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両利きの経営(3):ペンローズ理論と日本企業

前回のダイナミック・ケイパビリティに続いて、今回はネット系ではなく、既存産業にいる日本企業の中で、[「知の探索」をしながら成長を続ける企業の事例・特徴について考えてみたい。

中堅企業の成功事例

戦後の日本における代表的な産業と言えるのはやはり製造業になるでしょう。最近少し元気がない電気メーカや鉄鋼、重工業などの大手企業だけでなく、準大手から中堅のBtoB企業、部品メーカが国内には数多く存在し、日本経済と日本の雇用を支えてきました。コロナ禍にあっても、彼らの中に元気な企業が最近は多いと思われませんか?

下記、「事例でみる中堅企業の成長戦略」には、そんな元気な中堅企業を紹介しています。

この本では、中小企業から中堅企業への「成長の壁」を突破した9社の事例をもとに、その戦略・戦術について解説しています。

中堅企業の「成長戦略」の方向性として以下の3つを上げ、そのいずれか、もしくはすべてを追求してきたと結論づけています。

①新顧客の開発:主力製品の新用途開発、顧客多様化戦略
②グローバル化:主力製品の海外展開、市場の多様化戦略
③新製品の開発、多角化戦略:新製品開発、新事業開発、
        バリューチェーンの川下展開、新ビジネスモデル展開など

中堅・中小企業であっても先進技術や卓越した品質を元に国内で確立した既存製品・既存マーケットに安住することなく、次の成長へと果敢に打って出ることの重要性が示唆されています。

ペンローズの「企業成長の理論」

また、本書の冒頭でティース教授のダイナミック・ケイパビリティ理論とともに紹介されていたのが、エディス・ペンローズ教授の「企業成長の理論」です。

1959年に出版された書籍で、私自身読んだことがなく、一般向けというよりは経済学者向けのかなり難解な内容のようなので、ネット上で要旨を探したところ、参議院の議員向け勉強会資料?にわかりやすいものがありました。

この要旨をよると、企業の成長には「経営者サービス:managerial service」とが「企業者サービス:entrepreneurial services」の2つの人的リソースが必要だと述べています。
つまり、50年代当時から企業には「知の深化」を担う・管理する「経営管理者」と、「知の探索」によってイノベーションを起こす「企業家、イントレプレナー」が必要だとペンローズ教授は看破していたのです。

企業成長S字

ここからは私の解釈ですが、図のように個々の製品や事業においてはS字カーブを描くため、製品が成熟期・衰退期を迎える前に次のイノベーション、新製品・新サービスを生み出していかなければならない。
企業の永続的成長(Going Concern)は決して一直線上にあるのではなく、両利きのリソースを使って、S字の波を上手に乗り換えて必要があるということなのです。

ちなみにこの要旨では、経営者サービスは順調な成長を遂げていても企業規模が大きくなるにつれて、幾何級数的に必要な(経営管理者の)人数が増えるとも述べています。つまり、大企業は得てして組織階層が深くなり、中間管理職が増えること(大企業病)について、当時から示唆していたことも驚きの一つです。

GNT (Global Niche Top)という考え方

さて、さきほどの「中堅企業の成長戦略」をさらに国レベルで選定・支援しているのが、経済産業省におけるグローバルニッチトップ(GNT)100選です。

GNT100選は2014年に第一回目の選考がされていますので、昨年が2回目ということになります。昨年の選考資料の中に下記のような「国際競争ポジションバルーンマップ」が載っていました。

これを見ると、普段、我々が見聞きする自動車や医薬品、パソコンやスマフォ、冷蔵庫やエアコンなどは世界市場規模は大きいものの、日本企業のシェアはすでに20%前後以下となっています。
一方、世界市場規模は1兆円以下(≒ニッチ市場)では、保護フィルムや半導体材料、炭素素材など普段は聴き慣れない製品において、50%以上の圧倒的なトップシェアを確立している日本企業・産業が多いことを知ることができます。

GNT産業

決して、これで日本経済・日本企業の将来を楽観視する訳ではありませんが、元気な企業、元気な産業はネット系・ベンチャー系と言われる企業だけでなく、既存産業の中にグローバルトップを走る・成長し続ける日本企業が沢山いることを忘れてはならないでしょう。

そうした企業を紹介しているのが、テレビ東京で毎週土曜日夕方に放映されている「知られざるガリバー」です。興味のある方はぜひご覧ください。
弛まぬ研究・製品開発と海外を含めた新市場へと果敢に挑んできた元気な
製造業
の話は経営を学ぶ意味でも非常に参考になります。


さて、GNT100選の選考に関わった方にお話を聞いたことがあるのですが、この政策の背景には、インダストリー4.0を始め、また、それ以前からの中堅企業(ミッテルシュタンド)に対するドイツの産業政策が参考になっているとのことでした。

日本経済や産業政策を考える意味でも、ひいては自社の事業戦略を考える上でも、米国・中国だけでなく、欧州・ASEAN・アフリカと視野を拡げることは経営実務家にとっても極めて重要ですね。

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