イノベーション(4):0→1と1→10
イノベーション事業やベンチャー企業について、最近、興味深い本を2冊読んだので、そこから得た私の感想について書いてみたいと思います。
「ベンチャー・キャピタリスト」
1冊目は、NewsPicks 副編集長の後藤 直義氏がSozo Ventures 共同創業者のフィル・ウィックハム氏と組んで、世界で注目(最強)されているベンチャーキャピタル約30社へのインタビューし、普段、実態が良く知られていないVCの世界を紹介している「ベンチャー・キャピタリスト」です。
この本で取り上げられたベンチャーキャピタリストは、ピーター・ティールや孫正義氏、モデルナを生み出したFlagship Pioneeringのヌバール・アフェヤンなど日本でも比較的有名なVC・人物だけでなく、Fintech専門のVC、環境投資に特化したVC、北欧やインド、アフリカなど地域に根差したVC、女性やLGBTQの経営者を支援するVCなど多岐に渡ります。
孫正義氏は「世界はいつも『発明家(起業家)』と『資本家(投資家)』の二つによって進化を遂げてきた」と述べられています。
まさにゼロイチ(0→1)から10倍、100倍以上の成長を遂げるユニコーン企業の経営者・候補となるベンチャー企業を千三つの中から、いかに見出し、育て上げるかがベンチャーキャピタリストたちの腕の見せ所ということになるでしょう。
こういったVCの世界、投資額ランキングで見るとやはり米国が圧倒的ですが、その後に続くのは中国、イギリス、インドとなり、日本はドイツや韓国、シンガポールやインドネシアよりも下の16位に甘んじているのは寂しい限りです。
「イノベーションの競争戦略」
2冊目は早稲田大学ビジネススクールを先般、退官された内田和成教授が
ゼミ生と行ったイノベーション研究会の成果をまとめた「イノベーションの競争戦略」です。
この本の中から象徴的なメッセージをいくつか拾い上げてみました。
まだ生まれたばかりのアーリーステージにいるベンチャー企業とVCたちが繰り広げているゼロイチの世界とは異なり、現実の(多くの)ビジネスの世界では0→10の綺麗な成長ストーリーは少なく、既存技術の応用や他社製品の模倣、横取りが常にあり、そこから消費者の「行動変容」を粘り強くもたらした企業こそが勝者になるとまとめられています。
研究された事例も豊富で、技術やサービス的には後発組であったり、レッドウォーシャンの中にいたZoomやレッドブル、メルカリやMakuake、盒馬鮮生やどうぶつの森まで多岐に渡っています。
そこから導き出された答えが「優れたイノベータは0→1ではなく、横取り」つまり、1→10が重要なんだと私は読み取りました。
違いは何なのか?
確かに我々が知っているようなユニコーン企業(0→100)は一見、華々しく見えていますが、世界の数多くのベンチャー企業のさらにほんの一握り、千三つより少ない万に一つ、それ以下の確率になるでしょう。
では、本書で紹介されているようなVC、さらに米国トップに多くのVCや年々増え続けるベンチャー投資は無謀で危険な賭け、砂漠に水を撒くようなビジネスなのでしょうか?
ここで以前にM&Aをテーマにした投稿で紹介した経済産業省の調査報告書にヒントがあると考えました。
大企業×スタートアップのM&Aに関する調査報告書 (METI/経済産業省)
ベンチャー投資が盛んな米国(たぶん他国でも)、ベンチャー企業のエグジットはIPO(0→10)中心に捉えているのではなく、多くは大企業や他企業によるM&A(売却)が占めているようです。
つまり、0→1や0→3の段階で資金力もあり、マーケットチャネルや商品展開力・ブランド力を有する企業が、M&Aにより技術革新(インベンション)を横取りして、1→10へとビジネスの花を開かせているのではないでしょうか?
ここから、ベンチャー投資が盛んな米国ではインベンター(発明者)とイノベーター(変革者)の役割分担、それぞれをサポートする仕組みが産業構造としてしっかり根付いているのではないかと考えられます。
(産学共同による連携プレーも米国は昔から上手ですね)
最近、雑誌記事や書籍でも、GAFAMはすでにイノベーティブな企業ではなく、メガベンチャー(大企業)として新たな技術やビジネスを生み出しているベンチャー企業を次々に買収して、自らの組織体に組み込むことで成長しているに過ぎないという論調をよく見かけるようになりました。
裏を返せば、超巨大企業になったGAFAMとして、これは正しい選択のように思えます。
唯一、社名までMeta(旧Facebook)に変え、自社のメタバース研究所「Facebook Reality Labs」発の技術革新成果をふんだんに盛り込んだ
メタバース・ビジネスへの全力投入が、最近のGAFAMの取り組みの中では
革新的と言えるかもしれません。
これを受けて、日本でもちょっとしたメタバース・ブームになっていますが、米国においても、Metaの取り組みについて冷ややかな声が他社から出ているようです。
Amazon役員、ザッカーバーグ全力のメタバースを失笑 | ギズモード・ジャパン (gizmodo.jp)
ちなみに、私は以前に流行ってあだ花のように消えてしまったセカンドライフの失速を見ているので、どちらかと言えば、Amazon、Snap役員の見方に一票です。
日本でアバターといえば、ゲームでは「どうぶつの森」や「スプラトゥーン」など、ビジネスでは「oVice」の方がすでに使いやすくて親しみがあり、ディズニーのデジタル・アニメのような中途半端なリアル感を持つMetaの世界・アバターは世界の多くの人たちの行動変容を呼び起こすまでには至らないのではないかと思いますが、どうでしょう?
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