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侠客鬼瓦興業 第56話「閻魔の娘めぐみちゃん」

まさかこんなところで、それも、めぐみちゃんが一緒にいる時にハメリカンナイトのマライアさんと再会してしまうなんて・・・

おまけにマライアさんは
「あー!?」
と大声を張り上げながら僕の顔を指さして固まってしまったのだった。

(あー!だなんて、な、何てこと!!)
僕はマライアさんを見ながら、金縛り状態に陥ってしまっていた。

「ねえ、どうしたの吉宗くん?」
めぐみちゃんは、マライアさんと僕を交互に見ながら訪ねてきた。
「はが、はが・・・」
僕はあまりの衝撃に、言葉を発することができなくなっていた。
そんな僕の異様な変化を感じ取ったのか、めぐみちゃんは
「ねえ、知ってる方なの?ねえ、ねえ、吉宗君・・・」
僕の腕をつかみ訪ねてきた。

「あー!?」
マライアさんは今度は僕の隣のめぐみちゃんの存在を知り、ふたたび大声を張り上げてしまった。

(あー!またしてもマライアさん・・・、も、もうだめだー!!) 
と、そう思った直後

「あああーーーーーー!?」

突如マライアさんの後ろにいた銀二さんが、僕とめぐみちゃんの後方を指さしながら大声で叫んだ。

「ああー、あああー、ああああーー!?」
銀二さんはそう叫びながらクリスティーヌさんに合図をした。
「え?あっ!?あー、ああーー!!」
クリスティーヌさんも銀二さんと同じ方を指差し、何故かいっしょに叫びはじめた。
「え?何、何ですか?」
めぐみちゃんは、銀二さんとクリスティーヌさんにつられて後ろを振り返った。しかしそこには大きな大木と数名の参拝客がいるだけで、別に変ったことはなかった。

「えー?なんですか銀二さん、いったいどうしたんですか?」
「あっ?あー、あああー」
銀二さんは困った顔でめぐみちゃんを見たあと、参拝客のなかにいる眼鏡に口ひげをはやしおじさんに目を止め
「あー、アントニオ古賀!!」
苦し紛れにそんな名前を叫んだ。

「え・・・、誰?」
めぐみちゃんは首をかしげ銀二さんの指す方を見たが、そこには普通の眼鏡のおじさんが歩いているだけだった。 
「ほら、あそこ、アントニオ古賀、ほら、ほら!」
銀二さんは叫びながら、今度はマライアさんの肩をつかみ、彼女の僕に向けた指先を眼鏡のおじさんの方へずらすと
「あー、あー、ほらあの眼鏡の人だよな!」
そう言いながらマライアさんに目で危機をうったえた。
「え?ああ~、アントニオ古賀、うんうん、アントニオよ~!」
マライアさんも必死にそう言葉を合わせた。

「えー?銀二さん、誰ですかー?そのアントニオ古賀って。ねえ、吉宗君は知ってる?」
めぐみちゃんは不思議そうな顔で僕を見た。
「いや、あの僕も・・・」
「なんだー?吉宗もめぐみちゃんも知らないの?その名はフジヤマのアントニオ古賀、有名な歌手だぞ~」
銀二さんはニガ笑いしながら、隣のマライアさんに
「それにしても、マライア、お前よく気がついたなー、ははははー」
眼で合図をおくると、マライアさんもとっさに
「え?ああ、うん・・・、うん」
銀二さんにうなずいた。

「それじゃ、吉宗君のことを見て驚いたんじゃなかったんですか?」
めぐみちゃんの質問にマライアさんは
「え?あ~、そうよ・・・、向こうに、アントニオ猪木・・・、じゃなかったアントニオ・・・??えーと伊集院ちゃん?」
救いを求める視線に銀二さんが
「古賀!古賀!」
「そうそう、アントニオ古賀ちゃんがいたもんだから、びっくりしちゃって」
作り笑いで答えた。

「そうだったんですか、てっきり吉宗君と何か深い関係のある方なのかな、なんて思っちゃいました。」

(ふ、深い関係!?)
僕はめぐみちゃんの深い関係という言葉に、途中までとはいえマライアさんとの濃厚な肉体関係を思い出し、思わず背筋がぞっと震え上がらせた。 

銀二さんは何やら危険な匂いを察知したのか
「そうだせっかくだからサインもらおう!」
そう言うとマライアさんとクリスティーヌさんの肩を抱きかかえ
「アントニオ古賀さーーーーん!」
叫びながら知らない眼鏡のおじさんを追いかけて、境内の入り口の方に走っていった。

(あきらかに無理があったみたいだけど・・・、た、助かったのかな・・・)
僕は銀二さんの思わぬ機転で、最大の危機を乗り越えることができたようだった。
めぐみちゃんは銀二さんと、ハメリカンナイトの二人の後ろ姿を見ながら笑顔で
「銀二さんの幼馴染の方だったんだ。二人ともすごい美人だね」
「う、うん・・・」
「特にあとから来た人すごい美人でグラマーだね、あんなセクシーな人、実は好みなんじゃない、吉宗君」
「な、な、何言ってんだよ、めぐみちゃん・・・」
「だって、あの人がこっちを見て驚いていた時、吉宗君ったらドキッとした顔で、じっと見つめ返してたでしょ」
「そ、そんなことないよ」
「いいえ、そんなことあります。その証拠に吉宗君、ずーっとしゃべることすら出来なかったじゃない」
めぐみちゃんは僕の顔を覗き込んだ。

「それは、あの・・・」 
「それは何?」
「いや、別に何でも」
「ほらやっぱり」
めぐみちゃんはぷいっと横を向いたあと、自分の体をじっと見た。
「男の子ってああいう魅力的でセクシーな人の方が、好きなんだろうなー」
「そ、そんなこと無いよ!!」
僕は大声で叫んでいた。

「そんななこと無い、男はそんなんで人を好きになるんじゃないんだー!」
「えっ?」
めぐみちゃんは僕を見た。
「それに、たとえどんなセクシーな人が現われたって、僕にとってはめぐみちゃんが一番なんだ!!」 
「・・・!!」
「めぐみちゃんが一番好きなんだぞー!!」

「よ、吉宗くん!」

めぐみちゃんは真っ赤になって僕を見つめ返した。
「あ!?」
僕も思わず口から出てしまった言葉に、恥ずかしさのあまりトマトのように真っ赤な顔で、じーっとめぐみちゃんを見つめた。

「おいおい、白昼堂々二人でラブロマンスかよ、まったく」
「え!」
振り返ると僕の後ろで銀二さんがダンボールに書かれた知らない人のサインを片手に立っていた。
「わっ銀二さん!何時の間に・・・」
「何時の間にじゃねーだろ、まったく」
銀二さんはそういって僕に近づくと
「まったく世話焼かせやがって・・・」
小声でささやきながら僕の肩をぽんとたたいた。

「さあ、それじゃ仕事仕事、吉宗たこ焼きの仕込みやるぞ!」
「はい、銀二さん!!」
僕は一難さってホッとしたのか元気に返事した。

そんな僕達を見ながら、めぐみちゃんが不思議そうに訊ねてきた。
「あの、銀二さん?」
「んっ?なんだい、めぐみちゃん」
「銀二さんの苗字って山崎なのに、なんであの人たち伊集院ちゃんって呼んでたんですか?」
「え!?」
銀二さんと僕の額から再び冷や汗が・・・

「あ、ああ~それ・・・、えーと、そうそう、俺のあだ名」
「あだ名?」
「うん、そうそう、俺ってほら、貴族みたいな顔立ちじゃん、だからガキのじぶん伊集院ちゃんってみんなから呼ばれてたんだ。ははは」
「へー、そうなんですか・・・」
「そうそう」
(さすがは銀二さんだ、見事な返し言葉・・・)
僕は尊敬の目で銀二さんを見ていた。しかしそんな銀二さんに再びめぐみちゃんが
「もう一つ聞いていいですか?」
「ど、どうぞ・・・」
「銀二さん、久しぶりに会ったんですよね、お二人と」
「あ、そ、そうだよ」
「でも、後から来た人、夕べ会ったじゃないって言ってましたけど」

「え!?」

「・・・・・・」
めぐみちゃんは無言で銀二さんを見ていた。

「いや、そ、そんなこと言ってたっけ?あいつ」
「はい」
「あー、それは、その・・・」
銀二さんがもじもじ頭を掻き始めた瞬間
「それから、クリスティーヌさんにマライアさんなんて、これもあの人たちのあだ名だったんですか?」
「え!」
「銀二さん、二人のことそう呼んでたでしょ」
めぐみちゃんは、笑顔から一転した鋭い目つきで銀二さんを見た。
(ちゃ、ちゃんと聞いてたんだ・・・、めぐみちゃん)
僕は、彼女の鋭い視線を見て、ふっとハゲ虎を思い出し
(そ、そうだった。めぐみちゃんには警視庁捜査四課、閻魔のハゲ虎の血が流れていたんだ・・・)
恐る恐る彼女を見て 
「・・・ぐお!?」
恐怖の金縛り状態になってしまった。
な、なんとめぐみちゃんは更にギラギラしたど鋭い視線を、今度は僕に向けて発していたのだった。

つづく

最後まで読んでいただきありがとうございます。
続きはこちらです↓

お話で出てきたアントニオ古賀さんはこちらです^^↓

※このお話はフィクションです。なかに登場する団体人物など、すべて架空のものです^^

前のお話はこちら↓

第一話から読んで下さる優しい方はこちら↓

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