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【連載小説】母娘愛 (5)

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 ベッドのサイドテーブルで、デジタル時計が、午前7時11分を刻んでいる。自分が一体どこにいるのか?まず、裕子の頭を掠めた。寝返り打ったふいに、ネックレスが首筋を流れる。先端のダイヤをつまみながら、福田と一夜を過ごした現実を納得する裕子であった。

 自分が全裸でベッドに横たわっていることに、驚愕しつつ昨夜の出来事が、途切れ途切れに蘇ってくる。

 縺れる足を引きずるようにバーから出て、ほぼ福田に抱えられるように、エレベーターで福田の部屋へ向かいながら思っていた。安っぽく軽い女に思われそうな気どりなんて、女性の扱いで手練手管を弄する福田の前では、歯が立たなくなって行く。自分に言い訳をしている裕子がいた。
 福田さんは、母の薦める男性なんだから、多分、結婚するんだから、とにかく優しいんだから、酔いを醒ますだけなんだから・・・。混濁しながらも、部屋の前でカードキーをかざす、福田の手を眺めていた自分を、あのとき帰えるべきだったと、いまさらながら責めたりもする。
「あなたは、本当に美しいお方だ!」福田の吐息が、火照った項を這わせながら放った言葉に、裕子は四十路の女が、忘れかけていたオンナに目ざめ、歓喜する憐憫さを味わっていた。
 背後から肩越しに伸びた福田の右手が、ダイヤのネックレスに絡みつつ、裕子の左乳房を直に捉え、弄るのに数秒もかからなかった。そして、その左手が最もオンナの部分に到達したころ、裕子のため息は、本人が驚くほど深いものだった。
 さては、あのカクテルに、仕込まれたのかと訝りながら、落とされていく自分を裕子は嘲笑し、さらに酔いが増していくのを愉しんでいた。
 裕子の前に回り込んだ福田は、形のいい裕子の唇を、躊躇なく、容赦なく奪っていった。

 一緒に浴びようとの福田の誘いを、「あとで・・・」と断る裕子。酔いどれながらも、かろうじて残るオンナの羞恥は、福田をより男に奮い立たせることになったのだろう。
 福田がシャワールームに消えたあと、何げなく見たテーブルの上。無造作に置かれた福田の財布から、溢れ出しそうな札束にハッとする。百枚前後の一万円札を持ち歩いているこの感覚に、これから馴染めるようになるのだろうか。将来の不安ばかりが裕子の思惑の先回りをするのだった。
「お金で買えんないものもたくさんあります」レストランで福田は言っていた。母子家庭で育ったことで、培った負けん気の強さの裏側で、父性愛への手さぐりの憧憬が、今日の福田の優しさの源なんだろう。それが、仮想通貨時代をよそに、カード決済をも避けて、現金至上主義の塊になったのだろうか。
 裕子は、酔いにまかせ徒然なるままに考えていたら、眠り込んでしまっていたようだ。「起こしてしまったようだね・・・」福田は、バスタオルで、濡れた頭を激しくぬぐい取りながら、バスローブ姿で戻ってきた。
 起き上がってシャワールームへ、向かおうとした裕子を、福田はベッドへ押し倒す。「わたし!シャワー・・・まだ・・・」裕子の言葉は、福田の激しい口づけで、意味をなさなかった。


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