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侠客鬼瓦興業 81話「吉宗くん・・・最低!」

ここがなぜデンジャラスな場所か?
それは背後にそびえたつピンクの建物、そう僕が昨日スケート場と間違えて入ってしまった高級ソープランド『ハメリカンナイト』の前だったからなのだった。
(お慶さんと追島さん、そしてユキちゃんがまた家族に戻れる…)
その事で頭がいっぱいになっていた僕は、迫りくる不吉な影に気づくことなく、めぐみちゃんと二人手を取りあって喜んでいた。

「それじゃ急いで戻って、このこと追島さんにお話しよう、吉宗君!」
「うん、そうだね急ごう…」
「あらあらヨッチーちゃん達ずいぶんと気が早いわね、そんなに浮かれて追島ちゃんが納得しなかったら、どうするつもり?」
「え!…あっ!?」
「大丈夫よ吉宗君、その時は鬼瓦のおじちゃんとおばちゃんに相談すればいいじゃない」
「そうか!親父さんに相談すればいいのか、さすがめぐみちゃんだ」
「お慶さん、後は私達に任せてね!さあ行こう、吉宗君…」
「うん!行こう!」
僕はめぐみちゃんに微笑むと、おおはしゃぎで後ろを振り返り思わずはっとした。

(うあっ!そ、そうだった、ここ、ハメリカンナイトの前だったんだ…)

「どうしたの?吉宗君急に…」
「あっ、いやべつに、はは、ははは」
僕が作り笑いを浮かべたその時だった。
「マネージャー、お疲れさまでしたー」
「お疲れ様でーす」
ピンクの建物の中から、数名の綺麗なお姉さん達が出てきてしまったのだった。
(どわー、まずい!この中にマライアさんがいたら…)
僕はひきつった顔で彼女達を見た。が、運よくその中にマライアさんの姿は無かった。 
(ふわーよかったー、とにかく急いでこの場から離れないと)
そう考えた僕は
「さあ、めぐみちゃん急ごう!」
彼女の手を握って、そのデンジャラスゾーンからの脱出を図ろうとした。
ところが、そうはイカのちんちんタコが引っ張る。その中にいた一人のお姉さんが
「あー、君、昨日のお兄さんじゃない!」
金髪の鉄に向って、うれしそうに話しかけてきたのだった。
声をかけられた鉄も、ほっぺをピンクにしながら
「あー!キャサリンしゃーーん!」
だらしなーい顔で叫んだ。
(どわー、な、何とー!!)
ほっとしたのもつかの間、何とそのお姉さんたちの中に、鉄が夕べお世話になったキャサリンさんが…
(ま、まずいーー!)
僕はあわてて隣のめぐみちゃんを見た。
「…………??…」
そこには首をかしげながら、鉄とキャサリンさんを見ている彼女の姿が…

「あ、あの・・・、めぐみちゃん、い、急いでもどらないと…」
僕がおそるおそる声をかけると
「まって!」
めぐみちゃんは眉間にしわを寄せながら
「吉宗君、今あの人、鉄君のこと昨日のお兄さんって言わなかった?」
「えっ?あ、いや、そんなこと言ったかな?…」
「どうしたの?何で吉宗君、そんなに慌ててるわけ?」
「いや・・・、あわててる訳じゃ・・・」
「おかしいよ、何か私に隠し事してるんじゃない?」
真剣な顔を僕に向けて来た。
「あっ、いや・・・」
そんな大ピンチのさなか、キャサリンさんは鉄にとんでもない言葉を発してきた。 
「そうだお兄さん、昨日の彼は一緒じゃないの?ほら、マライアちゃんと廊下でアワ踊りした、あの面白いイケメン君」

(どわー、よりによって、ここでそんな事ー!!) 
僕はキャサリンさんに見つからないようにあわてて横を向いた。
しかし、ついに恐怖の時限爆弾、金髪の鉄が
「あー、兄貴のことっすね・・・、兄貴だったらここっすよーー!」
ドカーーン!
ついに大爆発!うれしそうに僕の事を指差してしまったのだった。
(鉄ーーーーー!!!) 
「あー!、本当だー!昨日のお兄さんだー!」
キャサリンさんは、僕を見つけてうれしそうにはしゃぎ始めると、隣にいたお姉さんたちに
「ねえ、ねえ、このお兄さんよ、さっき話した夕べの面白いお客さん」
「えー、この子ー?部屋から飛び出して全裸でマライアちゃんと絡み合ちゃった豪快な男の子って」
「キャー、何よ!かっこいいじゃない」
キャサリンさんと周りのお姉さんたちは、まるで芸能人を見つけたように僕を見てはしゃぎはじめてしまった。
(どわーーどわーーー、何てことを!!)
僕はあわてて隣のめぐみちゃんに目を移した。すると、そこには引きつった顔の彼女の姿が 
「あっ、あの、めぐみちゃん・・・」 
「そう言う事だったんだ・・・、鉄君が言った廊下で豪快に滑るって・・・」

「えっ!」 
「この中でアワだらけになって、裸の女の人と絡みあうって、そう言う事だったんだ・・・」
めぐみちゃんは体を震わせながら、ハメリカンナイトのピンクの建物を指差した。
と同時に
「マネージャー、お疲れ様でしたー」
まるで僕に止めをさすかのようにお店の中から、一人のグラマーな女性が姿をあらわしてしまった。
「ぐあーー!?」
僕はその女性を見たとたん、金縛り状態に…
「あれー!君!?」
グラマーな女性は僕に気づくと嬉しそうに笑った。そう、その女性こそ夕べ僕がお世話になった爆裂バディーのマライアさん、その人だったのだった。

(終わった・・・何もかも・・・) 
僕は、その場で真っ白な灰になってしまった。

「どうしたの?お兄さん、お仕事終わっ……あっ!?」
マライアさんは僕に近寄りながら、隣のめぐみちゃんの姿を見ておもわずハッと驚きの顔を浮かべ
「あっ!あなたも・・・、い、一緒だったの!?」
動揺しながらめぐみちゃんを見た。
「そ、そういうことだったんだ・・・、吉宗君、私のこと騙してたんだ・・・」
めぐみちゃんは目に大粒の涙をためながら、僕をにらみつけた。

「信じてたのに、私・・・吉宗君のこと信じてたのに・・・、みんなで私のこと騙してたんだ」
「ヒガフ・・・、ホヘヒア、ワヘア・・・」
必死に弁解をしようも金縛り状態の僕は、言葉出すことができなかった…
「ねえ、何よ!何言ってるんだか分からないってば!」
めぐみちゃんは、大粒の涙をぼろぼろと流し顔をぐしゃぐしゃにしながら、僕に叫んだ。しかし、僕は相変わらず・・・「はが、はが・・・」金縛り状態。
彼女はキッと怖い顔で睨むと  
「吉宗君なんて、最低ー!」
ガゴー!
持っていたポーチを思いっきり僕の顔面めがけて投げつけ、その場から走り去ってしまった。
「はー、まっへー!」
僕は必死に追いかけようとした、しかし金縛り状態の足が邪魔をして、彼女を追う事が出来なかった。

「何やってるの吉宗君!はやく追いかけなさい!」
お慶さんはそう叫ぶと
「めぐみちゃん、待ちなさい!」
僕に代わって彼女を追いかけた。
しかしめぐみちゃんが渡り切ったと同時に国道の信号は赤に…。
流れ出した車にさえぎられて、お慶さんもそこから先に進むことができなかった。

「うわー、めぐみちゃーん!」
大声と同時にやっと金縛りから開放された僕は、必死に彼女を追いかけようとした。しかし僕とめぐみちゃんを無常にも引き裂くように、国道には猛スピードで通過する車の波が途切れることなく続いたのだった。

(めぐみちゃん…めぐみちゃん…)
僕は通りすぎる車の隙間から見え隠れする、小さくなっていく彼女の後ろ姿を目で追いながらポロポロと涙をこぼしていたのだった。

つづく

今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました^^
※このお話はフィクションです。なかに登場する団体人物など、すべて架空のものです^^

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