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侠客鬼瓦興業 71話「悪鬼、西条竜一!」

「ほーう、大地主の娘と入籍か」
「は、はい、それが最近喫茶店なんてのも始めましてね・・・、もう少しだけ待っていただけたら、金利とあわせてそのお店もセットで、西条さんにお返ししますよ」
「おい三波、この話しほんまか?」
「はい、まじな話っす」
「ほーう、沢村はん、あんたも悪いやっちゃのう」 
西条は顎に手を当てながら、しばらく沢村の顔を見ると
「沢村はんも三波のそばにおったせいで、スケコマシに転職したんかいな、ははは」
「あ、いや、そんな・・・」
「まあええわい、そないな話しやったら特別や、元金は一月だけジャンプしたるわ」
「あ、ありがとうございます」
「アホ、金利はもらうで、金利は」
西条はそう言うと、今度は隣の三波を見た。

「おう、三波、ところでわれの方はどないなっとるんや?」
「えっ!?」
「え?やないやろ、ぜんぜんわいの元に銭が上がってこんが、気合い入れてやっとるんか?」
「あ、それでしたら、ははは」
三波は額から汗をたらしながら、こわばった顔で笑った。 
そんな最中、三波の背中越しに小さな子供たちの声がひびいてきた。
「あー、三波先生だー」
「三波先生ーー!」
振り返ると、そこには数名の子供たちを連れて戻ってきた、春菜先生の姿があった。

「あー、お帰りなさい春菜先生」
三波は急にさわやかな笑顔に戻ると、春菜先生に向かって大きく手を振った。
春菜先生はそれに答えるように手を振った後、西条の姿をみて、あわてて頭を下げた。同時に西条も悪鬼の顔からやさしい中年のおじさんの顔に変わっていた。

「あー、さっきの保母さんやな、お帰りなさいー、ははははー」
「あ、はい」
「ほう、さっきはチラッとしか見れんかったが綺麗な人やなー、えーと春菜先生、言うたかな?」
「いや、綺麗だなんて、そんな・・・」
「いやいや、この三波はんが惚れ込むのも分かりますわ」
春菜先生は頬をそめながら三波を見た。

「いやあ、ベッピンさんや、保母さんにしとくのはもったいないなー、どうやろ三波はん、うちにスカウトさせてもろてもええやろか?」
「ああ、はい」
「ほうか、ほうか」
西条はうれしそうに笑うと、胸ポケットから一枚の名詞を取り出して春菜先生に手渡した。
「さっきはちゃんと挨拶も出来んかったけど、私はこういう者です」
春菜先生は西条から受け取った名詞をそっと見た。

『西条芸能プロダクション』

「芸能プロダクション?」
不思議そうに西条を見る春菜先生に、隣にいた三波が声をかけた。
「春菜先生、紹介が遅れましたが、この西条さんは有名な芸能プロの社長なんですよ」
「なんやー三波はん、有名だなんてはずかしいですわー、ははははー」
「実は僕はこの西条さんのプロダクションでマネージャーをしていたことがあったんです」
「えー!三波先生がですか?」
「そうやー、腕利きマネージャーやったんですがね、どうしても子供たちが大好きや言うてな、まあ、そんなことは置いといて、春菜先生あんた本当にきれいですわ、どうやろ、うちのプロダクションで女優目指そうなんて、思わしまへんか?」 
「女優!?私がですか?」 
春菜先生は真っ赤になって首を振った。
「だめだめ、私なんて絶対無理です」
「そんなことは無い、あんさんなら絶対に一流女優になれまっせー」
「無理です、無理です、すいませんまだ仕事がありますので」
春菜先生は慌てて頭を下げると、恥ずかしそうに頬をそめながら子供たちを連れて園の中へ走っていってしまった。
西条はそんな春菜先生の後姿を、いやらしい目つきでながめたあと、三波をギロっと睨んだ。その顔はまたもとの悪鬼のそれにもどっていた。

「おう三波、春菜いうたの、あれがお前が今こましとる女やな?」
「はい、なかなかの玉でしょ西条さん」
「おう、ええのう、あれならええ値段がつくわ、で、どこまでいっとるんや?」
「それが、なかなか身持ちの硬い女でして」
「お前が、てこずっとるんか?」
「はい」
三波は恥ずかしそうにうなずいた。西条はそんな三波を冷たい目で眺めながら
「やり方が甘いのとちゃうか?ワイがこっちにいたころは、こんなにてこずりはせんかったやろ」
「は、はい」
「お前はもともとがアホやからな、よっしゃ、ちいとツラ前に出しいや」
「はい?」
「ツラやツラ、ワイの前に出し」
「あ、はい」
三波は言われるままに顔を突き出した、と同時に西条はその大きなこぶしで、三波の顔面を殴りつけた。
バキー!!  
「ぐわ、な、何するんですかー!?」
「じゃかましや!ええからだまっとれ!」
バキー!グガー!ガゴゴ!!
それから数発、西条は三波の顔面をなぐりつけた。

「うぐあ、西条さん、いたい、いたいっすよ!」 
「どや?これでばっちりやろ」
「ば、ばっちりって」
「三波、われもこれで気合いが入ったやろ、真剣にこましに専念したるぞーって、それにそのツラ見せたれば、あの姉ちゃんも泣き落せるやろ」
「泣き落しって!?」
「わからんのか?だからアホやいうねん、昔わいが教えたったやろ、あれや、あれ」
「あ、あれ?ですか」
「そうや、あれでいきい」 
「あ !は、はい」
三波は鼻血を拭き取りながら、おそるおそるうなずいた。 
西条はぼこぼこの三波の顔をうれしそうに眺めたあと、ふいに沢村に目を向けた。
「そうや、沢村はん、あんたもどうや?こないな顔でその婚約者言うのに泣きつくのも、ええ作戦やで、はははは」
「い、いや私は・・・」
沢村はあわてて後ずさりした。

そんな二人の様子を見ていた鼻血まみれの三波が、はっと何かに気がついたように目を見開いた。
「西条さん、その婚約者ですが、実はもうひとつ面白い話があるんですよ」
「おもろい話し?なんや?」
「実はそのバツイチ女ね、へへへ」 
「その女がどないした?こら三波、もったいぶらんと早く言わんかい」
「はい、その女、実は追島の野郎の別れたかみさんなんすよ」 
「何!追島だ~!?」
西条はその瞬間、まるで魔界の住人のような形相へと変わった。



そのころ、お大師さんの境内では
「兄弟ー!追島の兄弟おつかれー」
「おう、熊井の兄弟、どうだった今日は?」
「いまいちだな、最近は祭りに来る人(じん)も、減ってきてるからな」
「俺のところもだ、年々悪くなってくるな」
追島さんは、胸からタバコを取り出すと、スキンヘッドの熊井さんに差し出した。
「サンキュー、兄弟」
熊井さんはタバコに火をつけると、ふっと眉をしかめた。
「そういえば追島の兄弟、さっき俺の舎弟から聞いたんだがよ、この前の大通りで、珍しい野郎を目撃したそうだぜ」
「珍しい野郎?」
「ああ、覚えてるだろ、西条、西条竜一」
「西条竜一!?」
煙草に火をつけようとしていた追島さんの手が一瞬止まった。

「おう、通りの向かいの小さな保育園あるだろ、なんでもそこに入って行ったらしいわ」
「西条が、向かいの保育園!?」
追島さんはそうつぶやくと、しばらく怖い顔で黙り続けていた。

つづく

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※このお話はフィクションです。なかに登場する団体人物など、すべて架空のものです^^

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