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組織開発(5):MVVからPurposeへ

MVV:ミッション・ビジョン・バリュー

多くの日本企業では企業指針としてMVV「ミッション、ビジョン、バリュー」を設定し、外部に向けても明文化しているところが多いと思います。

ミッション:企業が果たすべき日々の使命や企業としての存在意義
 ビジョン :企業として将来ありたい姿や実現したい未来
 バリュー :企業としての共通の価値観や、社員一人ひとりが
      意識する必要のある指針

banso. コラムより

上記のように数多くの書籍やコラムでMVVの紹介はされていますので、内容について深く紹介することはしませんが、MVV経営学の大家 ピーター・ドラッカーが2003年に出版した著書「ネクスト・ソサエティ」の中で、新たな課題に直面し、多様な価値観を持つ社会における多国籍企業にはミッション、ビジョン、バリューが必要であるという述べたことに由来する説が有力となっています。

変化する雇用構造、少子高齢化、情報技術(IT)の浸透、斬新な起業家精神の勃興などを軸に、今後出現する「異質なる社会」について解説する。
 新たな社会では、トップマネジメントが変わるという。組織には経済機関、人的機関、社会機関の3つの側面があり、米国の「株主主権モデル」は経済的側面を、日本の「会社主義モデル」は人的側面を重視しすぎていたと指摘。また、ドイツに象徴された「社会市場経済モデル」も、社会を安定させられなかったと分析する。
 新たな社会においては、それら3つの側面をバランスよく制御することで社会的な正統性を勝ち得た組織だけが生き残るという。

日経ビジネス 2002/06/10

それまでにも、日本企業には個社ごとに「企業理念」「社員信条」「モットー」「スローガン」など様々な言葉で企業の理念や将来像、社員の価値観などを明文化・表現してきましたが、いまではこのMVVの形で整理している企業が多いのではないでしょうか?

ただし、MVVだけが独り歩きして、もともとのドラッカーの問題提議の中で問われていた「株主(利益)」と「人的(社員)」と「社会(的責任)」バランスよく制御する理念は少し置き去りにされてきた感じがします。
2000年、そして2008年のリーマンショック以降も世界経済の好不況の荒波の中で、目先の「利益」だけを重視し、「グリード・イズ・グッド(欲望は善)」と新たなマネーゲームにひた走ってきた企業が多かったのも事実でしょう。

Purpose:パーパス

そして、2020年代に入り「パーパス」がある種のブームになってきています。私も手始めに以下の書籍を読んでみました。

著者の丹羽真理氏は「働き方」よりも重要なことは「幸せ」であり、ポジティブな感情は仕事のパフォーマンスにも影響する 。これからの企業や社員にはHappiness at Workという考え方が重要になっているとわかりやすく「パーパス・マネジメント」の背景や考え方、進め方について紹介しています。

さて、そうなるとこれまで時間をかけて制定し、自社に定着していた
「MVV」と「パーパス」の違いや整合性はどうなるんだと疑問に思うのが普通でしょう。これについてはハーバード・ビジネスレビューでBIOTOPE代表取締役社長の佐宗邦威さんがわかりやすく整理されていました。

ミッションとは、理想と現状のギャップをつなげるベクトルだとすると、そのベクトルは、二つある。
「自分たちは社会に何を働きかけたいのか」と外側にある終点に重心が置かれたものと、「自分たちは社会の中でどうありたいのか?」と内側に重心が置かれたものが。前者がパーパスであり、後者がアイデンティティ(identity)である。

ハーバード・ビジネスレビュー 2019年3月号 より

MVVのうち、ミッション(自社の使命や存在意義)で社会への働きかけや貢献に重点があれば、それが企業や社員のパーパス(目的)になりうるということのようです。
「パーパス」自社の使命や存在意義、それにより社員の達成感や自己実現、そして前回も記載した「満足度」から「幸せ」につながっているかが重要なようです。

バズワードに乗せられて、「当社も新たにパーパスを考えてみよう!」というよりは、多くの企業はいまあるMVVをもう一度、再確認してみると良いのではないでしょうか?

自利利他

さて、「自分たちは社会に何を働きかけたいのか」となると、前回も紹介した「利他」の精神につながります。
日本を代表する経営者 稲盛和男氏も自著の中で「利他の心」について語っています。

 「リーダーは、同じ会社で働く同志として、会社全体の視野に立ち、『人間として何が正しいのか』という一点をベースに判断しなければならない。自らのアメーバを守り、発展させることが前提だが、同時に会社全体のことを優先するという利他の心を持たなければアメーバ経営を成功させることはできない」

稲盛和夫著「アメーバ経営」より

ただ、ここで間違ってはいけないのは、稲盛氏も「自らの事業を維持・成長させることが前提」と言い切っていることです。

年末にSDGsの推進に積極的な企業の方とお会いした際、以下のようなお話を伺いました。

SDGsや企業の社会貢献について若手だけのチームを作ってしまうと、社会貢献だけが先に目的化してしまう。自分たちの強みは何で、自社事業を通じて、またはその延長線でどんな社会貢献ができるのか? 真剣に議論できるのは幹部や中堅以上の社員だと思う。
自分たちはNPO法人でもなければ、社外活動の一環としてのボランティア活動や以前のメセナ支援と変わらなくなってしまう。いまのSDGsの議論は企業にもっと深い反省と行動を求めているように思う。 

パーパスは自社の存在意義や働く目的の「Why」に答えてくれますが、企業活動における「What」には答えてくれません。
それが自社のValueであり、仏教精神でいうところの「自利」(自己の修行により得た功徳を自分が受けとること)なのだと思います。

自社の強みを生かして、きちんと良い製品やサービスを出し、お客様に喜んでいただき、きちんと利益も出していった上で、社会にどう貢献し還元していくかが現代の企業には問われています。
ドラッカー氏も稲盛氏も簡単ではない企業活動の本質を「パーパス」と言われる前から突いていたように思います。

さらに「パーパス経営」にご興味がある方は以下の書籍も併せて読んでみると良いでしょう。著者の一橋大学 名和高司特任教授は「志本経営」と名付け、日本企業の「こころざし」を提言しています。

さて、今年も企業経営において気になるテーマを少しずつUpしていきたいと思いますので、よろしくお願いします。

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