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不適切な表現

 2012年3月、漫画家の西原理恵子氏が準レギュラーとして出演していた番組「5時に夢中!」(MXテレビ)を降板させられた“事件”をご存じだろうか。原因は、生放送での「不適切発言」。西原氏自身が同年3月23日付のブログで次のように語っている。
〈今、連絡あってMXテレビもう出てくれるなってー。やだ首になったーん。先週かなんかのまんこ発言がいけなかったんだって。MXの上層部が怒ってるんだって。知らんかったわー。MXに上層部があるなんてー〉
 当該の番組は見ていないのだが、この件を〈ま○こ発言で番組降板 漫画家西原理恵子氏〉との見出しで大々的に報じた「東京スポーツ」(3月25日付)によれば、〈表紙に牡丹の絵が描かれた本について感想を求められた西原氏は「牡丹ド真ん中、ま○こド真ん中って感じ」と発言した。(略)番組終了直前には司会の逸見太郎(39)が「先ほど不適切な発言がありました」と謝罪していた〉という。

 さて、読者の皆様は、この一件をどのように受け取られるだろうか。生放送で「まんこ」発言をしたサイバラが悪い? それぐらいで降板させるMXテレビのケツの穴が小さい? そんなことを大きく報じる東スポがすごい?

 私の感想は、そのいずれとも違う。MXテレビのことはこの際どうでもいいが、ここで言いたいのは「東スポともあろうものが、堂々と『まんこ』と書かずに『ま○こ』などと伏せ字にするとは何事か」ということだ。朝日新聞や日経新聞なら、そりゃ「まんこ」とは書きづらかろう。媒体のイメージにそぐわないし、読者層も「まんこ」なんて書いてあったら卒倒しそうな感じがする。しかし、下品がウリの東スポが「ま○こ」と伏せ字にする必要がどこにあるのか? ていうか、「まんこ」がNGで「ま○こ」ならOKっておかしくない? そもそも「まんこ」の何がそんなに“不適切”なの?

 ……とまあ、初っ端から「まんこ」を連発しているわけであるが、「メルレポ」(※)においてはおそらく伏せ字にされたりすることなく、そのまま掲載されていると思う。それは別に「メルレポ」ゆえの蛮勇ではなく、たとえば一般週刊誌である「SPA!」(扶桑社)でも「まんこ」は全然OKだ。西原氏自身も「ビッグコミックスぺリオール」(小学館)連載の『人生画力対決』でMXテレビ降板事件をネタにしていて、そこでは「まんこ」「ちんこ」という文字に加えて、便所の落書き的な絵までしっかり掲載されている。
 ようするに、「まんこ」NGというのは、明文化された規則や法律があるわけでなく、単なる自粛・自主規制にすぎないのだ。いわゆる「放送禁止用語」も同様で、テレビで「まんこ」と言ってはいけないという法律はない(もしそんな法律があるなら、西原氏は捕まってるはず)。下ネタ用語だけでなく、「キチガイ」「土方」等の言葉についても(使い方に留意する必要はあるが)絶対使ってはいけないものじゃない。にもかかわらず、「ダメなものはダメ」と根拠なく思い込んでる人が多いんだよなあ……。

 というわけで、この連載では四半世紀の編集・ライター生活における“不適切な表現”にまつわる体験談を紹介していきたいと思います。

(※「メルレポ」とは「季刊レポ」が発行していたメルマガで、現在は同誌ウェブサイトの「ヒビレポ」に引き継がれている。当記事は「メルレポ」2012年7~9月配信分を再構成してお届けします)

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