えっ?」
「実はさ、私、その調子のいい男にまんまと騙されて、散々お金をみつがされて、こんな仕事する羽目になったんだ」
「・・・!?」
「最低の男だったわ・・・、無理やり売春までさせられたり・・・」
マライアさんはそう言うと、ぐっと辛そうに唇をかんで川のほとりを見つめた。そしてその瞳は涙でにじんでいた。

「ま、真理絵さん・・・」

「あっ!?ごめんね、初めて出会った貴方にまでこんな事」
「い、いえ」
「彼ね、そう吉宗君だっけ、私がついつい話してしまったそんなことを聞いて、ぼろぼろと自分のことのように泣いてくれたんだ」
「・・・・・・」
「あなたが、こんな私の言う事を信じてくれるか分からないけれど、吉宗君のあの時の涙は見せ掛けなんかじゃない、まっすぐな綺麗な涙だったよ」
「・・・・・・」
マライアさんの言葉を聞きながら、何時しかめぐみちゃんは目にもうっすらと涙が浮かび始めていた。

「めぐみちゃん・・・、だよね?」
「はい」
「彼は口先だけの男じゃないって、本当はそうじゃないって、貴方が一番わかってる事なんじゃない?」
「私が?」
「そう、だから彼のことを好きになったんでしょ、あなたも」 
「で、でも吉宗君、私に約束してくれたんです、お風呂屋さんには行かないって・・・、真剣な目で約束してくれたんです。それなのに」
めぐみちゃんはポロポロ涙を流しながらうつむいた、そんな彼女の事を見ていたマライアさんは明るい笑顔を浮かべると
「あの子、あなたとの約束破ってなんかいないよ」 
「えっ?」 
「信じられないことに彼ね、うちの店、スケート場だと思って連れられて来られたんだって」
「スケート場?」
「そう、滑りに行くって銀ちゃん達に言われて、みんなでスケートをするんだと思ってたんだって、普通じゃ考えられないけどね」
「ま、まさか・・・」
めぐみちゃんは驚きで目を丸くしながら、僕との数々の思い出を頭に描きはじめた。

「そう言えば、初めて一緒に仕事をした時も、私のことを指名手配の犯人と間違えてかばってくれようとしたことが・・・」
「指名手配!?なにそれ」
「それから、会社の面接だって、仕事内容がテキヤさんだって確認もしないで、リクルートスーツで元気いっぱいに現れたり」
「へえ、やっぱり、すごーい天然だったんだ。ははは」
「はい、他にもいろいろと・・・」

「どう?まだそれでも、私の言うこと信じられないかな」 
「あっ・・・、いいえ、確かに吉宗君だったら、そんな事もありえるかなって」
めぐみちゃんは一瞬明るい顔を取り戻した後、はっと何かを思い出して再び暗い顔にもどってしまった。
「どうしたの?またそんな顔して」 
「だって、たとえ間違えて入ったとしても、吉宗君、・・・し、したんでしょ、真理絵さんあなたと」 
「したって?あっ、ああ、あれ?」 
「あっいや、あの・・・」 
めぐみちゃんは恥ずかしそうに頬をそめた。

「やっぱり、そっちの方って気になるよね・・・」
「・・・」
うつむきながら首をコクリと縦にふった。マライアさんは一瞬いたずらな表情で笑うと
「彼すごかったわよー、激しいのなんのって、もう私もメロメロになっちゃってさ」
「メッ、メロメロー!?」
めぐみちゃんは真っ赤な顔で震えながらマライアさんを見た。

「うそよ、うそ・・・、信じられないかもしれないけれど、彼、まだチェリーボーイよ」
「えっ!ど、どうしてですか?」
「このナイスバディーの私が迫ったっていうのに、実は彼、逃げ出しちゃったのよ、失礼なやつでしょ、だから、何にも無いの・・・」
「何にもって嘘です。だって、さっき入り口で他の人たちが吉宗君と真理絵さんが廊下で裸で絡み合って立って」
めぐみちゃんは必死な顔でマライアさんを見た。 
「ああ、あれ?あれね・・・はははは」
「笑ってごまかさないでください!」
「だってさ、あれには私も参っちゃったからさ」
「参った?」 
「実はさあ・・・、思い出しても恥ずかしくなっちゃうんだけど」
マライアさんは照れくさそうに笑いながら、ハメリカンナイトでの一件を語り始めた。

「そう、たしか無理やり彼の服をぬがせて、マットプレイに入った直後」 

(駄目ですーーーーーー!!) 
「あの子、私の下で、あわててそう叫びはじめてね」 

(だめ、だめーーーー!、お風呂屋さんはダメです。絶対にダメなんですー!!) 
「大声でそう叫びながら、私から必死に逃げ出そうともがきはじめたのよ、私もびっくりしてね」 
(あーちょっと、どうしたのよ急に、そんなに動いたら危ないって!!)

「あわててバランスをとろうとがんばったんだけど、ローションだらけで、ぬるぬるの体じゃ抑えることができなくて、私達そろってマットの下の床に、ぬるーんって、からまりながら滑り落ちちゃったの」
  
(い、、痛い、ど、どうしたのよー、)
(ごめんなさーーーい、マライアさん、お風呂屋さんだけは、だめなんですーー ー!!)

 「彼ぬるぬるの身体で叫びながら、私の下から抜け出して」 
(ごめんなんさい、マライアさん!僕、帰りますーー!!)
「大声で叫んだあと、あわてて外に向かって走ろうとしたの、ところが体はローションでぬるぬる」

(あー危ない、そんな体で走ったら…) 
(うわーー!)
ぬるり~ん
ぐしゃーーー!!

「私が忠告したにもかかわらず、彼滑って転んで、床に向かって顔からダイブ」

(だから言ったのに、どうしたのよそんなに慌てて) 
(だめなんです。お風呂屋さんだけは、ダメなんです。約束なんです)

「彼ね、大声でそう叫びながら、必死にあなたとの約束を守ろうとがんばったのよ」
「よっ、吉宗くんが!?」
めぐみちゃんは目をキラキラさせながらマライアさんを見た。
「で、でも、どうして廊下で?」
「それがね、あの子ったらぬるぬるのローションまみれの身体で外に向かって走って逃げようと、がんばりはじめちゃって」

ずるーっ!!どてーー!!、ずるー!!どててー!!
「まるでローションまみれになている芸人さん見たいに、何度もこけては立ち、こけては立ち、やっとの思いで部屋の入口についたのは良いんだけど、扉の手前で足を滑らせて、扉を突き破ってぬるぬるの身体で廊下に飛び出していっちゃったの」 
「えー!?」

(あー、ちょっとお兄さんー!そんなかっこで外に出ちゃダメだってー、まってー) 

「そう言いながら慌てて追いかけたんだけど、気がつくと私の体にもぬるぬるのローションだらけで」

ぬる~
(きゃーー!!)

「扉の手前でおもいっきり仰向けに転ぶと、そのまま私まで廊下に向って飛び出してしまったの」
「まっ、真理絵さんまで!?」
「そうなのよ、おまけに私が滑っていく先にあの子がいて、私あわてて叫んだんだけど・・・」

(あー、ちょっと、どいてどいてー!)
(どわー、な、なんらーー!!)
ぶしゅあああーーー!!
(きゃあーーーーーーー)
つるぅーーーーーーーーーーーー!

「気がついた時、彼と私は廊下の端まで滑って行ってしまって、騒動を聞いたマネージャーと銀ちゃん、それに、お店の連中が出てきちゃってね」

(あー、お前、吉宗じゃねーかー!!)
(うわー、さすがは兄貴だー廊下まで使って豪快に滑っちまうなんてーー!?)
(お客様、出来ましたらマットプレーはお部屋の中でおねがいします・・・)

「マネージャーと銀ちゃんたちが驚いて見ている中、私達は廊下の隅で、ぬるぬるの体でからまりあっていた。・・・恥ずかしいけれどこれが真相よ」

マライアさんは、すべて話した後、照れくさそうに顔を手で隠した。

「そ、そんなすごい面白い事件が、くっくっくっく」
めぐみちゃんは思わず、お腹を抱えて笑い始めてしまった。
「面白いって、笑い事じゃないでしょ、あなたの彼氏のせいで私がこんなひどい目にあったんだよ…、あ~ぁ、思い出すだけでまた恥ずかしくなってくるわ」 
「ご、ごめんなさい真理絵さん、あんまりおもしろかったもんだから」 
「確かにはたから見ればコント見たいだけど、これが夕べの出来事よ、どう?信じてもらえる?」
「はいっ・・・、信じられます。吉宗君だったら、それくらいの事ありえるかなって」
「それくらいって、すごいことよ、これって」
「あっ、ごめんなさい・・・」
マライアさんはニッコリ笑うと
「普通だったら、こんな恥ずかしい目に遭わされたら、悔しくて憎んじゃうと思うけど、なぜかあの子だと許せちゃうんだよね・・・」
しずかに月夜に光る川の流れをみつめた。
めぐみちゃんはマライアさんの横顔を見ながら、何時しかいつもの明るい彼女に戻って微笑んでいた。
いつしか二人は静かに夜の川を眺めていた。

少ししてマライアさんは少しイタズラな笑顔をめぐみちゃんに向けると 
「それじゃ、もう一度伺いますけど、今の話聞いても、あんなやつ関係ないのかな?」
「えっ!?」
「関係ないって言うなら、あなたに代わって私がもらっちゃうわよ・・・、めちゃめちゃおちゃめでかわいいし、それにルックスだって私好みだしね」 
「だっ、駄目です!!」 
「あら?」
「駄目です、駄目です!吉宗君は絶対に渡しません!!」
めぐみちゃんは、真剣にそう言ったあと、楽しそうにケラケラと笑い始めた。

マライアさんはやさしく微笑むと
「そんなに大切な彼だったら早くもどってあげなさい、彼、悲しくておいおい泣いてたわよ」
「はっ、はい」
めぐみちゃんは元気にうなずくと、あわてて土手を下り再びマライアさんの事を見上げ
「あっ、ありがとう、本当にありがとうございましたー!」
深々と頭を下げると、来た道を走って戻って行った。
マライアさんはそんな彼女の後姿を静かに見つめていたが
「マライアさん、まだですかー!」
ワゴン車の中から響いてきた男の声を聞いた瞬間、ふっと暗い表情を浮かべた。

「ねえ、マライアさんってば~」

「ちょっとうるさいわね、マライア、マライアって!外でその名前呼ぶのやめてくれない」
「あっすいません。マライアさん、じゃなかった真理絵さん」
「そう、それでよろしい、お店から出ればもう私はただの一人の少女なんだからね」
「しょ、少女っすか?へへへ」
「何がおかしいのよ、ふふ」
マライアさん・・・、いや、真理恵さんはにっこり微笑むと、土手をくだって他のお姉さん達の待つワゴン車へと戻って行った。

「ねえ、真理絵ちゃんどうしたの?うれしそうな顔しちゃって、何があったの?」
ワゴンの中から一人の女性が声をかけてきた。
「えっ、あぁ、ちょっとだけ昔の幸せだったころを思い出しちゃってさ」
真理恵さんはそうつぶやくと、ワゴン車の中に乗りこんだ。

「真理絵さん、めちゃめちゃ可愛かったけど、あの子はいったい誰っすか?」
遠ざかるめぐみちゃんの後姿をじろじろ見ながら送迎の男がつぶやいた。
「誰でもいいでしょ、あんたみたいな男とは一生関係ない子よ」
「えー、ひでえなー」
男は膨れながらギアを入れると、狭い路地に向って走りはじめた。
と同時に前から一台の黄色いバスが姿を現した。

「あらー、まいったな、前からでけえのが来ちまったよ、道狭いし交わせねーな」
「あれって幼稚園のバスじゃない、ねえ、下がってあげなよ」
「ちっ、しかたねえな」
男はそう言うと、めんどくさそうにギアをバックにいれて道幅の広い元の場所までバックした。
「はーい、どうぞーって、親切だろー俺って」
そう言いながら、バスの運転手の顔を見て笑いながら手を上げた。
ところが黄色い幼稚園バスの運転手は、道を譲られながらも挨拶するどころか、ぼこぼこにはれた顔でじろっとこちらを睨みながら通り過ぎていったのだった。
「なんだよ、あの野郎、せっかく人が下がってやったのに挨拶するどころか、ガンくれて行きやがって・・・、むかつく野郎っすねー」
男はそう言いながら後ろの座席を振り返った。するとそこには、青ざめた顔で通り過ぎたバスをじっと見ている真理恵さんの姿が

「あれ、ねえ、真理絵さんどうしたんっすか?すげえ怖い顔して」 
「あ、あいつ・・・」 
「えっ?あいつって・・・、あっ!そうか、あったま来たんすね、あのバスの運転手、まったくムカつくっすよねー!」
真理恵さんは、めぐみちゃんが走って行った方角と同じ方へ走って行こうとする黄色い小鳥の絵のついた幼稚園バスをじーっと怖い顔で見ながら
「みっ、三波・・・!!」
唇を震わせながら小さな声でつぶやいたのだった。

つづく

最後まで読んでいただき、ありがとうございました^^
※このお話はフィクションです。なかに登場する団体人物など、すべて架空のものです^^

続きのお話「めぐみちゃんが危ない!」はこちらです↓

前のお話はこちら↓

ハメリカンナイト事件のお話はこちらです↓かなり過激なので心の準備を整えて読んでください^-^””↓

第一話から読んで下さる優しい方はこちら↓

侠客鬼瓦興業その他のお話「マガジン」

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