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不適切な表現

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「季刊レポ」発行のメルマガ「メルレポ」2012年7~9月配信分の記事を再構成したものです。
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記事一覧

クレームは忘れた頃にやってくる

クレームは忘れた頃にやってくる

 記事を見た読者や取材先からクレームが来ることは、そう珍しくない。前回の水島新司の図版使用の件では幸いクレームはなかったが、「これ、クレーム来るかもなー」と覚悟しているときは案外来ないもので、思わぬときに思わぬところから来たりする。

 たとえば、西原理恵子さんのマンガの取材でサハリンに行ったときのこと。サハリンへは小樽空港からアエロフロートで飛んだのだが、その機体がとんでもなくボロかった。気密性

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肖像権と著作権と水島新司

肖像権と著作権と水島新司

 昔の野球マンガには、実在の選手が実名でバンバン登場していたものだ。『巨人の星』はもちろんのこと、『がんばれ!!タブチくん!!』なんてタイトルにまでしちゃってる。『タブチくん』のヒットで火がついた野球4コマブーム当時は、それこそ1軍レギュラークラスの選手はほとんど全員ネタにされていたと言っても過言ではない。

 しかし、今やそんなマンガはほぼ絶滅状態だ。プロ野球を題材にしたマンガがなくなったわけで

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このマンガがやばい!

このマンガがやばい!

 前回ご紹介した『硬派銀次郎』や『巨人の星』は、セリフの差し替えだけで済んでいるが、題材やエピソード自体が不適切として、お蔵入りになってしまった作品もある。
 有名なところでは、手塚治虫の『ブラック・ジャック』(73~83年)。「指」と題されたエピソードで、ブラック・ジャックの旧友の間久部緑郎という6本指の男が登場する。2人が出会ったのは中学時代。〈わたしもきみもみじめだったなあ/わたしは身体障害

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トルコがソープに変わった日

トルコがソープに変わった日

 トルコがソープに変わった日のことを覚えているだろうか。
 事の発端は1984年9月、一人のトルコ人青年が「愛する祖国の名前が、いかがわしい風呂屋の名前になっている」と当時の渡部恒三厚生相に直訴。それを受けて渡部氏は「貴国の風呂とは何の関係もないのに、いつの間にか俗称が使われている。いますぐ行政の力で命令することはできないが、自粛するよう呼びかける」と約束した。
 厚生省は、公衆浴場に外国の国名、

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阪神はめんどくさい

阪神はめんどくさい

 しかしまあ、何だかんだ言っても相手が出版社なら、まだマシだ。一般企業のPR誌とか、クライアントの顔色をうかがいながら作ってる媒体はもっと面倒くさい。基本的にはそういう仕事はあまりやらない。が、それに近い仕事を受けてしまったことがある。

 一部で知られているとおり、私は阪神タイガースの熱心なファンだ。どれぐらい熱心かというと、開幕からぶっちぎりで優勝した2003年、何がなんでも胴上げを生で見るぞ

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中吊りのオキテ

中吊りのオキテ

 電車に乗ると、つい見てしまう中吊り広告。雑誌、とりわけ週刊誌にとっては非常に大事な広告媒体であり、いかに読者の目を引くか、各誌しのぎを削っている。
 しかし、実はあれも何でもアリというわけじゃない。掲示に際しては鉄道会社側の審査があり、表現の変更を求められることもある。結果的に、雑誌本体の見出しと中吊りの見出しが食い違っているケースも出てくるのだ。
 この件については以前に「SPA!」で記事にし

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用字用語集の不思議

用字用語集の不思議

 校閲・校正者が一般の国語辞典とは別に“座右の書”としているのが用字用語集というやつだ。『記者ハンドブック』(共同通信社)、『朝日新聞の用語の手引』(朝日新聞出版)、『読売新聞用字用語の手引』(中央公論新社)など、いくつかの種類がある。
 国語辞典と違って、単語の意味を解説するものではない。載っているのは、漢字や送りがななど表記の基準、類語の使い分け、外来語の表記、紛らわしい法令関連用語の使い分け

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「未亡人」と「寡婦」

「未亡人」と「寡婦」

 かれこれ10年以上、朝日新聞でマンガ評を連載している(南信長名義)。アサ芸と違って老若男女幅広い読者が対象なので、紹介する作品も厳選するし、原稿もそれなりに気を使う。なるべく誰にでもわかりやすい平易な表現を心がけ、チンコマンコとかは最初から書かない。私にだって、そのぐらいの分別はあるのである。
 しかし、それでも思わぬ問題が出てくるから油断は禁物だ。

 タイ・カッブ、ニコラ・テスラなど歴史に名

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板前とサラリーマン

板前とサラリーマン

 今から四半世紀ほど前、ちょうどフリーになりたての頃に『週刊プレイボーイ』(集英社)で何度かコラムを書いたことがある。「ギャンブル特攻隊」というコーナーで、昔勤めてた会社のボーナスじゃんけん(ボーナス支給日に開催されるじゃんけん大会)の話や子供の頃の駄菓子屋のくじ(残り少なくなってたくじを友達とお金を出し合って全部買ったのに当たりが出なかった)の話なんかを書いていた。
 そこで、ある板前さんの話を

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校閲おそるべし

校閲おそるべし

 一般に、誤字脱字や語句の使い方をチェックするのが校正、それに加えて文章表現や固有名詞・事実関係の確認までするのを校閲と呼ぶ。ただし、両者の間に厳密な線引きがあるわけではなく、どこまでチェックするかはケース・バイ・ケース。中小の出版社では校正会社やフリーの校正マンに外注するのが普通だが、大手であれば社内に校閲部門を抱えていることも少なくない。
 この校閲というのが、なかなか曲者なのである。本を作る

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アサ芸用語の基礎知識

アサ芸用語の基礎知識

「隣の家の淫ら妻」などの特濃グラビアからヤクザネタ、浅草キッドの名物連載「週刊アサヒ芸能人」まで、何でもアリなイメージの「アサヒ芸能」。東日本大震災の直後に〈「深刻ブラジャー不足」被災地のオッパイを救え!〉なんて男気あふれる良記事を載せていたのも印象深い。好きか嫌いかといえば、好きな雑誌のひとつである。
 しかし、その内実は、私がこれまで仕事をしたなかでトップクラスにタブー用語の多い雑誌だった。チ

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アサ芸よ、お前もか

アサ芸よ、お前もか

 西原理恵子「まんこ」発言事件については前回書いた。が、西原氏と「まんこ」をめぐっては、その後も一悶着あったのだ。2012年7月に文春新書から『生きる悪知恵』という本が出た。仕事、家族関係、恋愛、トラブルなど、さまざまな悩みをサイバラがズバッと斬る!というもので、構成を私が担当した。その中で、西原氏は何度も「チンコ」「マンコ」という言葉を発している。が、最初に上がってきたゲラを見たら、「チンコ」が

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不適切な表現

不適切な表現

 2012年3月、漫画家の西原理恵子氏が準レギュラーとして出演していた番組「5時に夢中!」(MXテレビ)を降板させられた“事件”をご存じだろうか。原因は、生放送での「不適切発言」。西原氏自身が同年3月23日付のブログで次のように語っている。
〈今、連絡あってMXテレビもう出てくれるなってー。やだ首になったーん。先週かなんかのまんこ発言がいけなかったんだって。MXの上層部が怒ってるんだって。知らんか

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